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Noir et Rouge 〜闇夜に開かれし宴〜  作者: 吾桜紫苑
第1幕 始まりの宴
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焦燥 〜Rouge〜

 妙に気が逸る。焦ってもどうしようもないって分かっているのに、それでも気が急く。

 ——まるで何かを、予感しているかのように。



「……ヴィルさん、もう少し急げませんか?」

「無理だよ。これ以上は、こいつに負荷がかかりすぎる」


 5回目の問いかけにもかかわらず、ヴィルさんは丁寧に答えてくれる。その顔は、流石に困っているけれど。


「どうしたの、フージュ? 急ぐ気持ちは分かるけど、さっきから妙に慌てているね」


 とうとう我慢しきれなくなったのか、ヴィルさんがそう聞いてきた。答えに困って、俯く。


「分かりません。何か、すっごく嫌な予感がする。こんな所に居ちゃ駄目だって、そればっかり頭に浮かんで……」

 上手く言い表せないもどかしさに、身を揺する。そうしている間も、不安が後から後から込み上げてくる。



 ノワの強さは、私が1番知っているのに。ノワなら、どんな状況でも乗り越えられるって、分かっているのに。どうしても、ノワが大丈夫だって、思えない。



 きっとこれは、最近ノワから感じる違和感も手伝っていると思う。今まで私にいろいろ教えてくれたノワは、ここ最近、何だか変だった。魔法の勉強をしてても、私と剣の稽古をしてても、どこか疲れたような雰囲気で。前と同じように目をかけてはくれるけど、それもどこか突き放すような、投げやりな感じがあって。時々ぼんやりしている時——前はそんな事、絶対無かったんだけど——は、何かを見失ってしまったかのような、力の無い目をしていた。


 そんなノワが、魔力を暴走させる程に追い詰められ、魔力の制御を失う程に動揺したら。ノワは、前のように戦い続けるだろうか。もしかしたら、棄ててしまうんじゃないだろうか。



 ノワが大事にしていたものを。ノワの周りにあったものを。……ノワの、命を。



「……大丈夫だよ、フージュ」



 心配で心配でしょうがない私に、ヴィルさんが優しく声をかけてくれた。顔を上げると、ヴィルさんは何故か半分苦笑しているような顔をしていた。


「その人、フージュより強いんだろう? この世界に、フージュ程の祓魔師なんて、ほとんどいない。フージュ以上の力があれば、大抵の魔物を倒すことが出来る。……たとえ、吸血鬼でも。だから、その人だって大丈夫だよ」

「……うん」


 優しい言葉に、素直に頷くことが出来た。何だか、急にほっとした。



 そう、ノワならきっと、大丈夫。だって、私がちゃんと出来るようになるまで、面倒見てやるって言ってたもん。絶対に見捨てたりしないって、約束してくれたもん。だから、大丈夫。



 いつの間にか不安も消えて、私はようやく、馬車に腰を落ち着けた。


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