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VSプール

「良さーん! 舞さーん!」

 焼け付くような日差しの中。アンは手を振って二人を呼んだ。

「はしゃぐな。余計暑くなる……」

「まぁ、初プールなら、仕方がないよ」

 遅れて良と舞が付いてくる。冷房に慣れきった二人の体では、この暑さは辛いようだ。

 兄妹は同じようにぐったりとした様子である。

 プールという場所に行こう、と言い出したのは舞だった。

 アンはその場所の事をよく知らなかったが、聞けば暑さも吹き飛ぶ場所らしい。

 二週間ぶりの遠出という事もあって、ワンピースに麦藁帽子という格好のアンの気持ちは弾んでいた。

「で、どっちに行けばいいんでしょう!?」

「そこだそこ! そこで止まれ! 何で目的地も知らんくせに先導しようとする!?」

 目的地を通り過ぎそうになったアンを、良が止めた。

 何故と聞かれても、夏の陽気のせいとしかアンには答えられない。

 言われた通り足を止めると、そこは周囲を壁で囲まれた大きな建物であり、中からは楽しそうな歓声が聞こえる。

「ほれ、とりあえず券売機で入場券を買うぞ」

 言いながら、良が建物の入り口の脇にある機械に硬貨を入れる。

「あ、それ私やりたいです!」

「ほんっとうに子供だなお前は」

 アンがハイハイと手を上げると、良が呆れた顔をしながら脇に退いた。

 アンがやって良いらしい。

 意気揚々と機械の前に行くと、良が横から指示を出す。

「まずそこの女二人男一人ボタンを押せ。それから高校生二枚と小学生一枚だ。……いや、お前は中学生で良いか」

 良が自分の体を下から上まで眺めてからそんな事を言うので、意味はよく分からないが高校生を二枚買う。

「あ、コラ中学生ボディ!」

 出てきた券に、良が悲鳴のような声を上げる。やはり意味は分からないが不名誉な事を言われている気がする。

「良いじゃない。五十円しか違わないんだし」

 後ろから舞の手が伸びて来、出てきたチケットを分けた。

 受け取ったアンの手を取ると、舞は彼女を入り口へと引っ張っていく。

「やれやれ」

 振り返るアンを、良がため息をつきながら見送っていた。



 入り口で券を渡すと、そのまま奥の更衣室と書かれた部屋へ進む舞。

 彼女に連れられアンが中へ入ると、沢山の女性が服を脱いでいる最中だった。

 公衆浴場で見慣れた風景ではあるが、いきなり出会うとぎょっとする。

「あれ、これから行くのってお風呂なんですか?」

「んー、水風呂?」

 言いながら、舞は奥へと進んでいく。

 そして途中で曲がると、彼女は正方形の箱が集まった鉄製の棚の前に止まった。

 舞はそこで鞄を開けると、ついてきたアンに何かを手渡す。

「はい。アンお姉ちゃんの水着。えへへ、私のお小遣いで買っちゃった」

 言いながら、舞は照れ笑いを浮かべた。

「えぇ、わざわざ買ってくれたんですか!?」

「うん! お小遣い残ってなかったからあんまり高いのは買えなかったけど」

 広げてみると、まるで姉の服のような胸当てと下着の組み合わせである。

 周りを見ると、幾人か同じような格好をしている女性がいた。

「こ、これを着て良さんと合流するんでしょうか?」

「うん、そうだけど?」

 恐る恐る尋ねると、舞はあっさりと頷く。アンは姉と違い、そういった格好にはある程度抵抗を持つ方である。

 もっと正直に言ってしまえば、恥ずかしい。

「あの、やっぱり嫌、かな?」

 躊躇っていると、舞が上目遣いでアンを不安そうに見上げていた。

「い、いえ、この世界ではこれが普通なんですよね! だったら大丈夫です!」

 彼女が少ないお小遣いで自分にプレゼントをしてくれたのだ。嫌なはずがない。

 そうだ、ここではこれが普通なのだ。

 アンが自分に言い聞かせて握り拳を作ると、舞は笑顔で頷いた。

「じゃ、着替えよ」

 そう言って、服を脱いでいく。

 決意を固めたアンも、それでも少し恥らいながら同じように服を脱いでいった。

「さー、今日は泳ぐぞー」

 早くも全裸になった舞が、伸びをしながら宣言する。

「え、泳ぐ?」

 彼女の言葉を聞き、こちらはまだ下着姿のアンは硬直した。

「プールって場所はもしかして、泳ぐ所なんですか?」

「え、言わなかったっけ? そうだけど、何か問題ある?」

 大問題だった。

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