第一話 悲しみの中で
祖父が死んだ。
高校生になって一年が経ったばかりの春、僕はこれ以上に悲しい時はなかった。
知らない人の多い通夜で独り、この場の雰囲気とは合わない曇一つない夜空を眺めながら思い返す。
祖父は笑いながら息を引き取った、やりたいことはやり尽くしたと言わんばかりの顔で、目の前で死んでいった。
それでも僕は、涙を堪えながら、もっと色々してあげればと過去を後悔し自分を責めていた、もし今雨が降っていたなら、それを言い訳にして泣きじゃくっていただろう。
そんな時、母に話しかけられた。
「ほら、そんなメソメソすんな」
母は何かを取り出しながら続けて言った。
「これ、遺書が入っていた箱に入っていたそうよ」
そう言って母は大きな山吹色でひし形の宝石がついたペンダントを見せてきた。
「どうしてこれを僕に?」
「遺書に、これはアラキ、あんたの物だって書いてあったのよ」
「なんで僕に……」
「知るかよ、親父に好かれてたんじゃないの?」
母が不機嫌そうな声で言った、あわよくば自分が貰いたそうである。
僕は恐る恐るそのペンダントを受けとった、ペンダントを持った時、そこに祖父が居るような気がした、根拠も何も無いのに。
僕は自然と涙が溢れた、泣かないようにしていたのに、止められなくなってしまった。
それを見た母は、何も言わずにどこかに行ったしまった、居ない方が良いと察してくれたようだ。
その後、通夜が終わるまで泣いて、母に泣きすぎだと怒られ、寝る前に気持ちを落ち着かせる事も出来ず、泣き疲れて寝てしまった。
そして、起きた時。
僕は真っ白い謎の空間にいた。
真っ逆さまに落ちながら。
僕は頭が真っ白になった。
まるでこの空間みたいに……
「ってこんなこと考えてる場合じゃねぇ! なんで! 僕寝てたよな! 夢だよね、流石に、夢だよな!」
体の感覚と意識がはっきりしている、これは夢では無いとわかっていながらも、僕はあらぬ期待を抱いた。
混乱しながらも僕は必死に考える。
どうすれば助かるかと。
その時、微かに声が聞こえた。
男なのか女なのかも分からない声だ、落下の風音であんまり分からなかったが。
「……世……たす……星……」
聞き取れたのはこれだけだった。
「なに! 世界たすけろとでも言ってんの? 無理だって! こんな高校生に! て言うかこんな小説とか漫画みたいな展開ないって! あと星ってなんだよ! 流れ星にでもお願いしろってか?」
ああ、このイラつくと口調が荒くなるの絶対お母さん似だろうな、そう思いながら必死にこの落下死必至の状況から脱する方法を考えた。
そんな抵抗も虚しく、一時間だろうか、長い間落下し続けたあと僕はだんだん意識が飛んでいった。
再び目が覚めた時、僕は見知らぬ森で倒れていた。
一度でいいから知らない天井だって言ってみたかったけど天井すらなかった、葉っぱだった。
クソが。
「なんで? こんなんマジで小説とか漫画のお伽話じゃないの?」
そんな愚痴を言いながら、とりあえず僕はこの森を探索することにした。
探索しなければ何も出来ないし、何しろ水と食料見つけないと早々に死ぬし。
僕は当てもなく彷徨いついに。
何も見つけられなかった。
僕は倒れた。
そりゃそうだ、飲まず食わずでずっと歩いてたもの、だが考えはまとまった。
ここは多分異世界だ、小説とか漫画みたいでありえないとはこの際考えないことにした。
そしてなぜか制服だ、通夜で着たやつだ、パジャマに着替えたのに制服だ。
そしてこれも考えないことにした。
あと、形見のペンダントをなぜか首に下げてる、ベットの横のテーブルに置いたはずなのに。
これも考えないことにした。
「結局なんも解決してねぇじゃねぇか」
こんなふうにツッコミ入れても何も変わらない。
僕は猛烈な頭痛に襲われながら意識を手放した。
理不尽だって、マジで。
三回目の目覚めで僕はやっと言えた。
「知らない天井だ」
◇◆◇
「あ、起きた」
何かを調合しながら男の人が言った。
「ここは誰? 僕はどこ?」
「そんなボケ言えるなら自分のことは知ってんでしょ」
そう言いながら振り返ったその人は、銀髪に青色の目の青年だった、二十歳になるかならないか程の見た目だ。
「そうですけど……と言うかあなた誰ですか?」
「あ、俺の名前はウズル・リゲルス、オリオン座だ、気軽にウズとでも呼んでくれ」
「オリオン座? オリオン座って星座のオリオン座ですよね?」
(オリオン座って星座のあれだよな? 理科の教科書で見たあのオリオン座だよな?)
