37話
幸人の心象武装によって倒された未知のモンスターは上半身と下半身に分かれいた。ギリギリまで回復魔法を使っていた高屋の介抱を瀬戸に任せその死体に近づいた幸人は驚愕する。
「この状態でまだ生きているのか。」
下半身は身動きひとつしないが上半身はそんな状態でも今だにピクピクと動いていた。トドメを刺そうと近づくとそのモンスターが異常な存在だったことに気づく。斬られた断面から血液と見られる液体が流れているがその色は青く、断面に内蔵は見えず青い何かが詰まっていた。とても生命活動に必要な内臓があるとは思えないその生物の口がパクパク動き何かを言っている。
「パ、パ…。ま…ま……。」
高く幼い声がモンスターの口から聞こえる。とてもその背丈に合わないその言葉に寒気がする。このモンスターにも家族がいると言うならそれで良い。しかしもしこれが終世教がどうにかして行った実験の産物やそういうものなら、このモンスターは。そんな嫌な想像が頭でぐるぐる渦巻いていると瀬戸の声が聞こえてくる。
「兄さんどうしたんですか。顔色がすごく悪いですけど。」
「あ、いや。こいつが強敵だったなって思って。」
視線をモンスターに移すとそれは砂のように崩れ出し、そしてあっという間に面影もわからない堆積した砂になった。その出来事に瀬戸も訳がわからないといった表情をする。
モンスターの死体は色々なことに使える。武器や防具、薬などその用途は多岐にわたる。特にレベルの高い迷宮のモンスターは捨てるところがないとまで言われている。それはつまり死体は確実に残るからだ。しかし目の前のこれはそれに該当しない、どう考えても異常なことに困惑する。
「結局こいつは何だったんですかね。見たことないモンスターでしたし、死体が消えちゃったから調べようがないですし。」
2人が堆積した青い砂を見ていると、モンスターが貪っていた死体の山の中から青い火が上がる。まだモンスターが居たのかと身構えているとそこにあったのは青い刀身にシンプルな柄の短刀だった。ここにいるガードの武器だったものかと考えるも誰かが意図的に用意したと考えられた。というのも短刀は地面に刺してあるが鞘はその手前に綺麗に置かれていたからだ。もしかしたらこれがフードの男が言っていたプレゼントなのかもしれないと思うと拾って良いのか考える。
「これ自体に嫌な感じはしませんからもらっても良いかもしれませんよ主人様。」
「お前、何で今のいままで黙ってたんだよ。」
今まで黙っていたツユクサが急に語りかけてきたことに驚きつつも何してたかと問いかける。しかしその質問に真面目に答える気はないようだ。
「いやぁ何だかすごく眠くて寝てたんですよ。育ち盛りだからですかね?」
意味不明の回答に頭を抱えつつもこの刀をどうするか考え、瀬戸の方を見る。
「兄さんが貰って下さい。俺は武器は使わないですし、前に武器が欲しいって言ってたじゃないですか。」
どうぞどうぞとジェスチャーしてくる瀬戸。高屋の意見を聞こうとするも彼女は少し離れた壁際に寝かされていて、まだ目覚めそうにない。そのため一旦預かるということで短刀を手に引き抜く。重量はツユクサより軽く取り回しもいい。サブ武器にぴったりだった。
「それじゃ早く出て協会にこのことを伝えますか。あの男のことも報告しないと…」
瀬戸と幸人が今後のことについて話していると突然ゴゴゴゴと地響きがなり始め2人は慌て始めた。普通の地震なら日本人の彼らがさして驚くことはないが迷宮での地震は話が違った。
「この揺れ、まさか永続型迷宮なのに閉門しようとしてる!早く逃げないと生き埋めにされますよ!」
この揺れは迷宮攻略時特有のそれだった。迷宮は攻略から数時間で閉門、つまり迷宮が閉じるのだがその際全てが土にのまれる。そのため攻略後はすぐさま迷宮から脱出しなければならなかった。
寝ている高屋を担ぎ上層階を目指す瀬戸につづく幸人があたりのガードの死体を見つつ、遺品を持っていってあげられない事を心苦しそうに階段を上がっていた。
地上に戻ると辺りは警察と協会の職員が集まり騒然としていた。幸人たちもそこに居合わせた事で事情聴取を受ける事になる。高屋は疲労のため救急車で運ばれていった。その状況を少し離れたビルの上からフードの男が眺めていた。
「どうやら試練を突破したみたいだね。でもあの子が死んじゃったのは少し痛いなぁ。」
「あなた、こんなところで何してるの。あなたの持ち場はここじゃないでしょ。」
不意にフードの男の後ろに赤黒い傘をさした女性が現れる。黒い喪服に白い長髪、顔はフードの男と同じく赤い模様の入ったベールで顔を隠していた。そんな彼女に気づいた男がケラケラ笑って返す。
「ちょっとした野暮用でね。そういう君こそどうしたの?確か『大紅蓮』の確認に行ってたよね。」
「もう帰ってきたのよ。あたし寒いところ嫌いだし。それより何見てるの。」
女性の質問に幸人たちに視線を向けるフードの男。その視線の先を見て納得したようにあぁと呟いた。
「彼はいずれ良い『器』になるだろう。さて一体『白』なのか『黒』なのかそれとも。」
意味深な言葉と共に立ち上がる。そして2人は溶け込むように姿を消した。




