27話
瀬戸との会話の直後、幸人は急激な睡魔に襲われていた。傷を治すための身体の作用なのか、その抗い難い睡魔にゆっくり目を閉じて眠りにつく。
気が付けば満天の星空の下に立っていた。鏡面のような地面に波紋が広がるその世界はツユクサの夢想の中だとすぐに気付いた。
「ようやくお目覚めですか主人様。無事で良かったですよ。」
床に波紋をたてながら人影が近寄ってくる。またしても自分の姿かと思いつつ振り向くとそこにいたのは白髪のほのかだった。ここに彼女が居るなんてと疑っていると、満面な笑みを浮かべる様子にそれがツユクサだと気づく。
「なんでほのかの格好してんだよ。」
「私だって女の子ですからね、見た目もそれらしい方がいいかと。ちょうどここ数日で観察できたので見た目だけお借りしました。」
白いサイドテールの毛先を指先でくるくると巻きながら、ほのかが見せないような笑みとドヤ顔を見せる。いつものようにツユクサと戦うとなるとほのかの顔をした相手に刀を振るうのは心苦しく思っているとあることに気づく。
「今まで刀を握っていないと夢想には入れなかったのに、どうして俺はここにいるんだ。」
「ああ、どうも私もスキルレベルが上がったようで、範囲に入っているだけで夢想に入れるみたいですよ。」
武器のステータスは確認のしようがないためツユクサの言うことを信じるしかないが現に刀も握らず夢想に入れていることから、そのことに疑いようはなかった。夢想の中では怪我は反映されないようで、自由に動く身体を動かし準備運動をする。
「それで、今日はその姿で戦うのか。正直気が乗らないんだけど。」
流石に姿だけでも変えてくれと懇願する行人に彼女は指を刺す。
「それより主人様、お客さんがやって来ましたよ。」
指差した先は自分の後方だと気付き振り向く。そこには瀬戸が辺りを見渡しながら立っていた。
「ここは夢、ですよね?それにしてははっきりしてると言うか、兄さんや妹さんもいるし。一体どうなってるのやら。」
困惑しながらも幸人に近づく彼に、すぐさま刀を抜いて構えた。
「なるほど、今回の相手は真也なんだな。よし全力で…」
相手が愛しの妹でないとわかるとすぐさま戦闘体制に入る。少し前に自分たちは仲間だと言っていた間柄とは思えない程のいさぎの良さに、慌て気味にツユクサが割って入った。
「ちょっと待ってください主人様!彼は私の創り出した幻影じゃなく本人です!せっかくの仲間なので一緒に強くなっていただこうかと思ってお呼びしたんですよ。」
あまりに必死に止める彼女に嘘ではないのだろうと刀を納める。それと同時に幸人以外の人間をここに呼べることに驚愕した様子だった。
「呼んだのはまぁ良いとして。問題は夢想の恩恵は受けられるのか。」
ただここに来れるだけでは意味がない。何より瀬戸自身もスキルレベルが上げる事ができるのか、その一点が疑問だった。しかしその質問に笑みを見せたツユクサを見て答えを得たも同然だった。
「そう言う事です。ですから入院中の3週間ここで強くなってもらえれば、戦力強化は間違いなしです。」
その言葉に幸人も笑みを浮かべる自身以外にもスキルレベルを上げられるなら、今後増えるかもしれない仲間もより強くなれるということに他ならない。現段階でも瀬戸が強くなるだけで、迷宮での安定性は飛躍的に上がるだろうと考えた。
少ない情報から互いの言いたいであろうことを理解して会話する。まるで昔馴染みのような関係性を見せる2人。そんな広がる想像に2人が話し込んでいると蚊帳の外だった瀬戸が切り出した。
「結局、ここは何処なんですか?」
その問いに2人して彼の方向を見る。すっかり忘れてたと言わんばかりに、今更夢想の説明をする。
「なるほど、そういうことだったんですね。」
かいつまんでだがこれまでの出来事を話した幸人。路地裏の迷宮に迷い込んだこと。そこでツユクサを手にし、スキルで名前を与えると喋り出しこの空間でスキルレベルを上げていたこと。ざっくりとこのような内容を話した。迷宮の最深部に居た人影に関しては情報もないことから省きはしたが概ね事情は理解してもらえた様子だった。しかしその表情は少し険しい表情をしていた。
「兄さん、このことはくれぐれも秘密にしといたほうが良いですよ。スキルレベルを上げられる武器なんて、いやアイテムですらほとんど聞いた事がないっすよ。間違いなく幻想級以上の武器っすよそれ。」
瀬戸の言葉に、自身の刀に目を向ける。切れ味から相当等級が高いとは思っていたが、そこまでとは思っていなかった。。良くても一級程だと思っていた。
確かによくよく考えればスキルレベルを上げられるなんて能力のアイテムの話は聞いた事ない。それがバレれば厄介事に巻き込まれることは間違いない。不用意に人に教えないほうが良いと思い、秘密にすると約束した。




