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Noir et Rouge 〜闇夜に開かれし宴〜  作者: 吾桜紫苑
第1幕 始まりの宴
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征服 〜Noir〜

「貴様、どういうつもりだ!」


 長と呼ばれていた例の吸血鬼の叫びに、俺は冷笑を返した。


「言っただろう。狩りの時間だ、と」

「我々を裏切ると、そういう事か?」

 他の吸血鬼からの問いかけに、胸が悪くなった。


「1つはっきりさせてやる。俺は、お前らなどの仲間になった覚えはない。化け物の身にした張本人たちを、俺が許すとでも思ったか」

「……愚かな。我々を殺したところで、貴様が元に戻るわけでもない」


 1番の年寄りらしき吸血鬼の呟きに、再び嗤いを貼り付けて見せた。


「そうだろうな。だから俺は、「吸血鬼を殲滅しろ」と依頼した。今向こうで暴れているのは、俺の仲間だ。あと5分と持たないんじゃないか?」

「……っ、長老、あっちへ向かってくれ!俺はこいつを何とかする!!」


 長の言葉に、長老たちは慌てたように転移魔法を発動した。——いや、発動しようとした。



「……何!?」

「転移が出来ないだと!?」



 長老たちの狼狽した声に、長が俺を睨んだ。

「何をした」

「言わなくても分かるだろう。移動魔法を無効化する結界を、この集落全体に張った。逃げることは許さない。大人しく皆殺しにされるんだな」

「貴様!」


 長老の中でも比較的若い奴が激高した様子で飛びかかってきたのを、一太刀で切り伏せた。

 血飛沫を上げて崩れ落ちる骸を燃やして、長に向かって言い放った。


「俺をさんざん虚仮にしたつけ、たっぷり払ってもらおう」

「……残念だ。ようやく手に入った、新たな同胞だったというのに」



 長の静かな言葉が、部屋に響き渡った。その、不思議なほど哀しげな瞳に、誰もが見入った。——俺以外は。



 醒めた気分で、こいつの甘さを確認する。


「過去形って事は、ようやく敵と認識したのか?」

「お前に、期待していた。だが、長として、同胞を殺した貴様を許すわけにはいかない」


 その言葉と共に、長の身から強力な妖気が流れ出した。それに合わせて、長老たちも身構える。



「契約を結び、我々と共に歩んで欲しかった。……さらばだ」



 その言葉と共に、長は一気に距離を詰めてきた。そのまま手をふるう。


「馬鹿か」


 嘲りを漏らし、刀を一閃。魔法を付加させた一撃に、奴は吹き飛んだ。折れた爪が宙を舞う。


「直線に突っ込むなんてな。俺は長物を持っているんだぞ?」

「時間稼ぎだよ、若いの!」

 長老が敵意のこもった叫びを上げて、魔法を一斉に放ってきた。長の特攻は、これの時間を稼ぐため、ということだったらしい。


 溜息をついて、刀を横に薙いだ。魔法を発動し、奴らの魔法を全て相殺する。

 爆発が起こり、濃い煙が生じた。その煙の中から、長が突っ込んでくる。魔術と物理攻撃を同時に行っており、効率は良い。


「効率だけだな、合格点は」

 右手の刀で爪を受け止め、左手で魔術を受け止めた。長の目が見開かれる。


「返すよ」

 そう言って、左手を突き出した。対象を書き換えられた魔術が長を襲う。長は血飛沫を上げて吹き飛んだ。


「昨日の怪我のダメージでも残っているのか?」

 明らかに戦闘能力の落ちている長に、見下すように言葉を投げかける。唇を噛み締めて俺を睨み付ける長は、事実、相当な妖力を消費しているように見えた。


「お前のために! 長は、お前が少しでも回復するように、治癒魔法をかけていた!! その上お前が抵抗したせいで、長は!」

「それ以上言うな。戦いで言い訳は惨めだ」


 噛み付く長老を制して、長は立ち上がった。とはいえ、既に満身創痍。全力を出す余裕は無さそうだ。


