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10話


 「それじゃあ行ってきます。」

 

 ツユクサの入ったカバンを背負い、靴を履き替えて挨拶をする幸人。返事がないが無人ではなく視線の先には不機嫌な妹、ほのかの姿があった。たたでさえジト目で感情を読みにくい彼女のその目はいつもより鋭く感じた。

 それもそのはず、よりによって幸人がガードになるという話を彼女が聞いたのはつい昨日の事だった。

 

 「本当にガードになるつもりなんですね。」

 

 朝食の時から無言を突き通してきたほのかがようやく口を開く。だがその口調は刺々しく怒りの感情を読み取る事は容易だった。

 

 「伝えるのが遅れたのは悪かったって。でも、そうでもしないと絶対許してくれないと思って。」

 

 機嫌を伺う様に弁明しようとする。到底許しが貰えるとも思わなかった幸人だが、はぁというため息の後、ほのかはリビングに戻っていく。

 これは当分の間口も聞いてもらえないのではと思った時再びほのかが戻ってきた。

 

 「おにぎりを幾つか入れてあるから食べれる時に食べて下さい。それと、帰ったら話があるので早く帰ってきてください。」

 

 そう言うと保冷バックを押し付けるほのか。諦めたのか呆れたのかいつも通りの口調に戻っていた。

 ありがとうと保冷バックをカバンに入れドアノブに手をかけ再度この言葉を口にした。

 

 「行ってきます。」

 

 蒼く澄んだ空に風に靡く桜の枝。心地の良い風が春を告げているようだった。

 

 

 4月の9日、その日幸人はガードになるためガード協会の本部が有る1区に向かっていた。迷宮の発生から20年、地下の建造物はそれらの発生の際に侵食され使用不可になってしまう。更に攻略して迷宮が消えても全て土で埋め戻されてしまうため、地下施設は全て廃棄され新たに造られることはなかった。

 そのため地上部分が発展し電車や車、モノレールといった交通機関は著しく発達した。建築物も地下深くに基礎を造れなくなったが、浅い基礎部分でも建物を支えられる技術が確立され進展を見せた。

 

 これらを総じて何が言いたいかというと、世の中便利になったという事だ。

 

 「本当にこの乗り物は便利ですよね。昔の人達が見たらさぞ驚くでしょうね主人様。」

 

 これらの光景に慣れてしまった幸人と違いはしゃぐツユクサ。修練の成果で他人に声の聞こえない念話のようなものを習得していた。そうでも無ければ今頃幸人は公衆の面前で冷ややかな視線に晒されていた事だろう。

 

 「しかしスキルのレベルアップに結構時間かかっちゃいましたね。あの数値の見える便利な板も映らなくなって詳しい数値が分かんなくなってしましたしね。簡単に見れると良いんですけど。」

 

 「そのいつでも簡単に見れる方のカードを貰いに行くんだけどな。」

 

 電車に揺られながら念話で話す一人と一本。簡易的な物ということもあって貰った仮ステータスカードは一週間ほどで映らなくなった。それ以降はレベルアップ時特有の開放感に似た感覚を基準にカウントしていた。その為満足のいく成長を感じられたのが昨日の事だった。

 

 「繰り返し夢想で修練しても良かったが今のままじゃ頭打ちだし、今後は迷宮潜りつつレベルを上げるしかないな。」

 

 相当スキルレベルが上がったのか1レベル上げるにも時間がかかってきていた。現に今では1レベル上げるにも二週間ほど掛かっていた。

 

 「迷宮で強敵と会えれば私が夢想内で模倣してレベルアップ効率を上げれますから。身体のレベルアップと並行して行うのが良さそうでるね。

 

 「次は1区ガード協会前です。お降りの際は手荷物のお忘れのございません様に…」

 

 ツユクサと今後の天望を話し合っていると到着を知らせるアナウンスがなる。少しして電車は停車しぞろぞろと乗っていたほぼ全ての人が下車する。

 ガードと思われる装備を身につけた人や幸人の様に審査を受けにきたもの、中にはスーツ姿でおそらく協会職員とみられる人々もいた。そして駅の改札を出てすぐ正面に神殿を思わせる高層ビルが視界に入る。ガード協会本部、今からこの建物に入ると思うと妙な緊張感を感じた。



 

 「いらっしゃいませ。御用の方はディスプレイの指示に従って最寄りの窓口までお願いします。」

 

 協会のゲートを潜ると案内の放送が聞こえてくる。中も広大で手前から奥まで左右のカウンターが長々と続き、右は迷宮の斡旋、左は新規登録や各種更新と書かれている。中央には全世界の迷宮のニュースから『白い巨塔』の防衛情報、そして付近の迷宮情報が円筒形のスクリーンに映し出され数百人がその内容を確認していた。

 

 「活気が有りますね。正直もっと暗いところをイメージしてました。」

 

 「分からなくもないな。でも危険なぶん、皆んな高額の報酬や名声といった見返りに心躍らせてる人が大半だ。そういった意味では今の日本で一番活気にあるれてるのかもな。」

 

 自分もその一人といったふうに思いつつ早々に新規登録の窓口に進む。4月の平日というのに人が多く4レーン有る窓口の全てが埋まっていた。仕方ないと一番端のレーン並び自分の順番を待つ。

 そんな中怒号も似た鳴き声が聞こえる。なんで俺が4級の最低なんだ、固有式も無いなんて!カウンターに身を乗り出し、何かの間違いたと懇願する男性。すぐさま協会職員とみられるスーツの人に担がれ外に運ばれていく。その間も男性は叫んでいたがガードの人たちはまたかといった様子で一瞬、視線を向けはしてもすぐに自身の作業にもどる。

 方やいい固有式だ、いいスキルだとカードを手に向かいの迷宮斡旋窓口に向かう者、知人にガードになった旨を電話する者も目に入る。

 その光景に幸人は一抹の不安は抱くがガードになると決めた日のことを思い出し静かに自分の順番を待った。


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