到着 〜Rouge〜
ようやく、吸血鬼の集落にたどり着いた。
集落は高い生け垣で囲まれ、外部からの侵入を拒んでいる。唯一ある入り口には、当然のように見張りがいた。
「どうします? まあ、この生け垣飛び越えるのが1番でしょうけど、今すぐはマズイでしょ?」
そもそも飛び越えられるのかという疑問は置いておいて、フージュの質問に頷いた。
「まだ時間も早い。昼頃が良いだろうな」
吸血鬼は、夜行性だ。早朝とも言えるこの時間は、まだ活動時間。昼の活動が鈍くなる時を狙った方が良いだろう。
「やっぱり、吸血鬼は太陽苦手ですもんねー。私は、今すぐノワに会いたいんですけど」
そう言って眉を曇らせるフージュ。彼女がこれだけ慕うのは、一体どんな人なんだろうか。
ほんの少し、胸がざわついた。
「まあ、後数時間だから。僕達も休まない?」
「……はい」
やや不服そうな顔で、それでも僕の提案に従い、フージュが馬車から浮かせていた腰を下ろした。
互いに保存食を朝食にしていると、不意にフージュが顔を上げた。
「……どうした?」
魔物かと緊張して聞くと、フージュが答えてくれた。
「……急に、ノワの魔力が強くなったんです。今なら場所、分かるかも」
そう言って、目を閉じ意識を集中させる様子を見せた。邪魔にならないよう、息を潜めてそれを見守る。
5秒ほどして、フージュは目を開けた。ある1点を指差す。
「……あそこにいる」
指差した先は、巨大な屋敷だった。
「あれ多分、中心的な場所ですよね?」
「ああ。長が住む場所だと思う」
どうしてその人がそんな所にいるのかは、謎だけれど。
「……ノワ、何があったんだろう……そんなとこで、大人しくしているような柄じゃないのに。捕まってる、のかな……」
不安げなフージュには悪いけれど、1つ思い付いたことがあった。
「ねえフージュ、悪いんだけど、妹がどこにいるかとか、探れない?」
フージュは不安そうな顔のまま、首を横に振った。
「会った事のある人の魔力じゃないと、わかんない。餌、かな? 人の気配は少なくないから、見分けがつかないです」
「そうか……」
少なからず、落胆した。助け出す効率が上がるかと思ったのだ。
「まあ、悪いけど、もう少し待ってくれ。今彼に会いに行かれると、妹を助けるのが難しくなる」
「……はい。大丈夫です、依頼ですから」
フージュが頷いた。気持ちは納得できないけど、仕方がない……、そんな表情だった。
僕達はそのまま、集落の様子を外から探りつつ、進入する方法やタイミングを話し合った。