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Noir et Rouge 〜闇夜に開かれし宴〜  作者: 吾桜紫苑
第1幕 始まりの宴
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関係 〜Rouge〜

 吸血鬼の集落が見えるようになって、丸1日。まだ、辿り着かない。


 その理由は。


「もう、うっとうしいっ!」


 次から次へと襲いかかる、化け物達のせい。



 右手の刀を逆袈裟に切り上げて、炎を召喚する。虎もどきの化け物——イリーサール、っていうらしい——の丸焼きを踏み越えてやってきた子鬼——スレイヤを、左手の刀で真っ二つに切り裂く。


 後ろをちらっと見ると、ヴィルさんも善戦していた。魔法を使って、順番良く相手を倒している。魔法に無駄はあるけど、威力はそこそこ強い。7級魔法士、って所かな。


 視線を戻すと、スレイヤとイリーサールの群れが、束になって飛びかかってくる所だった。1体ずつでは歯が立たないと分かったからだと思う。



 スレイヤの血の色は黒。これはまだ良い。問題はこいつ、イリーサールだ。



 飛びかかってきたスレイヤとイリーサールを、10体まとめて切り刻む。黒と、ヘドロのような色が飛び散った。


「うー、きーもーちーわーるーいー!」

 叫びつつ、もう面倒なので一気に魔法で吹っ飛ばした。凍り付いてぼろぼろになる化け物達。


『彼のものを燃やし尽くせ!』

 ヴィルさんの呪文が聞こえてきて振り返ると、ちょうど最後の3体を倒す所だった。



「……流石だね。100体近く来たから、どうしようかと思ったけど……」

「ヴィルさん、あいつらの血の色、何とかならないんですか!」


 ヴィルさんの感心した様子を気にする余裕もなく、大声を出した。ヴィルさんが面食らったように黙り込む。


「血って、赤じゃないですか。なんで緑とか黒とか、あげくにヘドロ色! 気持ち悪いです! 何であんな色なんですか!!」

「……いや、何でって……、魔物だからだよ。魔物が、人間と同じ血の色なわけないだろ?」

「……え」


 ヴィルさんの言葉に、どきっとした。


「……じゃあ、魔物の血の色って、赤はないんですか」

「ないわけではないよ。吸血鬼なんて、それこそ赤だ。人型を取れるほどの魔物になると、赤い血を持つことが増えるみたいだね」


 ほっとした。朱い華が散る様子を見られないと、落ち着かない。


「……フージュは今まで、赤い血の魔物しか相手をした事なかったの?」

「はい」


 答えると、ヴィルさんが驚いたような顔をした。そんなに珍しいことなのかな。前の世界では普通だったから、よく分からないけれど。


「それにしても、どうしてこんなに数が増えたんでしょうか?」

「吸血鬼の集落が近いからだよ。奴らが人に狩られないよう、守っているのさ」


 今度は私がびっくりする番だった。


「化け物が化け物を守るんですか?」

「そうだよ。吸血鬼は、特別だから」

 複雑な表情を浮かべたヴィルさんの言っている意味がよく分からなくて、首を傾げた。それを見たヴィルさんが、言葉を選ぶようにして答えてくれる。


「僕達人間は、魔物を討伐する。人を食らって生きる生き物だから、こっちが生き残るためにも必要だ。

 けど、中には無力な魔物もいる。人の身から漏れる魔力を得るだけで生きるものたち、とかね。

 だけど1部の人は、そいつらでも無差別に倒す。魔物だから、って理由でね。彼らにとって、それは理不尽な暴力だ。だから、人と不可侵条約を結べる吸血鬼に、憧れを持つのさ。奴らは、国に対して、魔物の討伐の制限を要求する事が出来る。事実、人間側もそれによってバランスを取っているんだ。どこまで倒すべきか、1つの指標となる。

 ……けど、無差別に魔物を殺そうとする祓魔師は結構多い。吸血鬼の集落に乗り込んで、全滅させようとしたり。魔物は、それを避けるため、近付く人間を全て殺そうとする。……却って、力を試したい人がここに来る原因にもなっているけど」


 ……ノワが聞いたら、何て言うか。

 吸血鬼が、魔物と人の架け橋をする。その事実だけで、ノワはこの世界ごと吹き飛ばしそうだ。


 それに。


「でもヴィルさん、妹さんを連れ出すなら、結構吸血鬼を倒すことになると思いますよ?」

「分かってる。責められる覚悟は出来てるよ」


 この答えで、勝手に吸血鬼を殺すと責められる、という事が分かった。だったらノワは、まず間違いなく責められる。多分、まだ1匹も倒してないなんて、あり得ないだろうから。


「後、多分、ノワと合流したら、あの集落の吸血鬼全滅って事になっちゃうと思います」

「……そうなの?」

「ノワの吸血鬼嫌い、凄いですから」


 吸血鬼ってだけで、依頼がなくても全部祓っちゃうくらい。しかも、普段は使わないような凄い威力の魔術で、跡形残さず。


「……良いよ。僕だって、妹を餌にしようとした奴らに、怒りはある。僕1人だから、助け出すだけで精一杯だって思っていたけれど、フージュやその人が居れば、可能なんだろう?」

「はい」


 迷い無く頷くと、ヴィルさんが苦笑した。

「凄い自信だね。でも、だからこそ、君達に任せるよ」

「はい、ありがとうございます」


 信じてくれたヴィルさんに感謝の言葉を告げて、私達は馬車へと戻った。


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