8話
「ここはいったい。」
そこに広がって居たのは蒼く澄んだ空間だった。空は高く星々の様な小さな光が無数に浮かぶ。対して地面は深海の様な暗さに天上を映し、波紋が常に広がっていた。一言で表すならまさに幻想的の一言に尽きる程だ。
「この空間は私のスキル『夢想』で創られた精神世界です。」
呆気に取られていると人影が近付いて来る。足音と共に近づく影に視線を向けるとそれは幸人と瓜二つの人物だった。困惑し口を開こうとした時、相手の幸人が口を開く。
「やぁやぁどうですか主人様!私のスキル、凄いでしょ!」
自分の顔、自分の見た目で見た事もない満面の笑み、女子の様な仕草を見せつけられ別の意味で困惑する幸人。あまりの事に時間の止まる思いだったが、甲高い声に気付き我に戻る。
「その声、お前ツユクサか!」
「他に誰が居るんですか。」
驚きに対する返しが想像以上の淡白な返しだった事に少し腹は立つがグッと押し殺し、もう一度空間を見渡す。
「確かに凄いスキルだ。けど別に此処だからってレベルが上げられる訳ではないんだろ。」
「はい。レベル、つまり身体性能の上昇はモンスターを倒し経験値を習得しないと上がりません。何より精神世界では肉体に直接影響を与えられませんから。」
じゃあなんでと幸人が言葉にした途端ツユクサは人差し指を立てて補足する
「ですがスキルのレベルは精神に紐付けられているので此処で上げることが出来ます。」
その言葉に幸人は固まった。そう、スキルのレベルが上げられる、これは想像以上に画期的な話だった。通常モンスターと戦ううちに上げる事が出来るが、当然身体のレベルが先行して上がる為初期から高レベルでもない限り身体レベルが高い割に能力不足に陥る。当然命の危険もある為、無理に高レベルの敵と戦い続ける訳にもいかない。
しかし此処では命の危険も無しにスキルレベルを上げられると言うのだ。
「俺のスキルには身体能力に直結するスキルが有る。つまりそれらのレベルが上がれば。」
「4月からガードになるとして、2ヶ月で2級までは流石に難しいですが最低限、3級程度は後押し出来ると思います。」
少し未来に希望が持ててきた、そう思い表情が緩む幸人。妹にもう少し贅沢させてやれるとやる気にもなる。
早速レベル上げするかと意気込んだとき、さてどうやってレベルを上げれば良いのかと疑問が浮かぶ。
「なぁツユクサ、此処でどうやってスキルレベル上げる…」
そう言って自分と同じ姿のツユクサに視線を向けると足元に何かが刺さる。水面の様に見えてコンクリートの様な硬さの地面刺さったそれは刀の『ツユクサ』だった。
「さぁ早く持って下さい。2ヶ月なんてあっという間ですよ。」
軽快な喋り口調、満面の笑みを浮かべる瓜二つの自分。そんなツユクサはブンブンともう一振りの『ツユクサ』を振り回していた。
「おい、まさかレベル上げの方法って。」
「実戦あるのみです!」
振りかぶって斬りかかってくるツユクサ。咄嗟に地面から刀を引っこ抜き受け止める。ギリギリと鍔迫り合いをするが笑みを浮かべたままのツユクサが怖くて仕方なかった。
「さぁさぁスキルをどんどん使って下さい!魔力は消費しますけど死にはしませんから!」
付き合わせた刀をそのままに腹部に蹴りを入れてくる。骨にヒビの入る感覚に動きが鈍る。ツユクサの説明が本当なら実際の身体にはダメージは無いのだろうが、なら此処までリアルな痛みはなんの意味が有るのか疑問に思う。
だが今は気にしていられない。距離ができ次の動きを観察する幸人に、とても届かないであろう距離で刀を振るう。するとツユクサの刀から白い湯気の様なものが立ち上り、振るった瞬間斬撃が飛んできた。
「なんだそれ!」
「ただ魔力を纏って打ち出してるだけですよ。さぁやってみてください!」
間一髪のところでかわし起き上がるが、一振り二振りと続け様に斬撃が飛んでくる。やられたままで居られるかと一撃を刀で弾く。
しかし斬撃は霧散したが刀を握る手もその衝撃で後方へと大きく弾かれ、身体も大きく仰け反った。
しまったと思うが早いかどうかという所で2撃目が直撃する。右肩から左腹部にかけてとてつもない激痛。視界を覆う自身の血飛沫を最後に今日2回目の暗闇が視界を覆った。




