13話
「さぁ好きなだけ見ていって下さいな。」
案内された店内は通りのどの店にも負けない品揃えだった。高い天井に広大なスペース、外観と比例しないその室内は物凄く貴重といわれている空間拡張の魔導具が使われているとの事。そしてその広大なスペースを覆い尽くしそうな、魔力で強化されたショーケースには列ごとに武器や防具、装飾品から消耗品までありとあらゆるものが並んでいる。
更に商品の一つ一つに等級や能力、装備条件が事細かに記載されている。普通それらの情報は特殊な鑑定スキルが必要になり、鑑定に出すだけでそれなりの金額が掛かるがこの店内にはほぼ全てに鑑定結果が記載されていた。
「3級品はともかく、2級や1級の品まで有るなんて。これじゃ協会運営の店舗よりすごい事なんじゃ。」
「品揃えには自信が有りますからね。そうだ先ほどのお詫びにどれでも一つ好きなものをタダで差し上げますよ。」
「本当に!」
見入る様にショーケースを覗き込んでいた幸人にそんな太っ腹なことを言い出す希。驚きのあまり振り返るともちろんと返事が返ってくる。先ほども真剣に眺めていたが更に真剣な表情であたりを見回す。
今の自分に必要な物は何かと思考を巡らせる。まず武器はツユクサがあることで除外される。消耗品も配布分があるし装飾品はあくまでステータスの補助で今すぐ必要にはならないだろうと考えた。となれば選ぶのは防具だろう、そう考え防具の置いてある列に移動しようとした幸人だが、ふととあるショーケースの前で足を止めた。
「これは…。」
「どうしたんですか主人様。防具の置いてある列はもっと向こうですよ。その指輪がどうかしたんですか?」
幸人が防具を選ぶことを察していたツユクサはふいに足を止めた幸人に問いかける。だが返事もなくただそこにある黒い指輪に視線を向けていた。少し厚みがありグルっと一周紅い線が入ったシンプルな指輪。どういった物なのか商品説明を見ようとしたがこの商品にはそれが書かれていなかった。
「おっ、良いものに目を付けましたね。そちらの商品は『夜帷』というもので、なんと等級は「幻想級」なんですよ。」
希のその説明にえっ、と大きな声をあげる幸人。そして値札がないもののきっと高級なものだろうと恐ろしくなり後退りした。
武器や防具、装飾品に消耗品は一括りにアイテムと呼ばれるが、それらには5段階の等級は存在する。3級品から1級品、その上に幻想級と神創級が存在する。1級までの品は広く普及しているが幻想級と神創級に関してはほぼ出回らない。もし出品されていても数千万から数億の値がついており一流のガードか富豪のコレクターしか買わない、幸人とは縁のない代物。それがどういう訳か目の前にある。しかもタダでくれると言っていたこの空間内に。
「もしかしてこれを選んでも良いんですか?」
「うーん、それは…」
あまりの驚きからか、希の役職に気付いたからか敬語で質問してしまう。それに対して難しいといった表情を浮かべる。それもそうかと他の物を見に行こうとするとそれを察したのか呼び止める。
「違うんです。ただ少し問題がありまして。というのも幻想級以上の物には相性がありまして、相性が悪いとただのアクセサリーになっちゃうんです。でもそうですね、ちょっと試してみますか。」
相性と言われると不安になる。大体の場合アイテムの相性は固有式に関係していると言われている。となると固有式のない幸人が扱えるかは難しいだろうからだ。
そうこう思っている間に希はショーケースの隅にある金属に親指を当てる。指紋認証装置だったようでガラス戸が開き指輪を取り出した。
「それではこれに魔力を注いでください。まずは手のひらに置いて試しましょう。」
指輪を幸人の左手に置く。不安には思ったが物は試しと腹を括った。魔力の扱いは散々練習したのでお手のものだった。グッと握り込み魔力を込めると何もおこらず、どころか魔力を吸われ続けた。段々とキツくなってきたのか苦しい表情を浮かべると希が止めようと手を伸ばそうとする。
「無理そうですね。諦めて他の…」
その瞬間、幸人の手のひらから炎のように黒い影が溢れ出し腕を這い上がり左手を覆い尽くした。突然の事に振り払おうとするがびくともせず、しかしすぐに痛みも不自由さもないことから落ち着きを取り戻した。
「これは一体。これは相性が悪いから不安定なのか。」
腕を覆った影がユラユラとなびく。その影が肩まで伸びてはいるがこれといった形になる気配はないことから不釣り合いだったのかと落胆した。
しかし希は違うようで笑いかけた。
「おめでとうございます!夜帷に適合しましたね。」
「えっ、でもすごく不安定そうだけど。」
拍手で称える希と対照的に戸惑う幸人。本当に適合してるのかと聞き返す。
「間違いありません。形が不安定なのはあくまでお兄さんの魔力量が少ないからで相性が悪い訳じゃないですから。」
自分の魔力ではまだ肩までしか覆えないのかと思いつつもいずれは全身を覆えるかと思考する。それと同時に疑問が浮かぶ。
「今更だけど、これってどういうアイテムなんですか?それにこの影みたいなのって覆ったらどうなるんです?」
「その影は覆った部分を高硬度の防御を施してくれます。盾兼防具みたいな感じですね。更に常に魔力を消費する訳じゃなくてダメージを受けた時のみ消費するんでコスパも良いですよ。」
まさに求めていた性能。魔力消費が少ないのは幸人にとっては必須級だった事もあり、その価値は計り知れなかった。そこに付け加えるようにもう一言付け加える。
「更にコンテナサイズほどですがアイテムボックスの機能が付いてます。まぁおまけ程度の機能ですね。」
しれっととんでもない機能の説明を受ける。亜空間倉庫とも言われるそれは大きさ次第だが確実に億を超えるほどの価値がある。ますます貰って良いのか不安になっていく。
「本当にこれ貰って良いのかな。正直別のも選んだ方がいいような。」
「いえいえ構いませんよ。どうせ今まで適合出来る人がいなくて置き物になってましたから。使えもしない人には売る気もありませんでしたから。」
指輪に魔力を送るのをやめると最初とは反対に影が指輪に吸い込まれ元の指輪に戻る。しかし発動前は手のひらの上にあったはずのそれは幸人の指にはまっていた。どうしても貰ってもいいのかと思ってしまうが、希はもはや気にしないようにおススメのアイテムを紹介し続けていた。




