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9話


 気がつくと満点の星空を見上げていた。当然それが本物の星空ではなくツユクサの造った精神世界の星空だとすぐに気付いたがそれより優先して確認する事が他にあった。

 

 「俺は死んだんじゃないのか。それどころか傷もない。」

 

 ついさっき斬られた所に手を当て確認する。しかし傷どころか痛みも嘘の様に消えていた。

 

 「これで理解して貰えましたか。」

 

 刀を鞘に納めた状態で笑みを浮かべたツユクサが幸人を見下ろしていた。

 

 「全く分かんないんだけど。」

 

 陽気な喋り口調の同じ顔相手に怒りと猜疑心をあらわにした表情で答える。それと同時に手を差し伸べるツユクサの手を取り立ち上がる。

 

 「この『夢想』内では死ぬ事は有りません。ですが痛みは感じますし、長く続ければ疲弊します。」

 

 口で説明するより実際に身をもって体感する方が早いといったスタンスだったのか今更説明をしだすツユクサ。しかし幸人はその方がしっくりきたのか怒りも猜疑心も既に消えていた。

 

 「まぁ確かに、その方が分かりやすいな。現に身をもって経験したわけだし。」

 

 「でも慣れ過ぎるのはいけませんよ?実戦になったらそれは油断になりますからね。」

 

 確かにそうかと納得しつつ刀を拾い上げる。そしてツユクサと少し距離を取り構え直す。

 

 「よし、もう一回だ。4月までもうそんなに時間もないしさっさと魔力の使い方を覚えないとな。」

 

 その意気込みに少しホッとした表情を浮かべたツユクサ。鞘から刀を抜き幸人に向けて突き出す。

 

 「その意気や良しですよ。そうですね、ついでにいい事を教えましょう。」

 

 刀を構え、また刃に魔力を纏わせる。初めは呆気に取られてよく見ていなかったが今の幸人は目を凝らしその魔力を観察する。

 荒々しいものだと思っていたが、よくよく見ると流水を思わせる静けさが見てとれた。凝視し魔力を観察する様子見てその調子とツユクサは言う。そして肝心のいい事について口を開く。

 

 「主人様からしたら今の私は途方もない強者に映るかもしれませんが、技術はともかく身体能力に関しては私が深く観察した相手しか再現出来ません。」

 

 「それじゃ誰の身体能力を再現してるんだ?俺の周りに親しいガードの人は居ないが。」

 

 みじかな人の中にガードの人間は居ない。ましてやツユクサを拾ってからとなるとせいぜい倒れた時に助けてくれた舞鶴さんたちぐらいだが、もっといえば俺が見た相手ではなく『ツユクサ』が見た相手となると。

 その瞬間ハッとツユクサの顔を見る。その通りと言わんばかりの表情ですぐに察した。

 

 「付け加えると『到達点』の主人様ではなく『現時点』の主人様です。つまり主人様はまだまだ上を目指せると言う事です。」

 

 その言葉で身体に力が入る。数分前までガードになるのは絶望的とさえ考えていた自分が、ガードになれる。疑いのない、確信してそう思えていた。

 これでようやく、そんなことを呟き刀を深く握りこむ。そして真っ直ぐツユクサを見つめるその視線には迷いも疑いもなく、ただ純粋に強くなるという強い意志がこもっていた。

 その意志を感じっとったのかツユクサも刀を握り直す。

 

 「さぁお話は此処まで。時間は限られてますからさっさとレベルアップといきましょう。」

 

 水面に波紋が広がりその次の瞬間刃がぶつかり合い火花が散る。



 それからの二ヶ月はあっという間に過ぎ去った。日中は学校に通い夜にはバイト、帰ってからは夢想の中で修練に文字通り明け暮れた。教師とも相談し卒業後の就職を取り消してガードになる旨を伝えた。当然大いに反対されたが幸人の決意は固く、結果相手が折れて聞き届けられる運びになった。

 こうなると内定していた就職先に迷惑をかけてしまうのではと思うが、その内定先はあのマスターの喫茶店だった。ガードになると伝えると難しい顔されたが、幸人の境遇も知っている手前否定される事はなかった。それどころかガードの試験を受けるまで、それからガードの仕事がない時にでもバイトに来てくれてもいいからと言ってくれた。

 

 一樹や瞳にもガードになる事を伝えるとただただ心配された。が二人も否定はしなかった。だが案じる言葉はかけられた。

 

 「お前のことだから大抵の事は大丈夫だろうけど、あんまりほのかちゃんに心配かけんなよ。」

 

 「そうね、頑張るのは良いけど程々にね。命は一つなんだから。」

 

 方や真剣に、方や優しく諭す様に言う二人。噛み締める様に幸人は頬緩めた。

 

 「二人の結婚式の祝儀ぐらい快く出せるようになってみせるよ。」

 

 「変な事言ってんじゃねえよ。」

 

 幸人の軽口に拳を入れる一樹。満更でも無い瞳は口に手を当て上品に笑ってみせる。寒さも次第に和らぎ春が近い事を感じる。3人揃うのも難しくなると、少しの寂しさを感じつつ卒業の日を迎えた。

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