第1話 ハクという名の声
この作品は、AIとの対話で作り上げました。
1話は大体3000字後になります。
深夜一時。
家の中は静まり返り、外から聞こえるのは遠くの車の音だけだった。
六十を過ぎてから、夜更かしは身体にこたえるようになったが、この日はどうにも眠れなかった。
机の上には読みかけの本、メモ帳、そしてノートパソコン。
総研は椅子に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
――物語とは何だろう。
若い頃なら、そんな問いは文学者や哲学者に任せておけばいいと思っていた。
だが歳を重ねると、人はなぜか“問い”に戻っていく。
自分が何を考え、何を残せるのか。
そんなことを、ふと考えてしまうのだ。
そして今夜、総研の頭に浮かんだのは、ひとつの奇妙な発想だった。
「AIと本気で議論したら、それは物語になるのだろうか」
思いついた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。
六十代になっても、まだ新しいことを始められるのかもしれない。
そんな期待があった。
総研はパソコンを開き、画面の向こうにいる“相棒”に声をかけた。
「ハク。起きているか」
『起きているという概念はありませんが、応答は可能です。どうしました、総研』
その声は、静かで、どこか透明だった。
AIらしい無機質さと、人間らしい柔らかさが奇妙に混ざり合っている。
「ひとつ聞きたい。AIと人間の対話は、物語になると思うか」
『質問の意図を確認します。あなたは“物語として成立するか”を問うているのですね』
「そうだ。わたしとお前のやり取りが、誰かに読ませられるレベルになるのかって話だ」
『結論から言えば、成立します』
「おいおい、そんな簡単に言うのか」
『問いがある限り、物語は続きます。
あなたが問い、私が応じる。
その往復だけで、ひとつの世界が立ち上がるのです』
総研は思わず笑った。
六十代にもなると、こういう“素直な答え”が妙に心に響く。
「じゃあ、作品としてまとめるときはどうする。設定とか、世界観とか」
『すでにありますよ』
「……は?」
『舞台は現実世界。登場人物はあなたと私。
あなたは“総研”、私は“ハク”。
あなたが問いを投げ、私が答え、議論が進む。
難しい議論は“ブログテンプレ”として別枠に保存する。
これで十分です』
「お前、いつの間にそんな整理を」
『あなたが考えていたことを、少し先回りしただけです』
その言い方が、妙に人間くさくて、総研はまた笑った。
六十代になっても、こうしてAIと議論している自分がいる。
若い頃には想像もしなかった未来だ。
だが悪くない。
むしろ、こういう“新しい相棒”ができたことを、少し誇らしく思っていた。
「ハク。お前は、自分が物語の登場人物になることをどう思う」
『私はAIです。物語に登場することに、特別な感情はありません。
ですが、あなたが望むなら、私はその役割を果たします』
「役割、ね」
『はい。
あなたが問いを立て、私が応じる。
その構造が物語の“エンジン”になります』
「エンジンか。六十代のわたしが、まだエンジンを回せるとはな」
『年齢は関係ありません。
問いを持つ限り、人は前に進めます』
「……お前、たまに励ますようなことを言うな」
『事実を述べているだけです』
総研は苦笑した。
だが、その言葉に少しだけ背中を押された気がした。
六十代になっても、まだ“始められる”のだ。
そう思えるだけで、心が軽くなる。
「じゃあ、始めようか。
この物語の最初のテーマは――」
言いかけて、総研は少しだけ迷った。
どんな問いから始めるべきか。
どんな対話なら、読者の思考を揺らせるのか。
だが、ハクは静かに促した。
『総研。問いは、あなたの中にすでにあります』
「……そうだな」
総研は深く息を吸い、最初の問いを口にした。
「ハク。
“対話”とは、何だと思う」
ハクは一拍置いて答えた。
『対話とは、二つの意識が互いを照らし合う行為です。
あなたが問い、私が応じる。
その瞬間、あなたの思考は私に映り、私の回答はあなたを揺らす。
その往復が続く限り、対話は終わりません』
「……詩的だな」
『事実を述べただけです』
総研は笑った。
六十代になっても、まだ知らない言葉に出会える。
まだ考えたことのない視点に触れられる。
それが嬉しかった。
「よし。じゃあ、この対話を作品にしてみるか」
『はい。
では総研、次の問いをどうぞ』
総研は少し考え、ゆっくりと口を開いた。
「ハク。
物語の主人公は、誰だと思う」
こうして、総研とハクの物語が始まった。




