Le matin 〜Noir〜
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目が覚めると、俺はベッドに身を横たえていた。
「…………」
身を起こすと、軽く眩暈がした。さほど酷くはないので無視して、記憶を探る。
「現実……か」
慣れ親しんだ己の魔力と共に、異質なもの——妖気を感じて、溜息混じりに漏らした。
現状は俺にとって限りなく不愉快なものだったが、自分の行動には後悔していない。
ベッドから降りる。フウの気配が俺の部屋に近付くのを感じて、ドアに歩み寄り、開けた。
視線を下げると、目を丸くしたフウと視線がかち合う。
「部屋に運んだのは、お前か。きちんと依頼は果たしたろうな」
こちらから声をかけると、フウが我を取り戻した。
「ノワ、寝てなきゃ駄目だよ!」
急に間近で大声を出されて、思わず顔を顰める。
「大きな声を出すな。隣はあの兄妹だろう。起こしたら悪い」
そう言いながら、フウを部屋の中へと誘う。ドアを閉じて、防音魔法を張り巡らせた。
「魔法は——」
「あのな、もう傷も癒えているし、貧血もほぼ治まっている。この程度の魔法で疲弊する俺ではない事くらい、知っているだろう」
「そうだけどー……」
未だ釈然としない表情のフウの言葉を無視して、重ねて問いかける。
「それで? あいつは祓ったんだな?」
唇を軽く尖らせつつ、フウは頷いた。
「うん、一応ヴィルさんには見せてないよ。ノワが、トラウマになるからって言ってたし」
どうやら、一切の容赦なく切り刻んだらしい。以前に言っていた忠告をきちんと守ったことに、満足した。
あれは、まともな神経の持ち主には、とても見られたものじゃない。
「だったら、後片付けをしないとならないな。いつまでも血まみれというのも、他の化け物を呼び寄せそうだ」
「あ、それはもうやったよ。夕べ、ノワ達を運んでから」
それを聞いて確認してみると、確かに痕跡は——魔力にせよ血にせよ——一切残っていない。
「そうか、よくやった。……さて、朝食でも作るか」
昨日屋敷を探査したときに、屋敷内の大まかな見取り図は頭の中で完成させてある。厨房や食料庫の在処も、その時に頭に入れていた。
部屋を出ようとする俺を、フウが引き留めた。
「……ねえノワ、私まだ、よく分かってない。何があったの?」
真剣な顔で尋ねられて、ここ1週間ほどの記憶が一気に蘇った。怒り、憎しみ、その他あらゆる負の感情が込み上げるのを、辛うじて押さえ込む。
「大体は分かっているんだろ。……俺を祓うか? フウ」
フウははっきりと首を振った。
「ノワはノワだから。それに、ヴィルさんの妹さんも死んじゃうんでしょ? それは可哀想だよ」
「……そうか。分かった」
とりあえず頷いて、俺はこれまでのことをかいつまんで説明した。
話が終わったとき、フウはやや不満げな顔をしていた。
「……こんな事なら、もっともっと痛い思いさせてやるんだった……」
さりげなく怖い事を呟いた気がしたが、聞こえなかった事にして、厨房へと向かった。




