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25話

閑散(かんさん)とした瓦礫の山の中、舞鶴は部下の1人が持ってきた折りたたみ椅子に座って辺りを見回していた。


 オーバーフローの被害は甚大だが、この20年で復興事業のスピードも急速に向上した。特にガードの身体能力と魔石によってその向上度は驚異的で、この瓦礫地帯も一月ほどで元より丈夫になるほどだ。

 

 「幸い、住民が殆どいなかったのが救いかな。」

 

 「そうだな、あのデカブツが協会支部や駅前を狙っていたらこれ以上の被害が出ていただろう。」

 

 「あら『炎燕(えんえん)』さん。自分の所の指揮はもういいんですか?」

 

 不意に歩いてくる男性。厚手のコートを肩にかけ、シャツを無造作に着たどう見てもカタギに見えない男。肩まで伸びた黒髪に前髪をかきあげた強面には大きな火傷の跡があり、子供なら泣いて逃げ出しそうな風貌をしている。

 

 「通り名で呼ぶな。俺はその呼ばれ方が好きじゃねぇんだ。」

 

 ドスの効いた渋い声が舞鶴を静止する。近くまでやってくると近くの瓦礫に腰を落とし、電子タバコを吸い始める。

 

 「あれ登悟(とうご)さんちょっと前まで紙タバコでしたよね。どうしたんです?」

 

 「あぁ、最近息切れがするようになってきたから辞めたんだ。歳からかもしれねぇけどな。」

 

 若い舞鶴にそんなことを言われ自分の歳を実感してか俯く男。赤穂登悟(あこうとうご)と呼ばれる彼は守座の1人、『炎燕』と呼ばれる炎熱系統最強の男だ。ミノタウロスを圧倒していた黒いフードにロングコートの集団は彼がリーダーを務めるギルドのメンバーで『架焔会(かえんかい)』の所属だった。

 

 「おじさん発言はいいとして、それでどうでしたか迷宮は。」

 

 「ウチのもんに調べさせたら見つけたぞ。場所は山の裏手側、レベルは4の何処にでもあるような迷宮だが入り口に『終世教』の連中と思しき死体があった。」

 

 やっぱりかぁと背もたれにもたれ掛かる舞鶴に、電子タバコの水蒸気を吐き出す赤穂。近年、激化する教団の動きにガードたちはうんざりしていた。実体の掴めないうえ、残された団員の身元を探ってもガードどころかただの一般人ばかりでまるで調査が進まない。それなのに教団の起こしたオーバーフローの被害は拡大する一方だ。


 3年前には教団が起こしたとされるレベル7の迷宮のオーバーフローによって北海道は完全に侵食されてしまった。そして、その領域は未だ解決されておらず、今では『大紅蓮』もしくは『マカハドマ』と呼ばれる極寒地帯となっている。

 

 「指導者とされる『教皇』と『聖女』それに3人の『大司教』は相変わらず情報が掴めない。高レベル迷宮のオーバーフローに噛んでるのは間違いないが。いずれにしろ実体が掴めないままだ。」

 

 吸い終わった電子タバコを胸ポケットにしまいながら不服そうな顔をする。本来は高レベルの迷宮に潜っているはずだったのにとボヤいていると、1人の青年が近づいてきた。

 

 「お嬢、お話中失礼します。被害の確認が出来ましたが如何しましょう。」

 

 「おつかれ小浜(おばま)くん。内訳教えてくれる?」

 

 了解ですと元気よく返事をする小浜と呼ばれる青年。手に持った資料を巡りながら、内容を音読する。

 

 「ガードの死者は15名、負傷者は143名になります。一般人の死傷者は奇跡的にいませんでした。」

 

 その後も遊歩道や田園の被害規模、復興期間から予算の算出とありとあらゆる情報を提示する。その調査結果に満足したのか舞鶴はご苦労様と返した。

 

 「お前のところは有能なのが粒揃いで羨ましいな。うちは平均的に高いが突出したやつは幹部くらいなものだし、人手不足が深刻だ。」

 

 有能な部下を持った舞鶴を羨ましそうに、そして優秀な小浜をギラついた眼差しで視線を向ける。そんな時大柄な男が戻ってくる。

 

 「お嬢、彼を医療班に預けてきました。だいぶ重傷ですけど命に別状はないそうですよ。」

 

 「それは良かった。彼に何かあったらマスターさんに顔向けできませんし。」

 

 男が持ってきた保温の水筒を受け取り、温かい紅茶を付属のコップに注ぎ口をつける。瓦礫の真ん中で優雅に紅茶を飲み出す舞鶴に呆れながら話に出てきた彼に興味を持った赤穂が男を尋ねる。

 

 「その彼ってのは何もんだ?敦賀(つるが)が自ら連れてくなんてどんなビップだ。」

 

 「いやいや、俺らの行きつけの喫茶店の従業員ですよ。イーベンティの腕を切り落とした、ですけど。」

 

 その言葉にニヤリと口角を上げる赤穂。いい人材が居るじゃないかと漏れ出た炎が辺りの気温を上げ、周囲の瓦礫が融解し出す。

 

 「ソイツはうちに欲しいな!どこのどいつだソイツは!」

 

 「ダメですよ登悟さん、彼は重傷ですし。もしどこかに属するのなら私が貰いますよ。」

 

 熱気に目もくれず紅茶を飲む舞鶴が赤穂に反発する。その発言に鋭い視線を向けるも直ぐにため息と共に熱気を抑える。

 

 「はぁ、それじゃあ敦賀お前がうちに来ないか。うちはアタッカーばかりで、お前のような優秀なタンクは少ないんだ。報酬も舞鶴の倍は出すぞ。」

 

 雇い主の前で堂々と向上し出す赤穂に舞鶴は何も言わず紅茶を飲み、敦賀も首を横に振るだけだった。

 

 「すみません赤穂さん、俺はお嬢に拾ってもらった大恩がありますので。」

 

 その発言に不服だがふっと笑い立ち上がる。舞鶴は満足そうに水筒のコップを戻し、小浜に水筒を預ける。

 

 「はぁ、どいつにも断られてばっかりだ。この前も死神のところのお転婆娘にも断られたし。」

 

 「よそのガードにばかり手を出しちゃいけませんよ。そんなんじゃ、また娘さんにどやされますよ。」

 

 はぁ、と頭をかきながらいると舞鶴に突っ込まれる。的をいていたのか渋い顔をしながら自分のギルドメンバーの元に戻って行った。舞鶴も立ち上がり黒塗りの車へと上機嫌なようで鼻歌まじりで歩いていき、小浜と敦賀もそれに続いた。

 

 「お腹減ったし何か食べて行こうか。今日はちょっと豪華なものでもいいよ。」

 

 「おおっ、良いですねお嬢。ちょうど良い店知ってますよ。」

 

 にこやかに笑いながら車に乗り込み、どこで食事にするか話しながら都心へと走って行った。

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