35話
しばらくの休憩ののち、ようやく立ち上がった三人は今だに疲労の色が顔に現れていた。それぞれが持ち込んだ飲み物を飲みながら呼吸を整えていた。
「まさか終世教の幹部が居るなんて。でもどうしてこんな低レベルの迷宮に来てたんだ。」
「本当ですね。命があってよかったぁ。」
先ほどのことが嘘のようにふざけて見せる瀬戸をため息と共にスルーする。少しの静寂ののち辺りを見回すとある異変に気づく。しばらく同じ場所にいるというのに他のガードどころかモンスターの姿すら見えない。本来都心に近い迷宮は他のガードの予約が重なりごった返すはずなのに、もっといえば一層にはそれなりに人数が居たのに2層に居ないなんてことはありえない。そのためその静けさが逆に不気味に思えてくる。
「なんか変ですね。さっきの男が何かしたのかも知れないっすけど。どうしますか、一回戻りますか。」
明らかな異変に撤退するか尋ねる瀬戸。どうするか悩みながら幸人が2人に視線を向ける。フードの男の言うことが正しいならこれは逆にチャンスなのかもしれないと。しかし瀬戸はともかくチーム初日の高屋を巻き込んでいいものが考える。するとそんな表情を察してか彼女は頷く。
「私なら大丈夫です。行くんでしょ。」
高屋のその発言に驚きつつもそれならと瀬戸とアイコンタクトで頷き、深層へと向かって歩き出した。
しばらく進み3層に到達した3人はいまだに誰とも会わない現状にだんだん不安になり始める。
「流石に不気味ですねぇ、これ本当に大丈夫なんすかね?」
「分かんないけど、この状況は確認しないといけないだろ。」
3人の歩く道中にガードもモンスターも居ないが至る所に血液が飛び散りその異常性を物語っていた。中には武器の破片や防具の破片がところどころに散らばっていた。明らかにフードの男の仕業だとは分かるがそれだけではなかった。
「ひこずった後が残ってるな。それも沢山の跡が全て4層に向かってる。」
血と砂が一直線に下層に向かう跡にその先の4層を不気味に思いつつスキルカードを確認して自身の能力を確認する。
肉体強度:D
魔力:C
スキル
魔力強化レベル10、付与魔法レベル1、与名レベル1、身体強化レベル6、魔眼レベル9
一月の間夢想に入り続けたためにスキルレベルはかなり向上していた。魔力強化に至ってはカンストし、魔眼は既にカンスト目前だった。しかしそれでもステータスは変わっておらずCからBの高さを感じるがこの能力でどうにかなるかと考える。魔眼も高レベルに関わらず大した上昇を感じていなかった。どうしてなのかと考えていると、そういえばと高屋に視線を向ける。
「そういえばあの男が高屋さんにいい眼を持っているって言ってたけどもしかして。」
「はい、私魔眼持ちです。あんまり良い能力じゃないけど。」
彼女の魔眼は『読心の魔眼』と言うらしい。その能力は見た相手の感情を読み取ることが出来るというものとのこと。しかし細かく分かるのではなくそれぞれ色付けされており、好感は黄色で嫌悪は青色、下心はピンクそして殺意は赤黒く見えるとのこと。やたら人の視線に敏感なのはこの魔眼のためだったようだ。
「なかなか便利そうですね。俺なんて夜目がきくのと動体視力が良くなるくらいなのに。」
「それってまだ『魔眼』だからですよ。魔眼はレベル10になると進化するんです。」
自分の魔眼と比べてため息をつく幸人に高屋が衝撃の情報を言う。そしてさらに詳しく教えてくれと詰め寄ると、急なことに彼女はドギマギしながらも答えてくれる。
ベースとされる『魔眼』はいわばジーンズや財布のようなもので、使用者によってアジの出方が違うように魔眼も使用者に沿った能力になる。そのためレベルが上がりやすく、レベル10になると進化するのだ。高屋も元はただの魔眼だったが進化して『読心の魔眼』に変化したのだ。
「つまり俺の魔眼ももうすぐ進化するのか。いっそ進化させてから進みたいけど…。」
「モンスターも居ないからレベル上げ出来ませんし、ここじゃ夢想に入るのもリスクありますからね。」
念の為に少しでも強くなっておきたかったがそれも難しい状態に仕方ないかと諦める。再び下層を目指し足を進めることにした。
最下層の4層に降りた途端嫌な匂いが鼻をつく。生魚を数日放置したような胃液の込み上げるような腐臭が辺りに漂うなか3人が顔をしかめる。
「なんだこの匂い、吐きそうっすわ。」
「うっ、……」
「2人とも口呼吸なら少しはマシになる。しばらくすれば慣れてくるからゆっくりいこう。」
顔色が悪くなり口元を抑える瀬戸と高屋に比較的平気な幸人がアドバイスしながら臭いの方向にら視線を向ける。何かがいるのかグチャグチャと嫌な音が響いてくる。2人には見えていないようだが幸人は魔眼の力で少しずつ見えてくる。しかしその瞬間に悪寒が身体中に広がる。
細い体に凹凸のないのっぺりとした顔に裂けた口だけの化け物が、鋭い爪で何かを切り裂き貪り食っている。それがモンスターとガードの身体だと気づくのにさして時間は掛からなかった。




