第三話 この世界は
ウズは家に戻ってすぐ、アラキにリビングのところで待っているよう言い、返り血を落とすためにシャワーを浴びに行った。
その間アラキは椅子に座りながら俯いていた。
数分後、ウズが戻ってきてすぐに、アラキは寝ている間のこと、化け物に襲われるまで、その後のことをおびえながらウズに話した。
ウズは足を組みながらテーブルを指でたたき、イラついているようだ。
「以上が……その……」
アラキはイラついてるウズから目を逸らしながら言った。
「大体分かった、お前の行動原理もな、だがなぁ?」
ウズの声が唸るような、低く怖い声をして、完全に怒っている。
アラキは何かされる、怒られると思い、目を瞑って覚悟した。
「なんで助けを呼ばなかった! 逃げながら叫ぶくらいは出来たろ! そもそも起こせ! この森が危ない事は頭の中に流れたはずだぞ?」
予想外の質問にアラキは目を丸くした。
「えっと、そこまで頭回ってませんでした」
アラキは俯きながら言った。
ウズはため息を吐き。
「ったく、しょうがねぇな、アラキ、とりあえず……」
ウズはアラキの頭の前に手を持っていき、
バチン! と音が鳴り響く程の強さでアラキのおでこにデコピンをした。
「いってぇ!」
アラキは思わず手でおでこを抑えた。
「お前の好奇心に一発やっとかないと気が済まん。許せ」
ウズは笑顔でそう言った。
「普通のデコピンより痛いです。親父にぶん殴られた時ぐらい痛いです」
「そうか、そんじゃ、これが普通のデコピンぐらいに感じるようにしねぇとな」
そう言ってウズは立ってテーブルの横の広いスペースへ行った。
「つー事はこれぐらい強くなるしかないな!」
その言葉と同時に、突然剣がウズの手の中に出現し、そのままウズは剣を振り下ろした。その瞬間、突風が吹き、家具が揺れ、窓からガタガタと音がした。
アラキはその光景を見て、口をぽかんと開けて放心していた。
そして五秒くらい経ったあと。
「え!? どうやってそんな強くなれって……」
「そんなん決まってんだろ? 訓練あるのみ!」
「うわぁ……」
いつの間にか剣がなくなり、ウズはテーブルに戻った。
「強くなねぇと化け物に襲われて森の中で一生を終えるからな? 訓練以外の道はないぞ?」
ウズはそう言った後、ため息をつき。
「だから俺はデコピン一回で許したんだからな? これから地獄が始まるっていうのに……あ……」
ウズは口を滑らせたと言わんばかりの顔をしている。
「地獄……」
アラキは絶望したような、この世の終わりのような声で呟いた。
「まぁまぁ、まずは飯食って肉つけるとこだから、ほら、とりあえず飯食おう、な? そんな怯えるもんじゃねぇって」
そう言ってウズは足早に台所へ行った。
(なんで僕が……)
アラキはウズがいなくなった後、俯きながら考えていた。
何分か経った時。
(そういえば、祖父の形見をお母さんにもらった時からこんなことになってないか? 祖父、生きてた頃何やってたんだろう? ほのぼのしてるのしか見てなかったな、もっと色々話せばよかったな……)
そんな事を考えていると、ウズが料理を持って来た。
「飯出来たぞー」
そう言って持ってきた料理は、見たこともないようなものだった、一見美味しそうだが、食材が何か一ミリも分からなかった、地球では見たことのないような、だが食べられそうな見た目をしていた。
「うま、そう?」
とりあえずいただきますと言ってアラキは一口食べてみた。
「……」
(マッズ、あの薬とはまた違う不味さが、いやまだ薬の方がマシかも……)
そんな事を考えながら必死に顔が引き攣らないようにしていた。
「どうだ?」
ウズが聞いてきた、あの料理を平気そうに一口食べてから。
「おいしい、です……」
アラキは必死に我慢して、顔に出さないようにしながらそう言った。
「え、マジ? アラキ、バカ舌なのか?」
ウズはおかしそうに笑いながら言った。
「え?」
アラキが驚いて言った。
「これが美味しいわけないだろ、俺が作ったんだからな! 俺だってまずいって思いながら食ってるほどだぞ?」
「なんだよ! 気ぃ使って損したぁ、フツーにまずいって」
「そうかそうか、ま、和んだ事だし、話しながら食おうぜ」
それからウズとアラキは食べながら話し始めた、アラキがこの世界に来るまでのこと、日本、地球のことなどをウズに話した。
内容はスマホや飛行機、地球の文明など、この世界には無いだろうと思ったものを片っ端から話した。
ウズは相槌や質問をしながら聞いた。
二人とも食べ終わり、アラキが地球のことについて話し終わった。
「よし! 今度はこっちだな! とは言ってもアラキは大体知ってるよな!」
「そっすね」
(無理やり頭ん中入れられただけだけど……)
「とりあえず、この世界と座者について、軽く言おうか
この世界、つっても名前はわかんねぇ、知ってるのは神様だけだ。この世界は色々な世界に繋がってる、てか全部の世界にだ」
「え! 全部!?」
「お、知らなかったか。そう全部だ、俺も具体的な数はわからん、でも限りなく多い」
「なんでわかるんすか?」
「神話と俺の約一万年ぐらいの知識と千年ぐらいの経験からの憶測だ。八十八星座、多い時には百三十くらいあった地球以外の世界からの奴らにも俺は何度か会ったことがあってな。
ま、それは置いといて、座者はなぜ、どうやって生まれたか……
そこら辺はマジで昔で俺も覚えてねぇ、神話はあるが確証がない。
そして、座者には前世? 前の座者の記憶と座者には絶対に必要だと神が与える知識が座者に目覚めた時に流し込まれる、お前は異例だが、身をもって経験したろ」
「うん、めちゃんこ多かった」
「次に座者の力の源、それは人の認知と信じる力、信仰かな? 地球で例えると俺は有名だろ? 結構な人が知ってるだろ? そんなもんだ」
「それだと十二星座ってどうなるの?」
「俺以上、正直この世界で一番強いのは十二星座の奴らだ。ニ番目がそれ以外の八十八星座の中の有名な奴らと別の世界で一番有名なやつとかだな。
そしてもう一つ、当たり前だが、座者の力はその星座の話とかに影響する、俺だと狩人オーリーオーン、すげぇだろ」
「すげぇ、神話じゃん」
「そうだ、神話だ、だが八十八星座の中には比較的新しく作られ、神話とか逸話を持たないやつもいる、てか小獅子座がそれに当たるぞ?」
「ぐっ!」
「ぐっじゃねぇよ! 神話無くても知られてんだから相応の力秘めてんだからな? 知名度も低くあまり力も持てなかったやつだっているんだぞ?」
「その人たちは?」
「人じゃ無くて座精、星座の妖精としてこの世界に居る。そいつらは肉体を持たない代わりに不老不死だ、八十八星座の中にも座精のやつが居るし別の世界だとむしろ人なやつの方が少ないからな。
座者としてやってるだけでありがたいんだから、感謝しろよな」
「ありがたやー」
「まぁ、基本的な話はひとまずこんなもんでいいだろう。次に、神……お前をここに連れてきた神の話をしようか」
ウズは今までとは違う、真剣な表情で言った。
アラキは今から言われることに緊張し、唾を飲んだ。