終宴の後に 〜Rouge〜
目の前のノワ、という青年が意識を失ったのを見て、そっと息を吐き出した。
腕の中の妹を見る。酷い貧血だろう彼女は、もう後戻りは出来ない。これから一生、彼の餌として生き続けることとなる。
……それでも、僕の妹であることは変わりがない。
思いを新たに顔を上げて——僕は、息を止めた。
「ねえ、どこに行こうとしてるの?」
フージュが、恐ろしい笑みを浮かべて、唯一生き残っていた吸血鬼に刃を向けていた。刃を向けられた相手は、強張った顔で、それでも彼女の姿に魅入っている。
「私が受けた依頼は、吸血鬼の殲滅。逃げられるとでも?」
フージュの浮かべている笑みは、久しぶりにこんなに化け物を切り刻んだと嬉しそうに言った時、彼女が浮かべた笑顔に僅かに混ざっていたものを、濃密にしたものだった。
「私ねー、普段はノワに、加減しろって言われて、我慢してるんだ。……だけど」
そういってフージュは、ゆっくりと刀を振り上げた。
「——ノワをこんな風にした貴方には、我慢なんかしない。一片たりとも残さず、切り刻んであげる」
口調すら変わって聞こえるフージュは、そこでふと動きを止め、僕を振り返った。
「あ、ヴィルさん。悪いですけど、ちょーっと目と耳を塞がせて下さいね」
言葉と同時に、僕は一切の視覚、聴覚を失った。
暗闇と無音の世界の中、彼が傷ついた時よりも更に強い血の匂いを嗅いだ僕は、背筋が凍り付いて、思わず妹を抱き寄せた。
しばらく後、不意に暖かいものが腕に触れて、びくっと震えた。暖かいものは一瞬離れて、優しく僕の腕を引いた。それに合わせて向きを変えたところで、魔法の気配を感じた。
浮遊感の後、視覚、聴覚を取り戻した。急に明るくなった視界に眩暈を覚えたけれど、そこが元居た部屋だと気付いた。
フージュが移動魔法で、僕達を部屋まで移動させたのだ。
「ちょっと待ってて下さいね」
明るい口調と共に、フージュが部屋を出て行った。間もなく戻ってきた彼女の顔には、さっきまでの空恐ろしさはなかった。
「両向こう3部屋、同じ感じでした。ノワはここで良いとして、妹さん、隣で寝かせて、私達も他の部屋で休みません?」
フージュの提案に、半分だけ賛成した。
「僕は、妹の側についておくよ」
「分かりました。じゃ、運びましょうか」
そういって、フージュが指を鳴らした。2人の躯が浮き上がり、彼は目の前のベッドに寝かされる。妹は、隣の部屋のベッドまで、真っ直ぐ運ばれていった。慌ててそれを追う。
ベッドで眠る妹は、血の気のない顔をしていたが、確かに息をしている。ゆっくり息を吐き出して、僕は傍らに立った。
「じゃ、私は反対の部屋で寝ます」
フージュがドアの外からそう言ったのを聞いて、頷いた。
「ああ、お休み」
「お休みなさーい」
そう言って、フージュはドアを閉めた。しばらくそのドアを見つめた後、僕は直ぐ側にあったソファに腰掛け、これからに思いをはせた。
これにて第1幕が終わる、という形になります。
今、第2幕の途中まで書き上がっているので、そろそろ更新頻度は落ちるかもしれません……
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