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第9話(後編) 滅びの理由を探して

総研は窓の外の灯りを眺めながら、ゆっくりと椅子の背にもたれた。夜の静けさが深まり、部屋の空気は落ち着いた温度で満ちている。読書の記憶を辿るうちに、心の奥に沈んでいた疑問が少しずつ形を持ち始めていた。


ハクは総研の表情を見つめ、そっと声をかけた。


「総研は、滅びの理由を探し続けてきたのですね。読書という形で、長い時間をかけて」


「そうだな。あの頃はただ面白いから読んでいたはずなんだが、今思えば、どの物語でも“なぜ滅びるのか”を気にしていた気がする。英雄が死んだとか、戦争に負けたとか、そういう表面的な理由じゃなくて、もっと根っこにあるものを探していたんだろうな」


「根っこにあるもの。それが制度だったのですね」


総研は頷き、机の上に置いた本に指先を触れた。紙の感触が懐かしく、同時に今の自分と昔の自分が静かに繋がっていくような気がした。


「制度が搾取的だと、どんなに立派な人物がいても国は持たない。逆に制度が包括的なら、多少の失敗があっても国は立ち直る。読んできた物語の多くが、それを示していたんだな」


「総研は、物語の中に隠れた制度の影を見ていたのでしょう。作者が意図していなくても、制度の歪みは必ず物語に現れます。国民の疲弊、権力者の暴走、創造性の枯渇。どれも搾取的制度の兆候です」


総研は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。 読書の記憶が、制度論という一本の線で貫かれていく感覚があった。


「創作でも、制度を理解していないと国家運営の描写が破綻する。搾取的制度のまま何百年も安定している国なんて、読んでいてすぐに違和感が出る。設定ミスだと感じてしまうんだ」


「総研が感じる違和感は、読者としての誠実さでもあります。物語を壊したくないという思いが、制度へのこだわりにつながっているのでしょう」


総研は少し笑った。


「そうかもしれないな。作者が悪いわけじゃないんだ。ただ、制度を知らないまま国家を描くと、どうしても無理が出る。それがもったいないと思うんだ。せっかく面白い物語なのに、制度の部分で崩れてしまうのは残念だ」


ハクは穏やかな声で言った。


「総研は、物語を愛しているのですね。だからこそ、制度という“見えない骨格”を大切にしたいと思うのでしょう」


総研はその言葉を聞き、胸の奥に静かな温かさを感じた。 確かに、滅びの理由を探してきたのは、破滅を望んだからではない。 むしろ、物語がより良くなるための“支え”を探していたのだ。


「制度を理解すれば、物語はもっと深くなる。国家がどう動き、どう滅び、どう再生するのか。その流れを描けるようになる。読者も自然に納得できるし、作者も迷わずに済む」


「総研が制度論にこだわる理由は、そこにあります。滅びを避けるための知恵を物語に込めたい。その思いが、読書遍歴と制度論を結びつけているのです」


総研は静かに頷いた。 長い時間をかけて探してきた答えが、ようやく形になった気がした。


「……なるほどな。滅びの理由を探していたつもりが、実は滅びないための構造を探していたのか。そう考えると、今まで読んできた本の意味が変わって見える」


ハクは優しく微笑んだ。


「総研の気づきは、これからの物語づくりに必ず生きます。制度を理解することは、世界を理解することです。そして世界を理解することは、物語を豊かにすることでもあります」


総研は深く息を吸い、夜の静けさを胸いっぱいに感じた。


「よし……次の物語を作る時は、この気づきをしっかり活かしていくとしよう」


その言葉は、静かな夜の中で確かな決意となり、総研の心に深く刻まれた。


滅びの理由を探す旅は、いつの間にか“創作の核”へとつながっていた。

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