「え、君って座者じゃないの?」
「ざしゃ? ってなんですか?」
「まじで本当に記憶喪失なの? あれおふざけじゃないのかよ」
「いえ、そもそも居た世界が違うと思います、一応ですけど、ここどこですか」
「えっと〜……エカテヌって言う星のレーユソイユって言う大陸のレアウテって言う春の国にあるドロストって言う森の中にある俺の家」
「一ミリも分かんないです」
「じゃあ途中で止めてよ、てか世界違うんなら分かるわけねぇじゃん」
「そうですよねーすみません」
「じゃあなんで星石持ってんの? これ座者じゃないと持つことすら出来ないんだけど」
「だから座者って何ですか!」
「あ! そうだそこからだったな、座者って言うのは星座使い、星座の体現者、略して座者、色々な世界から伝えられた星座に基づいた力が座者には宿る、それで俺はオリオン座、神話とかも頭の中に入ってるよ」
「マジか本当に異世界転移しちゃた、しかもだいぶファンタジーな……あ、敬語が、すみません」
「いいよ、てか敬語使われると俺が嫌だから楽に話して」
ウズはそう言いながら茶緑色のお茶みたいな液体が入ったコップを渡した。
「これ何?」
「栄養剤的なやつ、お前空腹と水分不足でぶっ倒れてたろ」
「え、じゃなんで僕こんなピンピンしてんの?」
「そこら辺は後で説明すっからとりあえず飲め、てか飲まなきゃ死ぬぞ、イッキで飲め」
アラキは言われた通りコップの栄養剤を一気飲みした。
「マッズ、何これマズッ」
「良薬口に苦しって言うだろ。あと俺お前の名前教えてもらってないんだけど、覚えてる?」
「アラキ、獅子戸アラキって言います」
「アラキくんね、苗字的に地球の日本人?」
「え? ここ異世界っすよね、なんで知ってんすか」
「そりゃ自分の星座がある世界のことぐらい知ってるっての、いや俺の場合日本とかの国のことは他の座者から聞いたけどさ」
「すげ〜、座者すげ〜」
(マジで異世界モノのやつみたい)
「てかアラキお前名前はアラキでいいが獅子戸って苗字はこの世界じゃ違和感ありありだから変えた方がいいぞ」
「変えろって言われても、どう変えりゃいいの?」
「座者は大体自分の星座の名前とか構成する星の名前もじってやるな」
「そーなんだ〜そう言えばさっき僕のこと座者って思ってたらしいっすけどなんでですか?」
「そりゃ星石もって……あ〜星石って言うのはな、お前が首に下げてるやつだ」
「え、これ祖父の形見……」
言いながら形見のペンダントを持った時、宝石が眩しいほどに山吹色の光を発した。
アラキは目を瞑り、ウズはやっぱりと言っていそうな顔で宝石を見ていた。
「アラキ、おめでとう、たった今君は座者に目覚めた」
「え、マジか! スゲェ! なんも実感ないけどなんかスゲェ〜」
「実感ないのかよ、そうだ俺生まれつきだからそういうのわかんねぇんだ」
「うわずるい、天才肌じゃん」
「違ぇよ座者の半分くらい生まれつきだぞ?」
「半分くらいは後天性なのか〜」
「まぁ、そのうち実感出来るだろ。とりあえず何座だ、星石見せろ、俺持てねぇから出せ」
アラキは石をウズの前に差し出すとウズは石をまじまじと見た。
そして一、ニ分くらい経ったあと。
「うん、アラキ、お前小獅子座だな。獅子座か小獅子座か迷ったが小獅子座だ」
「え、噓だろ!?」