38話
迷宮を出た後、幸人と瀬戸は警察と協会から一日中事情聴取を受けていた。迷宮内での出来事や永続型迷宮なのになぜ閉門したのか、そしてその際に迷宮の外で何があったか聞かされた。2人とも驚きはしたが相手があの終世教の大司教ともなればそれも納得できた。
1日明け、幸人は喫茶店でバイトをしていた。高屋がまだ体調が良くないうえ瀬戸も新しい迷宮を探すと言い、1人になったので迷宮に潜るのはやめ喫茶店で働く事にした。
「いやぁ幸人君が来てくれて助かったよ。近頃忙しくてね。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。訳あって今日暇してて、助かりました。」
喫茶店のマスターと話しつつも昼前だというのに繁盛している店内で忙しそうに歩き回っていた。久しぶりの制服が懐かしく思えるなか、後任のバイトの少女が食器を下げてくる。
「はい先輩さん、テーブル席の清掃お願いしますよ。」
少し口調に棘があるように感じつつも、はいと答えすぐさま卓を拭きに行く。黒髪ウルフカットに鋭い目つきはまるで狼のような印象を受けるが、接客はいたって丁寧な彼女がここの新しいバイトと聞いて少し安心する。
そんなことを思っていると入り口の鈴が鳴り扉が開き、すぐさま彼女がが応対しようとする。
「いらっしゃいませ。何名様で…」
そこまで言って急に幸人のそばに寄ってきた。
「すみません先輩、代わりに接客してくれませんか。私ちょっと…」
真面目な彼女が客を選ぶなんてと思いながら仕事を変わってもらい入口に向かうと屈強な身体にスーツ姿の男たちが数人立っていた。
「いらっしゃいませ何名様でしょうか。」
「あぁ4人でって、兄ちゃんあん時の!良くなったんだな、いやぁよかったよかった。」
豪快な笑い方をするスキンヘッドに逞しいヒゲズラに男の事を思い出し、オーバーフローの時に自分たちを助けてくれた舞鶴の仲間の1人だと気づいた。続けて白いワンピースの女性やサングラスをかけた男性、そして若い青年が入ってくる。そして舞鶴も気づいたように話しかけてきた。
「おや幸人くん、元気そうですね。今日はガードじゃなくて喫茶店の店員なのかい。」
「えぇ、数日はメンバーが集まれないのでアルバイトに入らせてもらってます。」
軽いあいさつをした後4人をテーブル席に案内する。少女が幸人にお願いしたのは敦賀が厳つかったからなのだろうと考えた。少し早い時間だが昼食を取りに来たらしく、それぞれ料理を注文する。そして数分ののち幸人が料理を提供する。するとサングラスをかけた男が語りかけてきた。
「君が雪見幸人君か。ということは昨日の『災風』が起こした事件の当事者か。」
「えっ、あの現場にいたんすか。良く生きてたっすね君。」
定食を食べていた小浜が驚きのあまり口からこぼし、汚いと敦賀にゲンコツを入れられる。既に昨日のことが知られているなんて考えてもいなかった幸人はええっとと濁そうとするが上手い言い訳が出てこなかった。
「すまない、別に尋問とかじゃないんだ。ただ災風は俺たちも追っているが、なかなかしっぽが掴めなくてな。それで何か変わったことがなかったか聞きたかったんだ。」
「すみません、協会員さんや警察に話したことが全てでそれ以外は。すみません。」
サングラス越しに柔らかな表情をする男性に力になれないと深々とお辞儀をする幸人。その行動に頭を上げてくれと静止する男性。
「もう若狭さん、せっかくの美味しい昼食なのにそんな話は野暮ですよ。」
なんともいえない空気に一石を投じるように空気を変えた舞鶴は黙々とサンドイッチを口に運ぶ。淡々としたその様子に幸人も若狭も引き下がった。そしてごゆっくりと言い幸人は厨房に戻っていった。その途中、物陰から舞鶴たちを覗き見している少女が目に止まる。
「別に怖い人たちじゃないからそんなに気にしなくてもいいよ。えっと。」
話しかけたまではよかったが名前を知らない事に気づく。それに気づいたのか幸人に視線を向け姿勢を正した。
「私はひまりって言います。別にそんなつもりで見てたんじゃないです。」
そういうとそそくさと厨房に入っていく。もしかしたら舞鶴の知り合いなのかと思いつつ幸人も仕事に戻った。
「ふぅ、美味しかったぁ。やっぱりここが1番だわぁ。」
「お嬢はほんと好きですね。まぁ俺もたまに娘を連れてきてるけど。」
食後のコーヒーを飲みながらゆったりする舞鶴たち。食器を下げに幸人が近づくと何かを思いついたように舞鶴が話しかける。
「ねぇ幸人君、メンバー不在って言ってたよね。もしかして明日も暇だったりする?」
「えぇ、ちょうど組んだサポーターが療養中でしばらくアルバイトの予定ですけど。」
その言葉に口角を上げる舞鶴。その表情に何かを察したのか3人の男たちはむしろ強張る。そしてとんでもない事を言い出した。
「それじゃ明日私たちと迷宮入らない。ちょうどレベル5の迷宮に入るの。」
予想だにしないその言葉に固まる幸人。男たちが止めるかと思いきや全員がまたかと言った苦い表情を浮かべるだけだった。




