胸騒ぎ 〜Rouge〜
妹が目を覚ましたのは、フージュがいなくなって10分後のことだった。
遠くから爆音が聞こえて、フージュの侵入が始まったようだとそちらの様子を窺っていると、か細い声が俺を呼んだ。
「お兄……様……?」
はっと視線をベッドにやると、妹が目を開け、僕を見ていた。
「……良かった、無事だったんだね」
やや顔色は悪いが、怪我はない。心からほっとした。
「どうして、ここに……?」
「まあ、それは話すと長いんだけど……、用件だけ言うよ。弟の、ユハナの呪いを解く方法が見つかったんだ。だから、お前が餌になる必要はない」
「え……」
目を見開いて言葉を失う妹に、笑みを浮かべて見せた。
「今、ここに来る途中で出会った子に協力してもらっているんだ。上手くいけば、一緒に帰れる」
他人任せで情けない気もするけれど、フージュと、フージュに魔法を教えたノワという人なら、きっと上手くやってくれるだろう。
「……お兄様、どうやってこの部屋に入ってきたのですか?」
固い声を出す妹に違和感を覚えながら、けれど嘘を言う必要もないので、素直に答えた。
「協力してくれてる子——フージュって言うんだけど、彼女が窓から。この部屋、その子の魔法の師匠が捕まっていたらしいね。彼が窓を開けてくれたみたいだった。ここにいたという事は、彼を知っているんだろう? 彼とフージュが、吸血鬼たちを倒すって言ってたよ」
妹の顔がさっと青くなった。慌てたように身を起こして、けれど眩暈がしたかのようにふらついた。
「どうしたんだ?」
「早く……行かないと……!」
力の無い動きで僕の手を押しのけ、妹は立ち上がった。そのままおぼつかない足取りで歩き出そうとする妹に、慌てて声をかける。
「駄目だ、フージュにここから出ないように言われている。僕は侵入者だし、フージュが騒ぎを起こしている今、出て行けば確実に敵と見なされてしまう。それに、そんなにふらふらじゃないか。何があったのか分からないけれど、寝ていなよ」
青ざめた顔で、ふらつきながら歩く妹に胸が痛んだ。吸血鬼の奴らに何をされたのか分からないけれど、妹の様子は尋常じゃない。無理をさせてはいけない事は一目瞭然だ。
「そうはいきません。フージュという人は、こう言いませんでしたか? 「吸血鬼を殲滅する」と」
妹の強い口調に、僕は驚いた。
「……どうしてそれを? 確かに、フージュはそういう依頼を、ここにいた人から受けたと聞いたけれど」
妹はぎゅっと唇を噛んだ。しばらくそのまま黙った後、覚悟を決めた目で、僕に向き合った。
——胸騒ぎが、した。
「もう手遅れです、お兄様」
それは、目の前の妹に対するものか、
「私はもう、……餌、です」
それとも、フージュの無事を気にするものか。
「それも——」
——それとも、フージュの師匠であり、
「——ここにいた少年、吸血鬼の殲滅を依頼した方の餌です」
フージュが誰よりも慕い、信頼していた、
「だから私は、行かなければなりません。彼はきっと——死ぬつもりです」
「ノワ」に対するものか。




