表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/230

Le matin 〜Rouge〜

 ノックの音に、僕は目を覚ました。


 気付かないうちに、ソファで眠ってしまっていた。自分で思っていた以上に疲れが溜まっていたらしい。


 もう1度ノックの音。立ち上がり、ドアへと歩み寄った。

 ドアの外には、フージュが立っていた。両手にお盆を持っている。お盆の上には、質素だけど美味しそうな食事。


「おはようございます。妹さん、どうですか?」

 フージュがにっこり笑ってそう言った。自然と笑みが浮かぶ。


「おはよう、フージュ。妹は……まだ、目を覚まさない」

 その言葉に、フージュが部屋の中を覗き込む。つられて振り返り、妹の姿を視界に収めた。


 妹の顔色は、昨日よりは少し良くなっていた。それでも、まだまだ血色は良くない。しばらくは目を覚まさないだろう。


「うーん、ご飯食べた方が良いと思うんだけど……。ヴィルさん、入っていいですか?」

 頷いて、ドアの前からどいた。フージュは真っ直ぐ妹に歩み寄り、片手をかざした。強い魔力が妹の体を覆う。


 フージュの魔力が収まったとき、妹の顔色は随分と良くなっていた。


「うー、まだまだだなあ……」

 自分の手を見て悔しげに呟くフージュの非常識さにも、大分慣れてきた。


「いや、十分だよ。ありがとう。……それ、もしかして僕達の分なの?」

 テーブルに置かれた食事を目で示す。漂ってくる香りに、急に空腹が気になり出したのだ。


「はい。ノワが持って行けって。自分で運べば良いのにって思いません? 私に押しつけるだけ押しつけて、どっか行っちゃいました。ノワなら、もっとちゃんと貧血治せるのに」


 どこか不満げなフージュの言葉を聞き、僕は彼の気遣いに感謝した。今はまだ、彼と顔を合わせる気にはならない。



 ——妹を救う方法が見つかったと、つい昨日まで信じていたのだから。



「ありがたくいただくよ。妹には、目を覚ましたら食べさせるから」

「じゃあ、今ですね」


 フージュの言葉が理解できなくて、一瞬停止した。一泊後に小さな声が聞こえて、僕は弾けるように顔を上げた。


「……お兄様」


 妹が、目を覚ましていた。僕の顔を、どこか怖々と見つめている。安心させる為に笑みを浮かべて見せた。

「おはよう。気分はどう?」


 妹は当惑したような顔で、身を起こした。途端にバランスを崩す躯を、慌てて支える。

「まだ無理しない方が良い。フージュが治癒魔法をかけてくれたけど、完全には治っていないから」

「いいえ、大丈夫です」


 そういって妹は顔を上げ、フージュに目を移した。丁寧に頭を下げる。


「……ありがとうございます。随分楽になりました」

「いいえー。目が覚めたなら、朝食食べた方が良いですよ。ほら、これ。美味しいですよー。ここの人達、ご飯は拘ってたんですねえ。どれもこれも良いものばかりだって、ノワが感心してました」 

「ありがとう、いただくよ」


 差し出された盆を礼を言って受け取り、ベッドの上に置いた。


「食べようか」

「……お兄様、何も聞かないのですね」


 妹の強張った声に、僕は苦笑した。

「僕が忌避するとでも思った? たとえ餌だろうと、僕の妹であることには変わりないのに」


 妹が言葉を失ったように黙り込んだ。構わず続ける。

「……せっかく見つけた呪いを解く方法は、無駄だったかな。まあ、そのくらいだよ。弟を救えることには変わりない」

「……お兄様のお人好し」


 小さく呟いて、妹は食事を口に運んだ。その照れたような仕草が幼い頃と姿がかぶって、思わずちょっと笑ってから、僕も食事を摂り始める。



 僕達の食事が終わるのを待って、フージュは盆を受け取り、口を開いた。


「妹さんはもう少し休んだ方が良いとして、ヴィルさん、ちょっと良いですか? その、弟さん? の事ですけど、ちょっと話が聞きたいんです」



 これも使いっ走りなんですけどと口を尖らせるフージュに苦笑して、僕は頷き、妹がゆっくり出来るよう、部屋を離れる事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