19話
ほのかの説教から1日明け、こっぴどく叱られた幸人はうつむき気味に電車に揺られていた。今日こそは早く帰らないとと考えながら瀬戸から連絡のあった迷宮に向かう。
「今日はレベル2の迷宮に行くんですよね。昨日の今日でもうレベル2とは主人様の成長は計り知れないですね!」
落ち込み気味の幸人に他人事の様に明るいツユクサが無遠慮に話しかけてくる。しかしツユクサの言った通りで今幸人は認定レベル2の迷宮に向かっていた。
レベル2の迷宮は数がレベル1の迷宮に比べて少なく、先日に申請をしておかないとガードが多すぎて入れ無い、なんてこともザラにあるとの事だ。そのため瀬戸が帰りに協会のサイトで数カ所の迷宮に申請して、そのうちの一つが通ったのだったが、迷宮が有る22区は遠方にあるため電車に長く揺られることになっていた。
22区に降りると辺りは田園と山々に囲まれた長閑な場所だった。区の数字は小さいほど都心に近く、逆に大きい数字は田舎に近かったり誰も住んで無かったりしている。この22区も例に漏れず過疎が進んだ地方でいわゆる、限界集落といった様子だった。
しかし最寄りの駅は大きく駅周辺のみとはいえ活気があった。そんな田舎で賑わいを見せるのは、多くのカードが向かう迷宮があるからに他ならなかった。レベル2の永続型迷宮が少ないとはいっても少し異常に思えるほどだった。
「迷宮があるだけでこんなに賑わうなんて、それか他に何かイベントでもあるのか?」
あたりを見渡せば高そうな装備をまとった一団が目に入る。2、30は居るであろうそのガードたちは年齢もまちまちだったが同じ紋章を装備に施していた。さらにレベル2の迷宮には似つかわしくない高レベルと思われるガードも複数人いる様子だった。
誰かに事情を尋ねようとした時、不意に金髪の高身長男性が目に留まる。
「兄さんおはようございます。今日も張り切っていきましょう!」
ツユクサほどでは無いにしても快活なその声に周囲の視線が集まる。と思いきや昨日ほどの注目は集めない、ほとんどの人が迷宮に向けて歩き出しているか、ギルドのメンバーどうしで話し合っており、こちらに注目するものはあまり居なかった。
「おはようございます。やけに人が多いというか、物々しい感じがするんですけど何かあるんですか?」
「あぁ、これっすか。おそらく理由は二つですね。ここから少し歩きますし、とりあえず迷宮に向けて歩きながら話しましょうか。」
対面早々質問する幸人に思い当たる理由があると話す瀬戸。迷宮までは長いためその道すがら話すといい2人は歩き出した。
迷宮は山中にあるため山道の悪路を進む羽目になると思っていた幸人だったが、実際は丁寧に補装された遊歩道を歩いていた。その山道以外は土道や畦道、車の走る道路のみアスファルトが敷かれているような中でここまで整備された道はういて見えた。しかしこれもガードが多く利用するための措置と考えると納得もいった。
「それで人が多い理由ですけど、一つは今から行く迷宮に『祈願碑』があるらしいんスよ!」
「その『祈願碑』っていうのはなんなんですか?」
ウキウキで話す瀬戸とは対照的に何のことか分かっていない幸人。というのもガードになったのはつい昨日のこと。そのためガードついての知識が著しく欠けていた。当然世間一般に知られるガードの知識や、事前に調べておいた微々たる知識はあるのだが今のような特異事例などといたことには疎かった。
「知らないんスか?祈願碑は1人一回限定でスキルを得られるオブジェクトのことっス。しかも結構高い確率でレアなスキルが手に入るとか。」
その説明に確かにすごいと返す。瀬戸も申請後に下調べを兼ねて迷宮の攻略サイトを閲覧しているときにその情報を目にして驚いたという。特にデメリットもなくタダで強くなれる可能性が有るのは喜ばしかった。
問題があるとすれば自身に噛み合わないスキルだと無用の長物になってしまうこと。もう一つはこの迷宮は5層まであるのだが祈願碑は2層にあり、迷宮のレベルが1上がるだけでモンスターもかなり強くなるため1日では到達できないだろうとのことだった。しかし許可は一週間とったとのことで、その間には到達できるだろうと気がはやっていた。
「それでもう一つの方は何なんですか?」
ついつい祈願碑の話でうかれてしまい忘れかけていたもう一つの理由を尋ねる。すると先ほどとは打って変わり真面目なトーンで話し始める。
「実は、この辺りで高レベルの迷宮反応があったらしいんス。でもその迷宮がどこにもにも見当たらないらしくって、それで協会がガードを派遣したって話らしいっス。」
迷宮の発生は今の日本では珍しくも無い。当然迷宮のレベルが高いこともここ数年では多くなっている。しかし同時に迷宮発見の精度も高くなっており、レベルの判別は難しくとも場所の特定ができないことは稀となっていた。迷宮が見当たらない、その話を聞いて誰もが頭によぎる団体がある。
「もしかして『終世教』の仕業なんですか。」
「わかりません。けど協会がいち早く動いているとなると可能性は高そうっスね。」
迷宮の所在を隠す、それは教団の常套手段だった。どうやっているかは分からないが目をつけた迷宮を発見できなくし、更には意図的にオーバーフローを引き起こす。ここ数年に何十回とそうしたことが起こり、その度深刻な被害をもたらした。
彼らの動機も不明で犯行声明も行わない。実行犯を捉えて尋問した際に教団名がわかったがそれ以外に情報はなく、協会は要注意団体に指定して注意を呼びかるにとどまっている。
「まぁ大手のギルドも来てるみたいですから、俺たちは俺たちの心配をしましょう。」
分からないものに慌ててもしょうがないと先頭を歩く瀬戸。陽気な彼にならって幸人も教団のことは頭の片隅に置きつつ、迷宮へと向かった。
しかしまだ2人は知らない。今日2人に死が迫っていることを。




