30話
「それじゃ、一つ目の議案は終世教の3害大司教のうちの1人、『災風』が東京で確認されました。」
円卓を囲んだ守座達に概要を話しだす雨飾。その一声に3人は彼女の方を向き声を荒げた。
「アイツが現れたのか!今どこに!」
1番に問いただしたのは赤穂だった。しかしそれに対して話を続けるから一旦落ち着くように促す。
「とりあえず話を聞いてくれる。現れたのは一週間前で場所は東京の22区、1ヶ月ほど前にオーバーフローを起こした現場付近の監視カメラに捉えられたの。」
円卓の中央から映像が投映され1人の人影の写真が映し出される。半袖のフードにベールのような物で顔を隠し、ベールには赤い模様が描かれている。怪しい見た目なのに人混みの中、誰も気に留めている様子のないその写真を見て赤穂が魔力を荒げる。
「登悟さん落ち着いて下さいよ。これは一週間も前のものですよ、もうとっくに何処かに消えてますよ。」
上昇する気温のなか、赤穂に落ち着くようなだめる舞鶴。それもそうかと落ち着き熱を下げる。そんな2人をよそに希は首を傾げながら写真を見ていた。
「にしてもこんな所に何しに来たんだろう?『災風』って確か滅多に姿を見せないし、オーバーフローの現場には特に現れなかった筈だよね。」
「そうなんです。本来オーバーフローの起きた場所での目撃例が多かったのは『禁華』で、彼は主に旧九州『古戦場』付近での目撃しかなかった筈なんですけど。」
希の疑問に雨飾もそこは疑問だったようで同じ見解を示した。
終世教の3害大司教と呼ばれている覚醒者はそれぞれ『災風』『禁華』『忌水』と呼ばれている。その実力はガードであれば守座に並ぶと評されるほどので、危険であることから協会が法外な懸賞金を賭けているほどだ。だが戦闘はおろか目撃情報が乏しいためいまだに誰1人捕まっていない。
しかし過去に一度3人を同時に相手取る機会があったが、3つの大手ギルドと守座が2人参戦したにも関わらず逃げられてしまった。それどころかガード側に多大な被害が出たうえ、守座が1人重傷を負い引退を余儀なくされた。
「あの時ウチのもんが何人も殺された。それどころか更埴さんも。」
赤穂の言葉と拳に力が入る。他の3人も悲しげな表情を浮かべたり静かに目を瞑り、感慨にふけっていた。
「いつかは奴らを捕まえなくちゃいけない。でも今は動向が掴めないから手が出せない。ただ今回東京に現れたことから終世教が何か企んでいるのかも知れないことから警戒は強めておいて欲しいの。」
神妙な面持ちで協力を求める雨飾に3人が頷く。共通の敵である教団を打倒する為に協力する事を再度確認したのだった。
「それで今日の議題は2つて言ってたけどもう1つは…」
貰った資料をめくってもう一つの議案に目を通す舞鶴が急にえっ、と声を上げた。そしてすぐさま雨飾の方に視線を向けると彼女は頷いた。
「もう一つの議題は旧四国の領域『幽谷墓所』の攻略を開始しようと考えています。」
またしても重大な内容に驚く3人。しかし先ほどと違い落ち着いた様子で赤穂が問いかける。
「教団の動きが怪しい時に四国攻略は無理があるんじゃないのか。そもそも幽谷墓所は大量のアンデットが蔓延ってるせいで中心にたどり着けないから攻略不可になったんだろ。それをどうしようってんだ。」
「それについては赤穂さんの真名開華と『死神』の固有式、それから都のところの彼女にお願いしようかと。彼女に関しては、ちかじか『落陽祭』があるから実際の攻略は半年後を予定してます。安曇野には攻略に必要な物資の準備をお願いします。」
物資調達を任された希が手を挙げてはーいと答え、赤穂も了解したと答える。しかし舞鶴はどこか気乗りしないような、それでいて悲しげな表情を浮かべながらわかったと頷いた。
「それで守座全員で攻略するの?『万変』さんやあの人は無理だろうし、東京に守座が1人もいないのもマズいのでは?」
「それに関しては赤穂さん達架焔会と『死神』のパーティ、それから2級以上の志願者での攻略を想定してます。出来れば安曇野のところからも何人か送ってもらいたいんですけど。」
雨飾の提案にその場の全員が了承する。そこで今日の議題は全て終了し、赤穂と希は席を立ち早々に部屋を出ていた。残った2人は窓際に立ち街並みを一望していた。
「今日はお疲れ様。最近はデスクワークばっかりで少し太ったんじゃない?」
「変なこと言わないでくれる?それに私、体重管理は徹底してるのよ。」
舞鶴のイタズラじみた質問に雨飾はフンッと腹を立てているように見せる。しかしすぐに申し訳らさそうな表情になり切り出した。
「彼女の件ごめんね、他に方法がなくて。まだ探し物は見つかってないの?」
彼女の質問に小さく、うんと答える。その表情は会議の時よりも悲しげな表情を浮かべていた。
「死神には私から話しておくから都は彼女の側に居てあげて。」
雨飾の言葉に無理矢理作ったような笑顔でありがとうと返し部屋から出ていった。残された雨飾は1人高い青空をサングラス越しに見つめる。
「世界はいつだって優しくないものね。」
目を細めながら振り返り出口へと向かう。誰も居なくなった円卓に背を向け彼女も部屋を後にした。




