1章 第1話 旅立ち
「はぁ…はぁ…くそっ…。」
またこの夢だ。
「う、うぅ……。」
隣で小さな女の子が泣きながら走っている。
「大丈夫だ、俺が…君たちを守ってみせるから。」
2人とも顔や姿はぼやけてよく見えないけど、男の人は卵みたいなのを抱えながら、女の子と走っている。何かに追われているようだけど、それもあまりよく見えない。だけど、僕はこの夢を忘れてはいけない気がした。
◇◇◇
ルリナ「ユウ!起きなさい!」
ユウ「フワァ……。」
ユウ(また…あの夢か…。)
ここ最近、何度も同じ夢をみる。毎日見ているわけではないけど、誰なのかも分からない人が卵を抱えて、小さな女の子といっしょに、迫っている者からずっと逃げている。
ユウ(一体何なんだろう…。)
僕はその光景に見覚えはない。男の人も女の子も、面識は多分ないはずだ。いや、ぼやけていたから分からないけど。ひとまずこれ以上考えても仕方がないので僕は考えるのをやめた。
ユウ「おはよ…姉さん。」
僕は、体をゆっくり起こして、僕を起こしてくれた女性に話しかける。
エルナ「おはよう、ユウ。ほら、今日から出発なんでしょ?」
ユウ「あっ…!?そうだった、急がないと!!」
エルナ「朝ごはんもみんなが作ってくれているわ。
ほら、早く行くわよ。」
僕はユウ·スターライ。そして、起こしてくれた女性は、
僕の姉、ルリナ·スターライ。厳しくする時もあるが、いつも僕のことを気にかけてくれる優しい姉さんだ。
「「「「ユウ様!ルリナ様!
おはようございます!」」」」
僕たちが食堂へ向かうと、たくさんの使用人からあいさつをされた。まるでどこかの貴族みたいだと、思うだろうが実際そうだ。僕はこの住んでいる国、ムースタン国の一番大きな城、ムースタン城に僕は住んでいる。
シェリア「おはようございます。
ユウ様、ルリナ様、朝食の準備ができていますので
こちらにどうぞ。」
そう言って一歩前にでたのはメイド長であるシェリアさんだ。シェリアさんは僕が小さいころから付きっきりで、色んなことを教えてくれたもう一人のお母さんのような存在の人だ。生活も勉強も礼儀も、全部シェリアさんが教えてくれた。
ユウ「ありがとうございます。シェリアさん。」
ルリナ「いつもありがとね。」
僕たちは席に着く。いつも通り、メイドさん達が料理を運んでくれる。ただ、今日はどこかそわそわしている感じだった。
ユウ「あ、あれ?何か…朝からかなり豪華な気が……。」
シェリア「それは、今日から旅立たれるユウ様のために作ったものになります。」
ユウ「え、えぇ…昨日もそう言って料理を豪華にしてたのに…。」
シェリア「だって…しばらくの間
ユウ様と一緒に食事されることが
なくなると考えると…私たちはとても寂しくて…。」
みんながここまでそわそわしている理由、それは、僕が旅にでたいと言ったことが始まりだった。僕は小さい頃から、城の書斎で本を読むのが好きで、気に入った本は書斎から持ち出したりしていた。ある時、僕は書斎からこの世界にある全ての大陸のことが書かれている本を読んでいた。大陸によって異なる文化、環境、景色、僕は国からでたことがほとんどなかったから。世界には僕の知らないことがたくさんあるんだと初めて知った。そしていつしか、僕は世界中を旅することが夢になっていた。城で暮らすことに縛られて、誰かに世話をしてもらいながら生きるのではなく、自分の力で生きて、自分の自由で行き先を決めて、旅をしていろんな世界を見るそんな旅をしてみたいと思うようになった。
ユウ「はぁ…大げさなんだから…。」
そう話すシェリアさんの周りでメイドさんやシェフの皆さんも寂しそうな顔をしていて、中には涙を流している人もいる。
ルリナ「それだけみんなはあなたのことが大切なのよ。」
ユウ「…うん、でも僕は…みんなと違って…いてっ…。」
ルリナ「こーら、また悪い癖がでてるわよ。自信をつける旅でもあるのに、最初から弱気になってたらダメじゃない。確かにあなたは竜人ではないけど、落ちこぼれなんかじゃない。この私たちが育ててきたのだからね。」
頭を軽く小突いてきた姉さんに、僕は励まされた。実は、僕は赤ちゃんの頃、森で捨てられていたところを姉さんに拾われて、国の人に育てられた。だから僕たちは本当は血がつながっていないし、姉さんたちみたいに竜人でもない。この国は星の魔法を司る星竜という種族が住んでいるのだが、この国で唯一僕だけは人属なのだ。それなのに、この国に住んでいる人たちは種族が違うからと、差別とかもせず、僕をみんなと同じように育ててくれた。だからこそ、僕は期待に応えたくて今まで頑張ってきたが、やはり種族の壁はなかなか越えられず、肉体も魔法もこの国の人と比べても人属である僕は全て劣っていた。だからこそ、僕はどうしても自分に自信がなかった。この旅は、そんな自分に自信をつけるためでもある。誰かに頼らなくても1人で生きていけるようになりたいのだ。
ルリナ「あなたは確かに私たちと比べるとまだまだだけど、もう今の実力なら、ほとんどのモンスターは大丈夫のはずよ。
ユウ「そ、そうかな…。」
ルリナ「自信を持ちなさい!あなたの扱う魔法は私たちにはない魔法なんだから!」
ユウ「う、うん!」
ユウ(そうだ…最初から弱気になってたらダメだ…!1人でも大丈夫だと証明するって決めたんだから!)
