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5話

 

「………………く………」

 

 くぐもった意識に声が聞こえる。

 

 「ゆ………くん…きとくん!」

 

 聴きなれた声だが、焦った様に荒々しい声が聞こえる。

 

「幸人くん!しっかりするんだ幸人くん!」

 

 重たいまぶたを開けると眩しいほどの光量が視界を覆い尽くす。次第に順応していき見慣れた顔が見たこと無いくらい不安げな表情を浮かべていた。

 

 「マスター、どうしたんですか。」

 

 抱えられた上半身を起こし辺りを見回す。そこは路地の入り口で数人の通行人の視線があった。寝起きの頭を回し、バッと腹部に手をやる、が血も出ておらず服にもそれらしい切れ目は無かった。もしかしたら雪に滑って頭でも打って気絶し、夢を見ていたのかもしれないと自分を納得させようとする。しかし刺されたあのリアルな感触が否定する。

 

「そういえば、マスターはどうしてここに。」


「ああ、幸人くん定期券の入ったパスケースを忘れてたから、後を追って駅に向かってたんだ。そうしたら人だかりが出来てたから見てみると幸人くんが倒れてたんだよ。」

 

 シレッと事情を聞く幸人に安堵したマスターは息を吐き、ことの経緯を説明するとパスケースを幸人に渡した。するとそこに一人の女性が近づいてくる。

 

「あの~、意識がはっきりしてる様ですが念のため病院まで送りましょうかマスターさん。」

 

 顔を上げると目を引く綺麗な金髪の女性がこちらを覗き込んでいた。髪は随分と短くスポティーな印象を受けるが杖を付いており脚が良くない様子だった。

 

「いえ、特に痛むところも無いので大丈夫です、ええっと。」

 

 スッと立ち上がりその女性がどうして話しかけてきたのか考える。

 

「あぁ、私舞鶴都(まいずるみやこ)って言います。実はマスターさんの喫茶店の常連で、あなたのことは知ってたの。だからって言うわけじゃ無いけど、倒れてる貴方を見つけてマスターさんに連絡しようとしてたの。不要だったみたいだけど。」

 

 言われてみれば見たことがあった。確かガタイのいい男数人と来ていた。ただし座っていたところしか見ていなかった為脚には気がいかなかった。しかしそれとは別に名前の響きに聞き覚えがある気がした。

 ああとうなずく幸人に舞鶴はハッとした様に顔を近づける。

 

「君、若く見えるけどもしかしてガードだったりする?」

 

 突然だったのもあるが突拍子もない質問に首を傾げる。

 

「いえ、ただの高校三年生です。魔力に覚醒もしてません。」

 

 正直に話す幸人。しかし彼女は少し悩み後ろにいた数人の方を向く。

 

「誰かサーチキット余ってない?出来れば仮ステータスカードも。」

 

 聴き馴染みのない単語が飛び交う。どうだったかなと各々の鞄、乗ってきたであろう高級車のトランクを探す男たち。よく見ると服の隙間から無数の傷が見える。

 

「お嬢、有りましたぜ。悪いですけどサーチキットはみんな切らしてて仮ステカしか有りませんでしたけど。」

 

 男達の中でも一回り若く見える男が手のひら程の大きさのカードを舞鶴に差し出す。それおそのまま幸人に手渡した。

 

「どうぞ。家に帰ってでも調べてみて下さい。サーチキットが無いので確かなことは言えませんが私の見立てでは貴方は覚醒しています。」

 

「良いんですか、随分良いものに見えますけど。」

 

 渡されて分かった。その仮ステータスカードと言われるものは見た目より重い、余程の技術の産物であろうと。

 

「大丈夫ですよ。それは協会に掛け合えばいくらでも、誰でも支給されますから。ただ仮なので長くは使えませんし、魔力が無ければ何も写りませんから。」

 

 どうやら魔力の有無やどういった力があるか判別するものだった様だ。なるほどと眺めつつ早速使おうとする幸人だったがそれを阻む様に舞鶴が手を添えた。

 

「帰ってからって言ったでしょ。あまり人前でステータスを確認しない事がトラブルに巻き込まれない方法よ。」

 

 柔らかな表情でお叱りを受けてしまう幸人。確かにと上着のポケットにカードを入れた。満足したのか舞鶴と男達は車に戻っていく。

 

「それじゃ私たちはこれで。またご飯でも食べに寄ります。」

 

 車に乗り手を振ると早々に行ってしまう。マスターもなにごとも無くて良かったと喫茶店の方へと帰っていく。随分長居してしまったと幸人もまた帰路を急いだ。

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