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23話

 黒煙と砂煙が立ち込める地面と、その黒煙のせいか雨雲が立ち込めたことで一帯は酷く暗くなっていた。次第に煙が晴れていき地面が見えだすが、そこは遊歩道か畦道か、はたまた田園だったのかも分からない瓦礫の山になっていた。

 

 「うぅ、痛い…」

 

 「だ…誰か…」

 

 苦痛を訴える声がポツポツ聞こえる。しかし倒れている人の数はその比ではなく、すでに冷たくなってしまった人も数多くいた。

 煙が晴れたことで瞼を開けた幸人。身体は傷まみれだが、ガードになったことで強度の上がった身体を動かすことに支障はなかった。

 

 「何とか耐えれましたね。瀬戸さん大丈夫で…」

 

 近くにいたはずの瀬戸を探して視線を向けたのはすぐ前方。そこには幸人を庇って手足がズタズタになった彼がいた。張っていたであろう盾は光の粒になり、魔力のほとんどを消耗したのか意識も薄れていた。

 

 「よかった、兄さんは無事ですか。」

 

 そんなときにも他人の心配をする彼に幸人は言葉を失う。そんな表情を見てか無事な姿を見てか、糸が切れたように崩れ落ち意識を失った。咄嗟に瀬戸の身体を支えてゆっくりとその場に寝かせる。

 

 損傷が激しい為か呼吸は浅いが息はあるためすぐさま治療を受けさせたいが、その傷を治せるほどのポーションは持っていない。周りではミノタウロスが暴れ回っており、迷宮調査に来ていた高レベルのガードはそちらの対応で手一杯のようだった。


 このままでは瀬戸の命が危ないうえ、いつ巻き添えをくらうかもしれないため移動しようと考える。そんな幸人の目の前に黒い鎧が静かに着地した。

 

 「この感じ、間違いない『イーベンティ』だ。」

 

 目の前にしただけで悪寒が身体中を駆け巡る。抵抗できるかも怪しい絶対的な相手に身体が硬直する。

 

 あるものは迷宮は神様からの贈り物だと言う。人間を強くし、砂海の侵略者から人類を守るための力を授けてくれる恩寵だと。しかし恩寵といわれる迷宮が人類の脅威になる場合がある。オーバーフローは単に迷宮内のモンスターが溢れ出るだけではなく、特異の存在を呼び寄せることが分かっている。オーバーフローを起こすまで迷宮内には存在しない筈のそれはどこから、どうやって現れているかは未だに分かっていない。しかしそれについて判明していることは2つ、オーバーフローを起こした場所に必ず現れること。そしてもう一つはそれが海を砂海にした元凶、『イーベンティ』であること。

 

 砂海が造られてから20年、未だに攻略されることのない領域の侵略者を前に幸人は思考を巡らせる。どうすればこの状況を打開できるか。どうすれば瀕死の瀬戸を助けることが出来るか。しかしそんな考えを敵は待ってはくれない。1歩2歩と幸人に近づき言葉を発した。

 

 「オ前ハ地上ノ者ナノカ?」

 

 奇妙な発音と唐突な問いかけにビクっと反応してしまう。更にその黒い鎧は顔がある様には見えないが視線を向けられているであろうことを感じる。

 

 「⬜︎⬜︎⬜︎ノ関係者カ。シカシ◇◇◇◇ノ気配モ感ジル。」

 

 まるで梟の様に異様な首の曲がり方をしながら幸人を覗き込んでくる。名称なのか所々聞き取れないことを言っている。しかし観察し終わったのか、それとも興味が失せたのか手をかざし、またしても黒い光が収束する。

 

 「ドチラニシロ我々の敵二違イナイ、始末スル。」

 

 このままでは瀬戸も巻き込まれる。なんとか自分にヘイトを向けて彼を助けようと考える。

 

 『ブースト』

 

 魔力を振り絞り付与を施すと鎧の背後をとり斬りかかる。ゴブリンを両断してきた攻撃も黒い鎧には弾かれてダメージを与えられない。振り向いた途端黒い光線を放つ鎧。今回はチャージ時間が短かったのかさっき程の威力はない。しかし幸人の身体強度ではかすっただけで致命傷になりかねない。


 幸人に向けて黒い光線を連発する黒い鎧。幸人が最優先目標なのか、瀬戸には目もくれず必要に追いかける。付与も切れたなかどうにか避けながら瀬戸との距離を稼ぐ。しかし体力の限界がきたのか瓦礫に足がもつれる。

 

 「しまった!」

 

 そう思った瞬間目の前まで光線が迫る。避けることは叶わない。

 

 「夜帷です主人様!」

 

 ツユクサの声にハッとして左手を突き出し、指輪に力を込める。夜帷は幸人の意思を呼んでいるのか腕に纏う形ではなく盾のように広がった。


 光線が直撃して辺りに爆煙が巻き起こる。徐々に晴れていきその姿が見えてくるが、その姿は満身創痍だった。爆風の影響か至る所から出血し左手は、原型は留めているが裂傷と骨折してるだろう事はあきらかだった。

 

 「主人様起き上がってください!敵が迫ってます!」

 

 ツユクサが叫んでいるが意識が遠のいてきているせいか上手く聞き取れない。出血のせいか視界もかすみだし、どうにか鎧に視線を向ける。黒い鎧は確実にトドメを刺すためか近づいてくる。


 ここまでなのか。動かない身体にそんな諦めが漏れる。ただ適度に稼いで妹にいい暮らしをさせてやりたかった、それだけだったのに、どうしてこうなったのかと考える。ガードになった時、弱くても稼げればそれでいいと思ったのに。


 強ければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 

 強くないと妹も守れない。

 

 強くないとまた奪われる。

 

 何を犠牲にしても、何ものも奪われない強さが欲しい。

 

 死に際に芽生えた強い意思、その瞬間右手に白炎が燃え上がる。出血のせいで鈍くなったのか痛みは感じない。次第に白炎は長細く伸びていきそれが次第に刀身をあらわにした。

 真っ白な抜き身の刀身。(つば)()もない刀身だけの刀。更には刀の(むね)もない刃だけの刀でない棟の部分から湯気のように白炎が揺らめいていた。不意に現れたその刀がなんなのかはどうしてか分かった。

 

 『心象武装(しんしょうぶそう)

 

 不思議とその刀の能力が分かり、どうすればいいか自ずと理解できた。

 

 残った体力を振り絞り唯一動く右手で刀を振り上げる。(みね)が上を向いた時、湯気ほどだった炎が激しく燃え上がる。その瞬間振り下ろすと魔力を纏った斬撃より激しい斬撃が鎧に向かって飛んでいく。不意の攻撃に腕でガードしようとした鎧の腕はその斬撃に切り飛ばされた。

 

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