36話
「なんだあのモンスター。見たことないやつだけど慎也知ってるか?」
「俺にも分かんないっす。協会の公開しているモンスターの情報にはあんなのなかったはずですよ。」
目の前の道の存在を通路の隅から観察する3人が困惑するなか、その存在に気づいてないモンスターが肉を貪っている。グチャグチャというそしゃく音に不快に思いつつ、戦うべきか考える。感知能力が低いのかモンスターが幸人達に気付いた様子はない。
「死体に気を取られてる今がチャンスじゃないっすか。いっそ背後から奇襲しましょう。」
「瀬戸さんに賛成です。」
攻撃に備えて準備しタイミングを見計らう。そしてその時が来た瞬間、幸人と瀬戸がモンスターの背後から奇襲し攻撃を加える。しかし瀬戸の攻撃は効かず、幸人の攻撃も切り傷程度のダメージしか与えられなかった。
「硬っ!俺じゃダメージ入れられないっす。」
「付与なしでこれなら付与してギリギリだな。慎也は高屋さんを守ってくれ!高屋さんはサポートをお願い!」
立て直して2人に対して指示を出しつつモンスターの気を引く。するとモンスターが奇声を上げ鋭い爪で襲いかかってくる。しかも一瞬で距離を詰めてくるその脅威的な速度のまま幸人に斬りかかる。刀と影でさばこうとするも怒涛の攻撃に少しずつダメージを負い、攻撃の隙もなかった。一旦距離をとって体勢を整えようとするが一気に距離を詰められその暇もない。
「このままじゃきついか。」
絞り出すような言葉をあげながら追い詰められていると光と共に次第に怪我が治っていく。視界の端に高屋を捉えると彼女の杖が輝き、幸人に回復魔法を施していた。
「ありがとう、そのまま頼む!」
サポートに感謝しつつ戦闘しているとモンスターもそれに気付いたのか幸人をそっちのけに高屋へと攻撃の手を変えた。しかしその動きを読んだ瀬戸が防御し、次々繰り出される連撃を耐え続けた。
「防御力もあるうえこの攻撃力って、こいつ絶対レベル2の迷宮にいるモンスターじゃないっすよ!」
長い爪による攻撃をどうにか防ぐ瀬戸。高屋はそのモンスターの殺気を魔眼で見ているのか恐怖の表情がうかがえる。そんななか自分を無視したモンスターの背後に付与を重ねて斬りつける。
『ストレングス』
『シャープネス』
『ブースト』
「よくも無視してくれたな!」
怒涛の攻撃を加えるも大きなダメージを与えられることはできず、それどころか傷つけたそばから回復していく。
「自己再生か!」
今できる最大の攻撃も通用せず、モンスターは未だ瀬戸狙って連撃を繰り返す。だが次第にモンスターの動きが多少の差ではあるが遅くなていく。それどころか幸人の斬撃も少しずつダメージ当たられてくる。モンスターの限界が近いのかと思ったがそれは高屋の仕業だった。
『鈍化』
『脆性化』
回復魔法と並行してモンスターにデバフを付与する高屋。本来系統の違う魔法を同時に行使することは困難を極める。そんな高等技術を彼女は苦痛に顔を歪めながらもやってのけていた。
どれだけ経ったか、実際はそれほどの時間が経っていなくとも膨大な時間が経過したと思えるなか、3人がそれぞれの最善を尽くしてモンスターと戦うもこれといった決定打を与えられず硬直状態になっていた。正しくは幸人達の方が消耗して劣勢に立たされていた。
「このままじゃ。」
そう思った矢先、モンスターの動きが機敏になり瀬戸が徐々に傷を負い始める。はじめに限界が来たのは高屋だった。
「ごめんなさい私…」
今にも倒れそうな虚な目で弱いながらもデバフと回復を続ける彼女が膝から崩れる。続けて瀬戸も限界が近いのか片手にしかシールドを張れず流血も増えてくる。
どうすれば良いと思考を巡らせる幸人。付与はすでに全開で、心象武装は決めれなければ後がない。どう考えても良い方法が浮かばない、どうすれば良いと思考していると突然頭に声が響いた。
『魔眼がレベル10になりました。これより適応進化します。』
ツユクサの声ではないその声と共に目にほんのりと暖かさを感じる。そしてその両目には青白い菱形の模様がそれぞれ2つ入り今までとは違うものが見えていた。
「このヒビは、もしかしてこいつの弱点なのか。」
モンスターの体に数カ所のヒビが見え直感的にそれが弱点だと分かる。さらに分かったことはそれだけじゃない。自分の魔力が増え、更に詳しい残量を把握できる。そして新たな付与も。
『心象武装:欠神』
名を呼ぶと幸人の手に刃だけの刀が現れ白い炎を上げ始める。そして倒れかけた瀬戸をかばって前に立ち、目に見えたヒビに刀を突き立てる。突き刺さりはするもモンスターは気にも止めず攻撃を続けようとする。しかしそれより早く幸人は新しい付与を施す。
『バースト』
大量の魔力を消費して攻撃力に変換するその付与は幸人の魔力を消費し、魔力残量が減ったことで心象武装の火力が最大になりそこに付与が合わさり刃の刺さったモンスターを吹き飛ばし両断した。攻撃の直後刀身は光の粒となり消え、どうにか勝利を手にすることが出来た。




