7話
階段上から1階に居るほのかに謝り、部屋に戻る幸人。部屋に鍵をかけ神妙な面持ちで、かつ戸惑いながら喋り出した刀に話しかける。
「とりあえずいくつか質問する。お前は『ツユクサ』でいいんだな。」
「そうですよ。たった今主人様に名前を頂いたツユクサです。今後ともよろしくですよ。」
快活と語る刀。声は高く陽気だが不思議と不快感のない軽やかな声。発声とともに微かに震え唾がカタカタと音を立てる。
「次の質問だ。お前の素の名前はなんて言うんだ。その刀の名前なり、何か精霊が取り憑いてるならその名前なり。」
「有りませんよ。この刀は『月蝕』と言うそうですが、それとは関係有りませんし。私は主人様に名前を頂いたことで生まれた人格といった感じでしょうか。」
問いかけにすぐさま回答するツユクサ。ここでこの刀は月蝕ということも分かったが、幸人には新たな疑問が頭に浮かんだ。
「ふと思ったんだが、お前の知識は何処から来てるんだ。」
「知識ですか?そう言われても刀の事は言わば自分の身体ですし、口調の事も元からですし。」
首を傾げているかどうかは判断が付かないが知識らしい知識がある様には思わない事を話す。しかし幸人はそこに質問を投げかける。
「じゃあなんで露草の事を知ってたんだ?」
その質問にそれは、と発するツユクサ。しかしそも次の言葉は出てこなかった。
「確かにそうですね。どうしてでしょう。私は今生まれた筈なのに考えてみると他にも色々な知識がある様な。」
しばらくの静寂が室内を包む。しかし考えても答えの出ない疑問にいくら頭を悩ましても答えは出ない。
「まぁ考えても仕方ない。とりあえず今後のことを考えるかなぁ、ガード
としてはやって行けないだろうし。」
吐き捨てる様に言い捨ててベットに寝転がる幸人。
当初の予定では3級以上のガードになれれば安定した収入と安全性の両方が揃ったであろうに、今のまま試験を受けたとしてもせいぜいが最下級の4級だろうと考えた。そうなれば収入は低く、危険性も上がるばろう。それは妹のほのかに余計な不安を与えかねないとマイナスの側面ばかり頭に浮かんだ。
何より固有式の空欄は固有式を有して無いということだとネットに載っているのを見つけてしまった。
それらを総じて出した答えは一つ。
「ガードになるのは諦めるか。」
一人の空間が静まり返る。壁にかかった時計の秒針だけが次第に大きく聞こえる。
「あの、なんでなれないんですか?」
唐突なツユクサの発言につい、えっと情けない声が出る。そこで姿勢を戻しベットに座り話し出す。
「俺には固有式が無いんだよ。」
「ですが活躍しているガードの中には多少なり居るんじゃないですか?」
「スキルも強力な物はないし、ステータスも平凡そのものだ。」
「スキルはレベルを上げれば身につく筈ですし、ステータスもそれに伴って上がる筈ですよ。守座までは無理でしょうけど。」
幸人の提示する要素に上昇の余地を示すツユクサ。その早すぎる回答にとうとう幸人は口を継ぐんでしまった。
「だけど流石にこのステータスは低すぎる。4級でやっていくくらいなら普通に就職したのとあまり変わらない。そんな中怪我でもすれば赤字になるのは避けられない。」
事実として固有式のないガーディアンは多少いるらしい。そしてそのほとんどがロクなスキルもなく、そして年間の死傷者数も比例して多く居る。
それでもガードになりたがる人が多い理由には、ガードが英雄のように捉えられているからという背景もある。
みんな英雄に憧れる。そしてそんな理想と現実の相違で傷つき、死んでゆく。そんなのはごめんだ。
ぐるぐると思いは巡り次第にネガティブな考えに変わる。そんな時ツユクサが提案する。
「強くなる方法なら有りますよ。」
不意のその言葉に俯いていた幸人は顔を上げる。
「そんなことできるのか。もしかしてだけど、ガードになった後のレベル上げの事じゃないよな。」
「もちろん違います。レベル上げってのはあながち間違ってませんけど。とりあえず物は試しです。私を握ってください。」
意気揚々と話す刀を手に取り鞘から抜く。
「では行きますよ!『夢想』」
ツユクサの言葉とともに淡い光が視界いっぱいに広がった。なにも見えない白一色の世界から次第に瞼を開けられるほどの光に落ち着き、薄らと目を開く。しかしすぐさま細めた目を見開くことになる。




