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第16話 教育の影(制度が生む歪み)

資料室の窓の外には、夜の気配が静かに沈んでいた。

月の光は淡く、机の上の資料を照らしている。

総研は一冊の古い記録を開き、静かに語り始めた。


「教育は制度を開く。それは間違いない。だが、教育には“影”もある。制度が開くと同時に、制度は歪む。今日は、その影の入口を見ていく。」


ハクは姿勢を正した。

教育の光を学んだばかりの彼には、影という言葉が意外に響いた。

総研はページをめくりながら続けた。


「教育が広がると、人々は世界を理解し、判断し、選択し、行動できるようになる。だが同時に、教育は“差”を生む。学べる者と学べない者。学ぶ時間がある者とない者。学ぶ環境がある者とない者。教育は光であると同時に、影をつくる。」


ハクは静かに息を吸った。


「教育が……格差を生むの?」


「そうだ。教育は本来、人々の欲求から生まれた制度だ。騙されたくない。確かめたい。自分で判断したい。その欲求が教育を押し上げた。だが、教育が制度化されると、教育は“資源”になる。資源は、持つ者と持たざる者を分ける。」


総研は別の資料を開いた。


「産業革命の時代、イギリスでは教育が広がった。だが、すべての人が教育を受けられたわけではない。工場で働く子どもたちは、読み書きよりも労働を優先された。教育は社会を開いたが、同時に“教育を受けられない層”を生んだ。」


ハクは眉を寄せた。


「制度が開いても……全員が救われるわけじゃないんだね。」


総研はうなずいた。


「制度は、開くと同時に歪む。教育が技術者を生み、技術が産業を変え、産業が国力を押し上げる。だがその裏側で、教育を受けられない人々は、制度の外側に置かれる。制度が開くほど、制度の外側もまた広がる。」


総研は静かに続けた。


「そしてもう一つ、教育には“別の影”がある。教育は人を自由にするが、教育は人を縛ることもある。学んだ知識が“正しさ”として固定されると、人は新しいものを拒む。学んだ枠組みが“常識”になると、人は枠組みの外を見なくなる。教育は自由を生むが、教育は思考を固めることもある。」


ハクは息をのんだ。


「教育って……万能じゃないんだ。」


「そうだ。教育は制度を開く力だが、教育は制度を固める力でもある。教育が広がると、社会は知識を共有し、技術が連鎖し、産業が変わる。だが同時に、教育は“正しさの枠”をつくり、その枠が制度を硬直させる。」


総研は窓の外の月を見つめた。


「影はここで終わりではない。影は歴史の中で、もっと鮮明な形をとって現れる。教育が制度を開いたとき、同時にどれほど深い影を生んだのか──それを見ていく必要がある。」


ハクは静かに息をのんだ。


「影って……そんなに深いの?」


「深い。」


総研は言った。


「次は、影が歴史の中でどのように姿を現し、社会をどこまで歪めたのかを見ていく。そこを知らなければ、制度の全体像はつかめない。」


資料室の静けさが、次に語られる内容の重さを予告していた。

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