「俺が望んでもいない事で責めるとは、お前の部下は馬鹿だな」

「同胞を愚弄するな」


 強い口調で言い返し、長は腕を振った。放ちかけていた魔法が霧散する。


「便利な魔法だな。呪文干渉に近いか。もっと高度だが」

 俺の言葉を聞いた長に動揺が走った。3度見られても仕掛けを見破られないと思っていたらしい。



 昨日考えて分かった。俺の魔法が霧散したのは、放ちかけた魔法のみ。奴はおそらく、魔法の構築に干渉して無効化し、魔力を自分の物にしていたのだ。



「完成した魔法には干渉できないのが難点って所か」

「……っ」

 息を呑む吸血鬼に、ありったけの敵意を込めて言い放つ。



「俺は、お前に1番借りがある。さんざん味わった屈辱、今返してやるよ」



 言葉が終わるより早く、慎重に作り上げた魔法を放つ。途中で干渉されるなら、完成させてから放てばいい話だ。

 長もそれに気付いたらしく、咄嗟に身を翻して躱した。



 だが————



「っ!?」

『長!』



 軌道を曲げて長を捕捉した魔法が、奴の四肢の付け根を貫き、壁に磔にした。



「ぐ……ぁ……っ」


 痛みに呻きを漏らす長を見て、長老たちが一斉に襲いかかってきた。


 頭に血が上った奴らに、爆風を叩き付けた。いくら丈夫な化け物といえど、2000度の突風には耐えられない。激痛にのたうち回る化け物共を、順番に仕留める。


「貴様!」


 長が叫び、口の中で何事か呟いた。途端、俺の躯が切り裂かれた。四肢のあちこちから血が飛び散る。簡単な治癒魔法を施し、長に視線を向けた。


「やはり厄介だな。そこまで弱ってなお、お前が1番強敵だ」

「……俺は、同胞を守らねばならない」


 使命感に駆られたような言葉に、意図せず嗤いが漏れる。


「何がおかしい!」

「……いや。懐かしい言葉だ、と思ってな」



 『守る』なんて言葉、随分久しぶりに聞いた気がする。化け物を倒す仕事は基本フウと2人でだから、そんな事考えもしない。フウを守る必要はない。あいつは、ある意味俺より強い。


 その言葉の虚しさを、こいつはまだ知らないのか。これは傑作だ。よりにもよって、この吸血鬼が。何かを『守る』ことが可能だなんて、信じているとは。



 ——そんな事、この俺が許さない。



「当たり前のことを知らないお前に教えてやる。何かを『守る』なんて、夢物語だよ」



 そう言って、昨日から準備していた魔法を発動した。


「がっ……!」

 長の首に黒い紋様が浮かんだ途端、長が苦悶の表情を浮かべた。四肢の自由を奪われもがくこともできず、躯を小刻みに震わせている。


「呼吸もままならないまま、魔法は使えないだろう」

「貴様……いつ……」


 これが呪いだと一目で看破した事に、少し驚いた。


「昨日だ。不用意に俺に近付いた自分を恨むんだな。そこで大人しく張り付いて見ていろ、お前が守ろうとしたモノが、消えていくさまを」


 そう言って、首の圧迫を増やす。長の顎が上がり、苦しげな呻きが漏れる。


「長!」

「長を離せ!!」


 怒りを顕わに、長老たちが魔法を構築しながら突っ込んできた。


「やめ、ろ……、そいつ……は……っ」

 制止しようと声を絞り出す長への圧力を更に増して黙らせ、俺は奴らを迎え撃った。


 単純な魔法弾に炎や風の属性を付加させ、奴らを穴だらけにしていく。体勢を崩す奴らを刀で切り伏せ、とどめを刺した。



「…………!」



 何事か叫ぼうとしているようだが、あれだけ首が絞まっているのに話す事など出来はしない。気を失わないぎりぎりまで絞めているのだから。



 残るは、10体の長老と、長。呆気ないものだ。改めて、こんな奴らにやられた自分に腹が立つ。


長くなったので、ここで1度区切ります。

終宴まで、あと僅か。

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