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14話

 

 「これで今すぐにでも迷宮に潜れるでしょう。それでは指輪以外のお会計まとめますね。」

 

 一般的な鉄製の脛当てと鉄甲、服の内側に胸当てを装着した幸人は見た目だけならガードと遜色無くなっていた。どれも3級品だが幸人のステータスにもお財布事情にも最適の装備だった。こんな装備でも十数万円、他の店舗なら倍はする。そう考えると十分養親的だった。明細を持ってきた希にクレジットカードで会計すると領収書を手渡した。

 

 「まいど有難うございました。ところでお兄さん、今更ですがお名前を伺っても。」

 

 「あぁ、俺は雪見幸人て言います。」

 

 そういえば名乗ってなかったと名前を教える。するとピクッと反応を示した。しかしすぐに何事もなかったように振る舞った。幸人の方も何かの勘違いかと気にしなかった。

 準備の終わりいよいよ迷宮に行こうと思い、来た扉から外に出る。

 

 「それではお兄さん、またのご来店お待ちしていますね。」

 

 手を振り見送る希を背に幸人は路地から抜け大通りにでた。

 

 「幸先のいい買い物でしたね主人様。初期投資とはいえ今の主人様には痛い出費ですし、早速稼ぎにいきましょう。」

 

 「そうだな、いよいよ迷宮本番だな。」

 

 指輪のアイテムボックスにしまったツユクサと何事もなく念話する。懸念はあったものの問題なく話せることを確認すると足取りは早まり、迷宮へと急いだ。

 

 

 

 幸人が見えなくなった頃、商店前のガードの女性の1人が希に話しかけた。

 

 「良かったのですか。幻想級のアイテムをあんな初心者にあげてしまって。」

 

 「良いんだよ、彼は見込みがあるしね。」

 

 先ほどまでの天真爛漫な喋りではなく落ち着いた喋り口調になる希。女性も明らかに子供に見える希に敬語を崩さない。それどころか一切の疑問も向けはしなかった。

 

 「貴方様がそう言うのであればそうなんでしょう。ところで協会長の雨飾(あまかざり)様から定例会議の連絡が来ていました。」

 

 デバイスに表示されたメッセージを見せる女性。それをみた希はもうそんな時期かと呟いた。そして脱いでいたフードを被り直し背伸びする。

 

 「今日は店仕舞いかな。まだ鑑定の終わってないアイテムが沢山あるし『天姫』や『死神』に頼まれてる鑑定もあるし、僕は工房に戻るね。」

 

 「畏まりました守座様。」

 

 先ほどまでの薄暗いだけだった路地裏に霧が立ち込める。そしてその霧に希の姿が呑まれ、輪郭も分からなくなると霧も晴れていき姿を消していた。

 

 

 

 永続型迷宮。通常の迷宮とは違い攻略後も消えることなく残り続ける迷宮のことをいう。モンスターも定期的に出現するが認定のレベルが低いためガードたちの丁度いいレベル上げ、金策の場となっている。

 

 そのため人が多くなると効率が落ちるを思われがちだが実際そこまで人は多くない。というのもある程度強いガードはチーム、もしくはギルドに入って居る。そしてチームやギルドとなると永続型迷宮ではなく発生した迷宮の方が報酬が圧倒的のため中級者、上級者はもはや来ることはない、いわゆるチュートリアルステージだ。

 

 そういう事もあり数カ所ある永続型迷宮には初心者が集まっている。

 

 「前衛募集しています!メンバーは5人います!」

 

 「3級以上の火力職いませんか?回復能力持ちの方優遇します。」

 

 「ギルド設立予定です。固有式によって優遇するんでどうですか。」

 

 チームそれぞれで集まった人たちが道ゆくガードに勧誘を行っている。当然色々な固有式でチームを組んだ方が臨機応変に対応できるため5、6人で組むのが一般的だ。だが当然固有式がある事が前提なので幸人がどこかのチームに入るのは難しい話だった。

 

 「まぁ経験値効率も落ちますし、ここの認定はレベル1みたいですしソロで入るのが無難かもですよ。」

 

 「そんな負け惜しみみたいな言い方しなくても元よりそのつもりだったよ。」

 

 フォローするようなツユクサの言葉にグサグサ刺されながら苦笑いに顔がひきつる。言われずともと迷宮の入り口に真っ直ぐ向かう。

 

 「やぁ兄さんもしかして1人で迷宮に潜るのかい。」

 

 軽薄そうな声が聞こえてくる。自分以外にも1人で迷宮に入ろうとしてるガードがいるのかと思いつつ歩みを進める。

 

 「おいおい無視すんなよ。そこの白髪の兄さんだよ。」

 

 白髪かぁと思うものも足を止めない幸人。今時色髪は珍しい事はない。いまだに黒髪が多いがそれでも2、3割は色髪だ。

 

 そうこう考えていると急に肩を掴まれ、足を止めることになった。ずっと呼ばれていたのは自分だったのかと気付き振り返ると高身長の男が立っている。目元が見えないほど伸びた金髪に引き締まった身体、チャラい大学生といった風体の男。そして決して背の低くない幸人が見上げるほど伸びた高身長。

 

 ニヤッと口角の上がったその男に周囲も騒つくが誰も割っては入りはしない。男性陣は目を潜め、女性陣は視線すら向けようとしない。よっぽどの嫌われ者なのか幸人も警戒を強めた。

 

 「なんですか、急いでいるんですけど。」

 

 「なに、大したことじゃないさ。兄さんは誰とも組まず1人で迷宮に入るのか聞きたいんだよ。」

 

 おそらく年上だろう丁寧に、しかし語気を強め質問する幸人にヘラヘラとそんな怪しい質問をする男。次第に周りにいた人集りも巻き込まれまいとまばらになっていた。

 

 「とくに女の子と組んだり、友達同士で組んだりとかそんな事はないのかと思ってさ。どうなんだい?」

 

 もはや犯行予告にしか聞こえない質問に身構える。相当問題を起こしてるヤバいやつなのではと思いつつ、ならいっそ本当のこと言って早々に離れるのが良いと決断する。

 

 「そんな人はいません。俺は1人で潜るのでこれで。」

 

 「そいつは良かった。」

 

 男の発言に女性狙いの悪質ガードかと思いきや単身のガードを狙った殺人鬼だったのかとツユクサを取り出そうとする幸人だったがそれよりも速く男が動く。

 

 相当の手練れだったのかと思うが同時に幸人は固まった。しかし固有式を使われたわけでも、スキルを使われたわけでもなかった。男は両手合わせて深々と頭を下げた。

 

 「頼む、自分とチームを組んでくれ!」

 

 「はぁ!?」

 

 先ほどまでの見上げていた男を見下ろしていた。大きな声を上げたせいか男が真剣に頭を下げているせいか、周囲から視線が集まる。

 

 「ちょっと頭を上げてください!とりあえず向こうで話を聞くのでもうやめて下さい!」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 頭を上げさせ近くのガラス張りの飲食店を指差し、移動しようと促した。すると一度頭を上げるも笑みを浮かべもう一度頭を下げた。

 

 向けられる視線は男だけでなく幸人にも冷ややかに向けられていた。

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