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VS羞恥プレイ

 「あのー。本当にこれで外に行くんでしょうか」

 玄関に手をかける段になって、アンはもう一度確かめた。

「三回目だぞ。いい加減覚悟を決めろ」

 振り向いた良が、呆れ顔で彼女を見る。

「で、でも、キクちゃんをお留守番させるのも不安ですし」

「きちんと言い含めたし、餌もたんまり置いておいたから平気だろう」

 流石にドラゴンを街に連れ出す訳には行かないので、今回のキクは留守番である。

 置いて行かれることを嫌がったキクも、最初は良の服の端に噛み付いては破り噛みついては破りをしていた。

 だが良が、「帰ってきたら千回撫でてやる」と約束してやっと大人しくなった。

 もしかしたらあの子にも翻訳の魔法が効いているかしら。

 だとしても数は数えられるのか。色々と疑問は沸いたが、今はそれよりも大事がある。

「というか、個人的にはお前を一人にする方が怖い」

「わ、私を何だと思ってるんですか!?」

「暴走特急が村娘の服を着たような女」

「意味は分からないけどバカにしてますよねそれ」

「まぁ今は村娘ルックじゃないけどね」

 アンの後ろで靴を履こうとしている舞が、笑顔で告げる。

 その通り、今のアンは昨日こちらに来た時とはまるで違う格好をしていた。

 上下共に良の私物、Tシャツとジーンズというのだったかを着せられ、足にはサンダル……これは彼女も知っているが、材質がとても柔らかい物でできていた。

 しかし彼女が躊躇っている理由はそれではない。

「大丈夫だよ。ズボンなんだから、何もつけてなくても下からは覗けないって」

「や、そ、それはそうなんですけど」

 舞がフォローするが、人に言われると恥ずかしさが更に増す。

 そう、今彼女は、下着をつけていなかった。

「どうしても、下に履いちゃだめなんですか?」

「だってラインが崩れちゃうじゃない」

「という事は、今見えてるのはそのままのラインって事じゃないですか!」

「あはは、まぁお兄ちゃんのだしそんなにピッタリはしてないでしょ?」

「はい、それは確かにそうなんですけど、ぶかぶかなので今度はズリ落ちてきちゃって」

 言いながら、アンは何度目か分からないジーンズの上げ直しをした。

 サイズの合うベルトも、この家には存在しなかった為このズボンはひどく不安定である。

「腰の下の所で履けばいいんだよ。ローライズって言って流行ってるんだから」

「す、凄いんですねこっちの世界って」

「……」

 バタン。

 アンが感心していると、良は無言でドアを開け外に出て行ってしまう。

「あ、あれ、良さん?」

「お兄ちゃんには刺激が強すぎたかなー」

 何の事だろう。アンがそう思っている間に舞も彼女を追い抜き外へと出て行ってしまう。

「あ、待ってくださいよぉ!」

 仕方なく、アンも意を決して外に出た。



「あっづぅーーーーい!」

 外に出ると、いきなり舞が叫んでいる。

 アンも外に出てみて驚いた。

 この世界は、今夏真っ盛りだ。分かっていたはずだが、あのクーラーという道具に慣れすぎて、忘れていた。

 そしてこの世界においても蝉は元気なようで、外に出るとその凄まじい鳴き声が眩暈を加速させる。

 まぁ二十年も土の中にいれば、残りの一日ぐらい騒ぎたくもなるだろう。儚い蝉の寿命に免じて、アンは我慢してやることにした。

「何かこう、まとわりついてくる暑さですね」

「この国は湿度が高いからねー。アンお姉ちゃんの所は違うの?」

「まぁ、夏は暑いものだと思いますけど……こういう風にジメジメはしてません。コワリの辺りなら年中雪が降ってるんですけどね」

「……羨ましい事だな。やはりこの世界は糞ぅだ」

 同じくだれた様子でポケットに手をつっこみながら、良が呟く。

 言いながらも、何か嬉しそうである。

「一年中雪って、雪かきが大変そう……」

「雪で建物も潰れちゃいますしね。だから首都のコワリワダンではゴーレムによる除雪をしたり、道や建物を魔法で暖めたりしてるんですよ」

「へぇー」

「……お前から、初めて異世界らしい話を聞いた気がする」

 良が珍しく、目を丸くして驚いている。アンも人づてに聞いた話なのだが、彼がこう素直に驚いてくれると妙に嬉しい。

「えへん」

「そのこちら基準で妙に古臭いリアクションが異世界で流行りかはともかく、お前の功績では一切無いからな」

