29話
前回までのお話。 2人は爆散した。
「難易度どうなってるんだ!結局勝てず仕舞いじゃないか!」
ベットの上で、すっかり体調も良くなった2人が向かい合って話し合う。昼は療養とリハビリ、そして夜は夢想でスキルのレベルアップに励んでいると、あっという間に退院の日が明日に迫っていた。
「やっぱり2体相手は現状ではどうしようもないっすよ。レベリングと新しいスキルやアイテムを揃えないとですね。」
瀬戸もお手上げといった様子で頭をかかえる。彼の言ったとおり、幸人たちは数十回繰り返してようやくイーベンティを倒すことに成功した。しかしその直後ツユクサがとんでもないことを言い始めたのだ。
「それじゃ今度は2体と戦ってみましょうか。」
その言葉に当然2人は疑問符を浮かべ、何を言い出すかと思っていると水面から影を2体出して戦わせ始めたのだ。そこからはまさに地獄で、何をどうやっても倒せなかった。一対一の形にしたら速攻で倒され、2人で一体を狙えば背後からもう一体突き刺された。
そんなことを繰り返していると、あっという間に3週間は過ぎ去った。しかしスキルレベルは上がっていたようで魔力が強くなっていることを感じていた。
「守座ならあれくらい余裕で倒してしまうのかなぁ。実際一体を瞬殺だったし。」
「そうそう、守座といえば今日会議が行われるらしくって1区の本部に揃うらしいですよ。」
ぼやく幸人に退院に向けて身の回りの整理をする瀬戸がそんなことを言う。特にニュースでも言われていなかったはずの情報をどこから聞きつけたのか気になりつつも、そうなのかとながす。何せ一般的なガードには無縁も良いところだったからだ。
そんなことを思いつつ幸人も身の回りのものを片付け出す。大したものはなかったが妹の差し入れてくれたものを大事そうに片付けていき明日を待つのみだった。
1区のガード協会本部の上層階、周囲一帯を一望できるガラス張りの部屋。その中央にある大きな円卓に飛び飛びで4人が座っていた。
「それじゃあ定刻ですし会議をしたいんですけど、その前に一ついいかな?」
室内だと言うのに丸サングラスをかけた女性が書類は閉じたまま口を開く。黒髪に紫のインナーカラーが光の加減で鮮やかに見えるなか、少し俯いた状態から顔を上げる。
「どうしたの杏香?今日の議題は重要事項だって聞いてたけどそれより大事な話?」
席に着いていた舞鶴が尋ねる。親しげな相手がガード協会の会長である雨飾杏香で、日本のガードを束ねる長である。そんな彼女がグルッと守座を見渡して言った。
「なんで半分しかいないの!私重要事項だって言ったよね!」
頭を抱えて声を荒げた。
「私ってそんなに人望ないかなぁ、これでも一応協会会長だよ!先代の時はまだ集まりよかったじゃん!」
次々と愚痴が溢れ、また始まったと呆れる者、面白がって笑う者そしてまぁまぁと宥める者の3人がそれぞれの反応を見せた。
「落ち着いてよ杏香。鬼無里さんは遠征中だし、『死神』ちゃんは学校だから仕方ないじゃない。問題は…」
舞鶴が宥めつつも一つの空席を見つめる。それは最後のもう1人の守座の席だった。
「あいつは本業の方が忙しいんだろ。何せガードの仕事が副業つってたくらいだしな。実力は申し分ないんだが、いかんせんあの性格だからな。」
腕を組んだ赤穂が刺々しい言葉を吐く。2人の仲は良くないのか、ただでさえ険しい表情なうえ怪訝そうな顔をする。はぁと一同がため息をつきながらそれ以上その守座への言及はなかった。
「ところで『万変』は今どこにいるの。確かこの間までアメリカに行ってたはずだけど、もう攻略終わったはずだよね。」
椅子を前後に揺らしなが尋ねる希。『万変』はここにいない守座、鬼無里士郎のことで彼は海外を転々としている。
太平洋に砂海が現れて以降、日本に現れた迷宮。それは数こそ少ないが世界中で同じ現象が起きていた。ただし日本のような覚醒者は世界的には少なく、迷宮被害は後を絶たなかった。そんな混乱の中、メンバーに空間転移能力者がいる鬼無里のチームが世界中を回って迷宮攻略している。そのため日本にいることは少なく今回の招集にも参加していなかった。
「彼なら今ロシアに行ってるよ。レベル6の迷宮が現れたらしくってその攻略応援に合流するんだって。」
希の質問に答えながら机に突っ伏す雨飾が涙ぐみながら机に置かれたペンをいじりだす。
「アメリカもロシアも強者が増えてるが、そもそも国土が広いから人手が足りてないんだな。そう考えると日本は小さいはずなのになんでこんな迷宮発生率が高いんだ。」
「学者が言うには砂海の白い巨塔が近いからって話があるけど、どうか分からないよね。」
話題について意見し合う赤穂と舞鶴が話していると、本題から大いに脱線したことに耐えかねたのか雨飾がバンバンと机を叩き始めた。
「ほらほら話が横道に行きすぎてるよ!今日は久しぶりの会議なんだから静かにして資料に目を通してよ!」
静かにしろと言いながら1番大騒ぎをする彼女に3人がため息をつきながら資料を手にする。こうして騒々しい会議が、ようやく始まるのだった。




