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1話

 例えばの話、人の人生に『題名』をつけるとしたらどうだろうか。


 小説やアニメ、漫画作品には欠かすことのできない『題名』だが、それは登場人物の大きな活躍にフォーカスを合わせた大作だからこそ生まれるものだ。しかしその世界でなんの変哲もない、ただただ誰が見ても普通の生き方ならきっと、そこには無題『ノータイトル』が相応しい。

 

 

 

 2048年、その年突如として太平洋の一部は姿を消した。正しくは海は枯れ果て、後に残ったのは海面と同じ高さまで堆積した砂だけだった。それも全ては空から飛来した一つの奇怪な物体が原因とされた。

 

 海を砂へと変貌させたそれはその場で建造物を構成し、さらには物語に出てくるような、異形のモンスターを各地に放った。

 

 当然、太平洋に面する日本もその際に大打撃を受けた。現代武器は有効ではあったが、モンスターの種類、数の前では防戦一方を強いられていた。


 そんな時、人々は生き残るためか魔力に目覚めるものが現れ出した。それによって20年だった今も砂海の防衛戦を維持している。だが今でも人々はこの時のことを色濃く記憶しており、移行この現象は「転変海砂事変(てんぺんかいさじへん)」と言われるようになった。

 

 

 

 2068年とある街の高校、窓際の席から2月の寒空を見上げる少年はいた。黒板の前に立ち教鞭を振う教師にはめもくれず、ただ空を見ていた。

 

 「おーい雪見、ちゃんと先生の話聞いてるか?」

 

 教師に名前を呼ばれて振り向く白髪の少年、雪見幸人(ゆきみゆきと)は寝起きの様な声を上げた。

 

 「んあ、すみません聞いてませんでした。」


 「全く、卒業まで後わずかだというのにお前は相変わらずだな。社会に出てからが先生心配だよ。」

 

 クラス中で笑い声が上がる中、幸人は頭を抱えていた。

 

 

 授業も終わり昼食どきになる。弁当箱を机の上に出し、お茶のペットボトルに口をつける時も幸人まだ空を見ていた。

 

 「そんなに空ばっか見て、なんかあるのか?」

 

 ふと気がつくと前の席にウニのようなチクチク頭の少年が一人座り、机には彼の弁当箱が置かれていた。

 

 「一樹か、別ににもないよ。単に考え事してただけ。」


 「なんだよどうせ、ほのかちゃんのことだろ。」

  

 会話を弾ませながら包みを開く中庄一樹(なかしょうかずき)。彼は幸人と一番仲のいいと言ってもいい友人。その彼の言う「ほのか」とは幸人のニ歳違いの妹のことである。

 

 「ああ、愛しの妹の手作り弁当のことで頭がいっぱいだったからな。昼前の授業はどうも頭に入って来ない。」

 

 恥ずかしげもなく言い放つ彼を「本当シスコンだな。」と一蹴する。事実幸人は妹を溺愛している。

 

 「でもまぁ、朝飯と弁当作ってくれる献身的な女の子っていいよな。俺の周りには居ないよそんな子。」


 「悪かったわね、彼女が献身的じゃなくて。」

 

 お淑やかな中に棘の感じる声が一樹の背後から近づく。それは綺麗な黒髪ストレートの少女だった。

 

 「ひ、瞳。どうしたんだよお前は隣のクラスだろ。それにこっちには滅多来ないじゃん。」


 「あらよっぽど私には聴かれたくない話でもしてたのかしら。」

 

 引き攣ったような表情をする一樹に対し満面の笑みを浮かべる瞳は幸人の机に同じく弁当箱を置き、近くの席から椅子を持ってきて腰を下ろした。同学年で隣のクラスの妹尾瞳(せのおひとみ)この惚気のようなやり取りで分かる通り一樹と瞳は付き合っている。

 

 「一樹じゃないけど本当珍しいな、瞳がこっちのクラスに来るなんて。帰りは二人とも一緒だけど。」


 「私たちもそろそろ卒業でしょ。だから少しでもカズくんと雪見くんの三人で思い出を作っておきたかったのよ。」


 「もう2月だぞ?遅すぎる気がするけど。」

 

 揃って弁当を開ける3人普通の弁当の幸人と一樹。それに比べて豪勢な弁当の瞳の弁当が異彩を放っていた。

 

 「いつ見ても瞳の弁当は凄いな。前日の余り物とは思えない。」


 「だよな。もともと育ちの良さはあったけど、まさか本当にお嬢様だったなんて。」


 「あらカズくん、そんなに物欲しげに見るなら私があーんしてあげましょうか。」

 

 クラス中の男子から殺気の混じった視線を向けられる一樹。そんな視線を向けられてはいらないと答えるしかない。

 

 「それに、凄いって言うなら雪見くんのお弁当もそうなんじゃないかしら?妹さんが朝早起きして作ってくれた、「愛妻」ならぬ「愛妹」弁当なんだから。」


 「それだとほのかの愛が「曖昧」みたいじゃないか。」


 「それはそうね。ほのかちゃんはドライと言うか、クールだし。正直雪見くんの一方的な愛情表現な気がするわ。」

 

 柔らかな笑顔で幸人の心をグサグサと傷つける。育ちが良いという感想を考え直す必要があるように感じていた。

 そんなたわいのない雑談をしている時、不意に放送が鳴り出す。

 

 「全校生徒を連絡します。だだ今同県の十二区域で『迷宮』のが発生が確認されました。通学等で近くを通る際は十分注意してください。繰り返します…。」

 

 放送が鳴り響く中、生徒も騒めきだす。それもそのはず、放送で言っていた「迷宮」が現れたからだ。


 迷宮、ラビリンス、ダンジョン、色々な言い方があるがようは人類の敵、モンスターの巣窟。20年前の転変海砂事変移行、各地で見られるようになった現象である日突如として縦穴が空き、そこからモンスターが侵攻してくる現象。発生原因は不明なため、モンスターと戦う職業「ガード」が日々見回ったり、突入して対処したりしている。ガードはその際にモンスターの死体や迷宮から産出される工芸品、武器などを売って生計を立てたり、砂海から迫るモンスターの迎撃も請け負っている。


 収入は多いが毎年の死者数も多い危険な職業でもある。しかし人類の希望的一面があるため若者に人気の職業でもある。

  

 「十二区域ってことは隣か。ていうか幸人のバイト先って十二区じゃなかったっけ?」


 「ああ、今日もこの後バイトなんだけど大丈夫かな。」


 「気をつけろよ。いくら年々覚醒する奴が増えて、ガードが増えてるとはいえ同じくらい被害は出てるんだから。」

 

 そう、一樹の言うように魔力の覚醒は世界的にみても年々上昇傾向にある。しかし迷宮の難易度、砂海からの侵攻もバランスを取るように上昇している。それがガードの死傷者数の増加の理由でもあった。

 

 「だけど俺が少しでも稼がないとほのかに負担がかかるしな。」

 

 幸人の言葉に言葉を失う2人。というのも幸人には両親が居ない。居たには居たが母親は事故死、父親は仕事で海外に行ったきり行方不明になったのだ。そのため幸人とほのかの両方がバイトをして生活費を稼いでいた。

 

 「流石にお金の問題はどうしようもないけど、それでも何かあったら俺らに相談しろよ。ダチなんだからよ。」

 

 幸人の目を見て強く言う一樹。その言葉に相槌を打つ瞳。2人の思うことは共通の親友を思ってのことということは幸人も感じていた。いい友を持ったと、彼はうっすら笑みを浮かべた。

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