 胸を張るアンに無愛想に告げた後、良が歩き出す。

 アンと舞もその後に続いた。

「まぁ、せっかくだからもっと異世界の話をしていいぞ。ただし涼しい話限定だ」

 口調は仕方なく、といった感じだが、顔にはうっすらと笑顔すら浮かんでいる。

 自分の発言で彼からそれを引き出したのは初めてだ。

 嬉しくなり、アンはとっておきの話をする事にした。

「あ、じゃぁ街に現れた一匹のゾンビによってジワジワと壊滅していった大都市レグンワダンの話を……」

「か、怪談も禁止だ!」

 だが、アンがそれを話し始めた途端、良は慌てた様子で耳を塞ぎ叫んだ。

「良さんって……」

「お兄ちゃんって、たまに私でも引くぐらいあざといよね」

 魔王を目指しているとは思えない彼の醜態に、女性陣が冷えた視線を送る。

 仕方なくアンがあちらの世界での夏の快適な過ごし方、冬の風物詩などを話している内に、目的の場所に着いた。

 アンにとっては周囲の建物は皆同じように見え、道は複雑に曲がりくねり地面もずっと灰色で似たような景色に見える。

 この道を彼らがどう迷わず歩いているのかが気になったが、良が話にご満悦なようなので、自らの好奇心を満たすのは後回しにした。

「うむ、美女型スノーエレメンタルの抱き枕か! 俺も魔王になった暁には是非使用しよう!」

 ご満悦になったのは涼しくなったからなのかしら。思いながらもアンは目の前の建物を見つめた。

 家が五つほど積みあがったような高い建物である。先ほどまでもこういった物(舞はビルと呼んでいた)はあったが、これは横にも長い。

 まるで家のお化けのようだと、アンは思ったが、良は怖がっていないようだ。

 アンが見上げている間に、良が正面にあるガラスに向かう。

「危ない!」

 きっと良さんは抱き枕で頭がいっぱいになってそれが見えていないのだ。

 アンは慌てて声を上げたが。

「ん? 何がだ」

 グオーと静かな音を立てて、ガラスのほうが良を避けてぱっくりと左右に割れた。

「ほぇー。魔王ともなるとガラスが避けて通るんですねー」

「いや、アレただの自動ドアだからね」

 感心するアンに、後ろから舞がツッコミを入れた。

 自動ドアとな、と、アンもそのガラスの前に近づいてみると、確かにそのガラスが自分を左右に避けるではないか。

 離れてみると、閉まる。

 しゃがんで近づくが開く。

「良さん! これ凄いですよ良さん!」

「五歳児かお前は! 良いから早く入れ!」

「アンお姉ちゃん、周りの目もあるから後でね」

 舞も流石に恥ずかしそうにして、アンの背中を押す。

 周囲を見ると、確かに他の人間が何事かとこちらを見ている。

 そういえば、王都クマルワダンに初めて来た人間は、入り口にいる人間に調教された警備用の偽竜ワイバーンを竜だと勘違いし、慌てたり逃げ出したりする事があるらしい。

 あぁ、これってそれと同じなのか。

 そう合点がいくと、アンも赤面し、こそこそと中に入る。

 左右を見回すと、人々が何かを食べていると思えば、隣では靴が売っている。

 そういえば、自分は買い物をしにきたのだった。という事は、ここは様々な店の集まりなのだろう。

 それとも室内でする市のようなものか。

 アンはそう当たりをつけた。

「キョロキョロするな。まったく……」

 注目を受けた所為か、不機嫌になった良がアンを叱る。

 だが、振り向いたその顔が、ばっと一点を見たかと思えば、すぐに前へと戻される。

「良さん? えーと、まずは何処へ行きましょう」

「まずは下着かな。ていうかブラ。早急に」

 後ろにいた舞が、良の代わりに答える。彼は耳が赤く染まっていた。

「え、ブラってなんですか?」

「アンお姉ちゃん、ごめんね」

「はい?」

「そのTシャツ、透けてる」

「透け……ええぇ!?」

 彼女が自らの体を見下ろすと、そこには汗で張り付き透けた白いTシャツがあった。

 あれ、さっき私色んな人に見られたよね。という事はもしかしてその人達にも……。

「……み、み、みら、みらみらみら」

「ちょっとお姉ちゃん!? 気をしっかり!」

 店内は、あのクーラーという代物のおかげで大分涼しい。

 しかしアン自身の体温はぐっと上がって頭を煮立てさせ、外にいたとき以上の汗を彼女に流させたのであった。

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