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34話

「おや、随分若いガードだね。もうレベル2の迷宮に来てるってことは随分優秀なんだねぇ。」

 

 サンダルをひこずりながら歩いてくる男。顔をフードとベールで完全に隠しているその異様な風貌に不信感を抱くが、ガードにはそういった人も少数いるためすぐに警戒を解く幸人と瀬戸。しかし高屋は近くにいた瀬戸の背に隠れガタガタと体を震わせながら男から目を離さなかった。その視線に気づいてか男は一定の距離で足を止め3人を観察する。

 

「へぇ、その子はなかなかいい『眼』を持ってるね。固有式も良いものだ。長身のにいちゃんも身体強度と固有式の相性が良い。間違いなく優秀だね。」

 

 ベールの下に手を入れ顎を触る仕草をする男が見透かしたように固有式に言及する。その言動に改めて警戒を示し身構える。ガードの能力を見れるスキルは存在するが超がつくほど希少な上、同意もなくのぞくのはマナー違反とされている。そんな初歩的なことを堂々と破ってくる目の前の男に幸人達も不審感を覚えた。

 

「人の能力を覗き見るなんてあんたなにもんだ。」 


「君も良い『眼』を持ってるね。でも固有式が…ん?」

 

 幸人が睨みつけるも動じることなく続けて能力を覗き見る男が何かに首を傾げる。そしてこれはでも、と何かをぶつぶつ言いながら保っていた距離を縮めてく。近づくにつれて漏れ出るように異様な気配の魔力が漏れ出す。息が詰まりそうに強大な魔力に瀬戸や高屋は膝から崩れ座り込んでしまう。幸人もなんとか踏みとどまってはいるものの意識が遠のきそうになりながら刀を抜き影を腕に纏わせながら構えた。そしてとうとう目の前まで男が迫った時、押しつぶすような魔力がフッと消えた。

 

「君もしかして雪見幸人くんかい?」

 

「どうして俺の名前を。」

 

 ベールで覆われた顔が幸人を覗き込み名前を言い当ててくる男に驚愕する。その反応にやっぱりと顔を避け階段の方へと歩きだす。

 

「君は非殺対象だし、その仲間の君たちも今回見逃してあげるよ。まぁせいぜい頑張ってね。」

 

 先ほどとは打って変わって飄々と手を振りながら歩いていく男に幸人は何もできなかった。首座にイーベンティ、そしてこの男とこの世界にはこれほど圧倒的な存在がごろごろいるのかと痛感する。強くなると決めたんだと一矢報いようと身体を動かそうとするが、その時男が足を止める。

 

「そうだ、君たちの成長に一枚噛んであげよう。この先の4層にガードに向けたプレゼントがあるんだけどそれを君たちにあげよう。今の君たちだとギリギリだろうけど、まあ頑張ってねぇ。」

 

 そういって暗がりに消えていった男。一気に気が抜けたようで幸人もその場に座り込んだ。

 

「一体何っだったんだ。とんでもない魔力だったうえに邪悪な感じがしてたけど。」

 

 ぐっしょりとかいた汗を拭いながら去った男の方を見つめていると、一番取り乱していた高屋が落ち着きを取り戻したようで口を開く。

 

「あれは多分終世教の幹部ですよ。協会の指名手配に容姿が載ってた。」

 

 まだ怯えた様子でそう答える彼女にあれがと返す。まるで嵐のような出来事に3人はしばらくそこを動けずにいた。

 

 

 

「あれが教皇の言っていた雪見幸人くんか。果たして僕らの希望になってくれる存在になるかはたまた。」

 

 迷宮の入り口から出てきた男。その背後には無惨な血の海が広がっていた。改札ゲートも切り刻まれ、そこから引火した火はあたりに広がっていた。

 

 事態を聞きつけたのか同じ紋章を掲げた多くのガードが集まり男を包囲していた。街中ということもあり集まったガードはすでに百人を超えていた。

 

「その顔のマークは終世教の人間だな!これだけの事をしてタダで逃げられると思うなよ!」

 

 部隊の隊長と思われる屈強な男が手にした大斧を振りかざし、フードの男を制止しようとする。集まったガードは相当に実力者のようでほとんどが2級で、中には数人の1級も混ざっていた。


 これだけの戦力があればレベル5の迷宮でも攻略できるようなメンツで1人を囲っていた。余裕を感じていたのかガードの中にはすでに誰がとどめと懸賞金をいただくかという言葉まで聞こえてくる。

 

「はぁ、せっかく良い気分だったのに興醒めだよ。」

 

「言ってろテロリスト!いくぞ!我ら『黄明』ギルドがお前を討ちっとってやる!総員陣形を…」

 

 口上を言い終わる前に屈強な男の頭部が上下に分かれ、肉体も切り刻まれる。フードの男は終始構える事なく、それどころか攻撃の際もなんの動作も起こしていなかった。

 

 目の前で急に隊長が肉塊になり動転しだすガード達は攻撃を仕掛ける者、慌てて逃げ出す者とあらわれごった返した。その光景にフードの男『災風』はため息をつく。

 

「うるさ。」

 

 途端に災風の前にいたガードから順番に、彼が一歩たりと動く事なく切り刻まれていき、1分経つ頃には百以上いたガードは物言わぬ肉塊になっていた。その真っ赤に染まった道を、まるでレッドカーペットの上を歩くように歩く災風。

 

「僕らがテロリストだって。それは自分たちの住む世界が狂ってる事に気づかない奴らが正常な者達の行いを非難する詭弁だよ。」

 

 誰がきいてる訳でもないがそんな言葉を吐き捨てながら、フードの男は風のように不意に姿を消してた。

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