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39話


 晴天のなか幸人は地方の民家の前にやって来ていた。前日に舞鶴に一緒に迷宮に入ろうと誘われ、指定されたのがその場所だった。

 

「まさかレベル5の迷宮に入ることになるとはな。」

 

 虚空を見つめるように青空を見上げていると黒い高級車が目の前に止まる。そして中から昨日会った男達と、昨日とは違いショートパンツ姿の黒い戦闘服に身を包んだ舞鶴が降りてきた。

 

「あら、早いね幸人くん。もしかして随分待たせちゃったかな?」

 

「いえ、少し前に来たばかりです。それで迷宮はこの近くなんですか。」

 

 舞鶴はともかく、他の男達の装いは全員がスーツ姿でとても迷宮に入るようには見えなかった。しかしそんな幸人にあぁと笑いながら敦賀が近づいてくる。

 

「確かに見た目じゃわかんないよな。でも実際はそこいらの装備より高い防御力を誇ってるんだぜ。」

 

 そいってパンパンと自分の胸元を叩いて見せる。実際触らせてもらうと伸縮性があるにも関わらず随分と強度があることがわかった。少なくとも幸人の皮装備よりは数段上等、少なくとも1級の装備なのは間違いなかった

 

「はいはい、そうゆうのは迷宮の中でやってね。早く入りましょう。」

 

 パンパンと手をたたき全員の注目を集めながら迷宮に入ろうと促した。しかし幸人は指定されたこの場所からまだ離れているのだろうと思っていると敦賀が後方の民家に近づき戸を開けた。するとそこには土間の中央に迷宮に続く階段ダメに入った。そして一行はその階段を順番に降りていった。

 

 

 

「ガードになってから日が浅いって聞いてたけど意外に力あるんだね。」


「ええまぁ、それなりには。ところでこれはどういう事なんでしょうか。」

 

 一同が普通に降りていくなか幸人は舞鶴をお姫様抱っこしながら階段を降りて行った。笑顔で首に腕をまわす舞鶴と対照的に幸人は冷や汗をかきながらそっぽをむいていた。そんな状況を誰かしらが文句を言いそうなものだが、男達はその状況を面白がっているようでヒーヒー言いながら笑っていた。

 

「悪いね幸人くん、うちのお嬢が。」


「そうだぜお嬢。あんまり新人をおちょくるもんじゃないぜ。」


 申し訳なさそうに話す若狭と面白がる敦賀が幸人に話しかける。大丈夫ですと返しつつもその顔は舞鶴を見ないように視線を逸らしていた。

 

「別にそんなつもりないわよ。それに見たければ見ればいいよ。」


「見ませんよ。さぁ着きましたから下ろしますよ。」

  

 イタズラっぽく笑いながら服の襟を広げて見せつける。そうこうしていると広い場所につき、すぐさま舞鶴を下ろした。そして同時にその場の光景に立ち尽くした。

 

「ここが本来の迷宮ですか‘」

 

 青い空に腰ほどの高さにはえた草と森が広がる空間。とてもここが地下とは思えない光景が広がっていた。そうして呆けていると敦賀達がアイテムボックスから盾や装備を展開し戦闘準備を整える。

 

「低レベルの迷宮とは違って高レベルの迷宮は別空間に入るんだよ。いつ来ても迷宮ってのは不思議だよな。」

 

 近くにいた敦賀が呆けていた幸人に話しかける。彼の言うように迷宮によってこのような空間に飛ばされる。空間の広さもまたまちまちで広大な大迷宮もあれば1部屋程度の狭い迷宮もあり朝や昼、果ては晴天から嵐まで天候もその時で違うという。

 物珍しそうにしていると森の方から力強い足音が聞こえてくる。そして森を抜けて現れたのは3メートルはありそうな巨体で赤い肌をした赤色鬼種、オーガだった。低レベルの迷宮ならボスクラスのモンスターが数えても百近くいる状態に幸人は萎縮していた。オーガたちは幸人たちを見つけると棍棒を振りかざし、その巨体からは考えられない速度で一斉に向かってきた。

 

「想像以上に早い!俺は…」

 

 武器を取り出しどう戦ったらいいか指示を仰ごうとした幸人だったがその瞬間敦賀と若狭が大きなタワーシールドを手に突撃する。オーガも棍棒で攻撃してくるがその攻撃を威にも返さずそれどころか攻撃してきたオーガの方が吹き飛ばされる。大群が押し寄せるも同じように2人が押し返し、そうしているとコンッと杖をつく音がしてパリッと電気が走る。

 

雷来(らいらい)

 

 閃光と共に雷が大群に落ちる。あまりの光に目を瞑り、開けた時にはあれだけ居たオーガの軍勢は全て倒れていた。

 

「これで少し落ち着いたね。」

 

 振り向けば杖をつく舞鶴。高レベルの迷宮でその圧倒的な殲滅力に守座と呼ばれる存在を再認識する。

 

 「幸人くんは今回は見てるだけでいいよ。少し強引に連れてきた手前無理させられないし、高レベルの迷宮がどういうものかだけでも見ていって欲しいの。」

 

 笑いかけてくる舞鶴に気を取られていると敦賀たちがオーガをアイテムボックスに収納し終えていたようで、戦場には焼き焦げた地面以外何も残っていなかった。あまりの手際の良さに、彼らの強さは舞鶴1人のものではないと理解する。


 少しでも吸収できるものは学ばないとと幸人が気を引き締めていると森の方から今度はバキバキと木を薙ぎ倒す音が聞こえてくる。何がその音を立てているのかと考えているとその答えはすぐさまわかることになった。

 

「あれは、黒いオーガ!」

 

「今回の迷宮はたいして大きくないみたいだな。もうボスモンスターが出てくるなんて。」

 

 森の木々の押し倒して現れたのは先ほどのオーガよりも1割大きな黒いオーガだった。協会のデータにないその個体は他のオーガとは違い無骨な片刃の剣を手にしていた。先ほどのような簡単な相手ではないだろうと幸人をはじめ全員が身構えていると舞鶴が前に出る。

 

 「舞鶴さん危ないですよ!」

 

 「せっかく来てもらったのに、このままじゃ幸人くんに申し訳ないからいいものを見せてあげるよ。」

 

 そういうと敦賀たちを後ろに下げさせ、杖とマントを消すと一言を発する

 

 『真名開華』

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