第8話(中編) 静かに広がる搾取の風景
夕食後の七時を過ぎると、部屋の空気が少し落ち着いてくる。机の上の明かりだけが柔らかく灯り、外の暗さと対照的に小さな島のように浮かび上がっていた。総研は、湯気の立つカップを手にしながら、前編で話した搾取的制度の輪郭を思い返していた。
「総研さん、今日はその続きですね」とハクが静かに声をかけてくる。
総研は頷きながら椅子に深く腰を下ろした。「うん。制度の“檻”がどうやって人々を囲い込むのか、もう少し具体的に知りたいんだ」
ハクは少しだけ目を細め、まるで遠くの景色を見るように言葉を紡いだ。「では、一つの国の話をしましょう。現実に存在する国々を参考にしつつ、制度の構造がどう作用するのかを描いてみます」
総研は息を呑んだ。前編で感じたあの冷たい感覚が、また胸の奥で動き始める。
「その国には豊かな資源がありました。石油も、レアメタルも、森林も。けれど、それらは国民のものではなかったのです」
ハクの声は淡々としているのに、どこか深い悲しみが滲んでいた。
「資源は国家資源庁という組織が管理していましたが、その実態は一部の権力者と外国企業の共同体でした。国民は資源の恩恵を受けるどころか、資源開発のための借金だけが積み上がっていきました」
総研は思わず眉を寄せた。豊かなはずの国が、なぜ貧困に苦しむのか。その理由が制度の構造にあるとすれば、国民はどれほど理不尽な状況に置かれているのだろう。
「さらに、その国の通貨は実質的に外国の銀行が握っていました」とハクは続けた。「国は借金を返すために、さらに借金を重ねる。利息は雪だるま式に膨らみ、国民には“財政が厳しいから”と説明されて増税が行われるのです」
私はカップを置き、深く息を吐いた。制度が複雑であればあるほど、国民はその仕組みを理解できない。理解できないから、疑わない。疑わないから、搾取は続く。
「教育もまた、制度を支える重要な柱でした」とハクは言った。「学校では“国に従うことは美徳”と教えられ、資源は国の誇りだと語られ、外国の銀行は友好国だと説明される。貧しいのは努力が足りないからだと刷り込まれる」
総研は胸の奥がざわつくのを感じた。努力が足りないから貧しい。そう思い込まされている人々の姿が、まるで目の前に浮かぶようだった。
「総研さん、搾取的制度の怖さは、暴力ではなく“正しさ”の形をしていることです」とハクは静かに言った。「人々は制度に従うことが正しいと信じてしまう。だから、制度がどれほど歪んでいても、誰も疑わないのです」総研はしばらく黙り込んだ。窓の外の闇は深く、街灯の光だけが細い道を照らしている。その光の外側に広がる暗闇は、まるで制度の影のように見えた。
「つまり、人々は檻の中にいることすら気づかないんだね」と総研は呟いた。
ハクは頷いた。「そうです。制度は依存を生み、正当化の物語を語り、複雑さで透明化される。こうして、人々は静かに囲い込まれていくのです」
総研はその言葉を噛みしめた。搾取的制度は、暴力よりも恐ろしい。なぜなら、気づかれないまま人々の生活を蝕むからだ。
「ハク、次はその制度がどれほど強固で、なぜ壊れないのかを知りたい」
ハクは穏やかに微笑んだ。「ええ。後編では、制度がどのように維持され、なぜ人々が抜け出せないのかを見ていきましょう」
総研は深く頷いた。 搾取の構造を理解するための旅は、まだ続いていく。