ルリナ「ほら、さっさと食べなさい
早くしないと船がでてしまうわ」
姉さんに言われ、僕は急いで朝食を食べる。僕が旅にでることには、みんなから反対された。ほとんどの理由が寂しいという理由だったけどら最終的には姉さんのユウの夢を叶えてあげたいということで、しぶしぶ承諾してくれた。ただ、1つとある条件が課されたりそれは、僕が一番最初に行ってみたかった。ネイチャリー国という国でエンデル学園を卒業することだ。僕は基本的に、ムースタン国の常識しか知らないので旅をするとなると、いろんな国で世間知らずと思われる可能性がある。一般的な常識を身につけて、他の人とも交流できるようになってほしいというのがみんなの思いのようだ。僕は今までシェリアさんから勉強を教えてもらっていたが、学園で他にもいろんなことを学べるとなると、少し楽しみになっていた。
ユウ「姉さん、荷物をまとめてくるよ。」
エルナ「分かったわ、じゃあ準備ができたなら、エントランスに来なさい。」
ユウ「うん。」
僕は自室に戻って荷物を手に取りエントランスへと向かった。
ユウ「あっ…!」
エントランスには、メイドさんやシェリアさん。姉さんもいたが、その中心には僕を一番待っていたであろう人がいた。
エルナ「やっときたわね。」
それは、僕を引き取ったこの国の女王様であり、お母さんであるエルナ·スターライだった。
ユウ「おかあ…うぐっ!?」
エルナ「うぅ…本当に行っちゃうのね…。」
ユウ「お、おかあさっ…!?く、首しまって…。」
ルリナ「お、お母様!?お、落ち着いてください!!」
シェリア「あらあら…。」
お母さんに近づいた瞬間僕はものすごい力で抱かれた。もちろんお母さんも竜人なのでとてつもない力を持っている多分、お母さんにとっては軽く抱いている感じなのだろうが、人属である僕には体全体を潰されそうな感じだ。
エルナ「あっ…私としたことが…取り乱してごめんねユウ。」
ユウ「ダ,ダイジョウブデス…。」
なんとか平気そうな顔をするが正直結構痛かったし苦しかった。
エルナ「そんなことより、忘れ物はない?道は分かる?1人でも買い物できる?やっぱり誰かしらメイドをつけていたほうが…。」
ユウ「そ、そんなに心配しなくて大丈夫だって!1人でもできるよ!」
エルナ「うぅ…心配だわ…たまには顔を見せにきてね?」
ユウ「わ、分かってるよ。えっと…その…。」
僕が旅をすることに一番反対していたのはお母さんだった。血はつながっていなくても、僕を大切にしてくれていたからこそ、危険な目に遭ってほしくないからずっと反対し続けていたのだ。でも、僕は何度も何度もお母さんを説得して最終的にはおれてもらった。だから、少し気まずかった。僕のことを心配してくれていたのに愛してくれていたはずなのに、その気持ちを踏みにじってしまったから、僕は何を言えばいいのか、分からなかった。
エルナ「ユウ、私ね、確かに寂しかったわ。いきなりのことだったから急に別れがきた感じで…。でも同時に嬉しくもあったわ。」
ユウ「えっ…?」
エルナ「いつものあなたなら自信がなくて消極的で、わがままなんて何も言わなかった。だから、本当にやりたかったことを我慢してきたのも分かってたの。」
ユウ(ば、バレてたんだ…。)
今まで隠してきた感情だったから、少し恥ずかしかった。
エルナ「あなたは優しいから他の人を優先して、自分のことはずっと後回しにしてきたからね。だから嬉しかったのよ。初めてあなたが思ってたことを伝えてくれたって。最初こそは、反対だったけど初めてのあなたのわがままだもの私は応援するわ。」
ユウ「お、お母さん…。」
確かに僕は今まで迷惑をかけると思ってわがままを言うことはしなかった。自分のせいで迷惑をかけることが何よりもいやだったから。だから、正直失望されてるんじゃないかと思ってもいた。
エルナ「だから、決めたことは最後までやりきりなさい。私はずっとここで待ってるからね。
ユウ「…はい!」
最後にもう一度だけ、お母さんに抱き締められた。今度は、さっきと違って優しかった。
エルナ「準備はできた?」
ユウ「うん!」
その後も使用人の人全員から応援の声をもらった。もちろん姉さんやシェリアさんからもまだ不安なことはたくさんあるけど、さっきと比べると気持ちが軽くなっていた。
シェリア「いってらっしゃいませ!!」
エルナ「いってらっしゃい!」
ルリナ「いってらっしゃい!」
僕はみんなの声におされ、勢いよく玄関のドアを開けた。そして、いつもの僕とは思えない、元気な声で言った。
ユウ「いってきます!!」
こうして、僕の果てしない旅が始まった。