6話
最寄駅を降りて自転車を漕ぐこと十五分、幸人は家に着いた。住宅街から少し外れているからか、そこそこ大きな二階建ての建物。庭も今は使われていない駐車場を除いても十分な広さがある。今はこの家で二人暮らし、両親の残してくれた遺産だ。
「ただいま。」
扉を引き家に入る。するとリビングのドアが開き赤茶のサイドテールの少女が出てきた。
「お帰り兄さん。今日は遅かったね。」
「ちょっと帰り道で色々あってね。」
多くは聞かずふうんと流す少女。幸人も妹を心配させまいと多くは語らない。そう、このドライな少女こそが幸人が愛してやまない妹、雪見ほのかである。
「夕食は賄い食べてきたんだよね。お弁当箱だけ出しといてね。あとお風呂は沸いてるから冷めないうちに入っちゃって。」
もはや妹では無くオカンである。しかし幸人も幸人でそこに言及しない。どころか嬉しそうに言われたとうりに行動する。彼の優先事項は妹関連が常に上位を占めている。
汗だくだったこともあり一番に風呂に入り、玄関に置いていたカバンを持ってリビングに入る。リビングではほのかがソファーに寝転びテレビを観ている。冬では有るが好物のカップアイスを少しずつスプーンで崩しながらゆっくりと食べていた。
「ねぇ兄さん、今日何かあった?」
相変わらずテレビを観ているほのかが不意に聞いてくる。
「別に何も無かったよ。」
倒れた時の夢の光景が頭を過ぎる。しかしほのかに心配させまいと平然とした態度を見せる。
キッチンに立ち弁当箱を出そうとカバンを開けた途端、幸人の表情が歪む。
「どうして、あれは夢じゃ。」
ボソッと呟く。その視線の先、カバンの中にはあの白い刀が入っていた。
「どうしたの兄さん、もしかしてお弁当箱忘れてきたの?」
幸人の表情に異変を感じたのか話しかけるほのか。大丈夫と気付かれない様に弁当箱をシンクに出す。カバンの口を閉めリビングから出ていく。
「少し疲れたからもう寝るよ。おやすみ。」
そう言うとそそくさと2階の自室に急ぐ。ほのかは変なのと首を傾げ、引き続きテレビに視線を戻した。
自室の扉を閉め刀を取り出した。ベットに腰掛け、恐る恐る鞘から抜いてみる。刀身は綺麗なもので自身に刺さった痕跡は無いことを確信する。確かにあの時苦痛は感じたが出血した感覚は無かったと思い出す。
「あれが夢じゃ無いなら一体なんだったんだ。」
いくら悩んでも答えは出ず刀を鞘に戻す。はぁとため息を漏らしたのち貰ったカードの事を思い出した。そして上着のポケットからカードを取り出し再びベットに腰を落とす。
「確か魔力が有れば写るんだっけ。でもどうやって魔力って出すんだ。」
何も分からずとりあえずグッと力を込めてみる。すると先ほどまで真っ暗だった画面が青白い光と共に次々と文字が浮かんでくる。おぉと感心しつつもそこには随分端的な内容しか浮かんでおらず上手く読み解けない。
「詳しくはガード協会のホームページを見ながらデータをすり合わせるか。」
携帯を出しカードの説明を協会のホームページから探す。ついでにこの「仮ステータスカード」とは、一般人が魔力に覚醒した際にガードとして活動していけるかどうかを確認する為の物だとのこと。やって行けると思うものは協会に申請してガードになることが出来る。その際、本当の「ステータスカード」が支給され、そこには氏名や階級などが明記され身分証としての使用も可能になるらしい。
当然だが試すだけでガードにならない選択も可能とのこと。
「さて、それじゃ項目の確認っと。上から順番に魔力、肉体強度、固有式、スキルか。正規版にはもっと細かい内容も出るのか。」
幸人のステータスはそれぞれ、
魔力:D
肉体強度:E
固有式:(空欄)
スキル:魔力強化レベル1、付与魔法レベル1、与名レベル1
と記載されていた。スキル数は最大八つまでで方法は限られるが付け替えが可能らしい。
「一般的な数値だな。魔力はスキルで少し高いが、ガードになっても最下位の4級だろうな。」
志しだけでガードになる者は少なくない。ただでさえ迷宮の発生件数が増大している現代では英雄になりたいと思う者も少なくない。しかし一方で低級では生活が困窮するケースも少なくない。その為幸人はガードになるにも最低でも3級以上と考えたのだ。
「しかし固有式が空欄ってどういうことだ?固有式は変えられないし初めから決まってる筈だが。それに付与魔法はまだしも「与名」ってなんだ?字面的には「名を与える」みたいな感じか?」
疑問の尽きない自身のステータスに謎が深まる。固有式に関してはサイトにも空欄の理由は書かれていない。
「与名」に関してはスキルの説明が書かれていた。
「なになに、「与名」は生物、もしくは物質に固有の名称を与えることでそれらを強化する事が出来るスキルか、使い方次第では中々有用そうでは有るが。ただしスキルレベルにつき一回可能で合計十回しか付与出来ないってなんとも使いづらいなぁ。」
強力そうな文言に絶対数の制限。せめて数十数百回使えればと欲は出るが、それが通る事はない。
ガードになる事を諦める幸人だが、ふとあの刀が目に入る。
「どうせこのまま使わないだろうし1回使ってみるか。」
鞘に収まった刀を手に取りスキルを使おうとする。が、それらしい名前が思いつかない。「俺ネーミングセンス無いからなぁ。」と呟きながら鞘をみる。白い鞘に蒼い二枚の花弁と散る花びら。刀身の仄かに濡れた様な刃紋が一つの名前を思い描く。
『ツユクサ』
途端に刀は強烈な光を放ち発光した。あまりの眩しさにもう一方の手で目を覆う。しばらくして収まりをみせ薄ら薄ら目を開けた。
「あれ?」
そこにはなんの変哲もない、代わり映えのない刀の姿があった。
「あれだけの演出で、まじかぁ。せめて脇差から日本刀サイズになる位あってもいいのでわ。」
落胆し気が抜けら様に机に刀を置きもう寝ようと布団のほうに視線を向けたその時。
「失礼ですね~、私ももっと大きな身体だったら良かったですよ。」
幸人しか居ないはずの部屋に女性の声が響く。何処から、誰が、幸人はそんな事を一瞬思いはしたがすぐに視線は机の刀に向いた。
「まさか…」
「そうですよ。貴方に名前を頂きましたツユクサです。これからは貴方を主人と慕い尽くさせて頂きますよ主人様。」
飄々とした口調で喋りかけてくる刀に驚愕するしかない。幸人は驚愕の表情で口をぱくぱくさせる。
「し…」
「し?なんですか主人様。1番目の配下である私にどの様なお言葉を…」
「しゃべったーーーー!」
普段大人しく決して大声なんて出さない幸人から信じられない程の声量が出た。今日1日で多くを体験したことで、とうとうキャパを超えてしまった。
「兄さんうるさいー!」
一階から山彦の様に負けない声量で、ほのかの叱咤の声が響いた。




