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【登場人物について少し詳しく人物紹介】
森田先生:女性。英語教師。ノリがよく、生徒たちに優しいので皆に好かれている。先生同士ではあまり話さない。1年B組担任。ワクチン未接種。
柿沼先生:男性。生徒指導の先生。生徒指導な癖に意外と優しい熱血系教師。怒る時は裏で怒るタイプらしい。ワクチン接種済。
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①本校舎1組目【明石拓真、夏目花音、大坂進、森田先生】編
俺らは本校舎の職員室がある方へ向かった。
金之打高校の本校舎は体育館側と職員室側があり、傑達が体育館側を担当している。
「私たち、1度職員室を探したけれど倉庫の鍵なかったわよね?」
「そうですね。ねえ拓真、もう1回職員室側へ行くってどういうつもりなの?」
「…違和感があったんだ。江口先生が飛び降りたあの時。」
ほんの少しの違和感だった。アストロワクチンには幻覚症状もあるのかと、そう思っただけだった。
『お前が落ちろって言ったんじゃないか…今更なんだ?』
江口先生はそう言っていた。それは俺らのせいで見た幻覚症状とも捉えられるが…
「おかしかったんだ。目線が。」
「え?」
恵猪は吐きそうなくらい怖がっていた、花音は目の病気でしっかり見えていなかった。2人ともしっかり先生の姿を見ていなかったのだ。見ていたのは、俺だけ。
「あの時、江口先生は俺たちの方じゃなくて放送室の隣の部屋を見ていた。」
「放送室の隣の部屋って…校長室じゃないの。」
「そう。校長室だ。」
「でも、そこに何があるの?」
「その隣の部屋も考えてみて。」
「ワイわかるで。保健室や。」
「そう。」
「だけど、校長室と保健室なんて何も無いわよ?」
「ここからは俺の推測だけど、校長室には、校長先生が残っていた。」
「まさか、校長先生も助け出そうと?これ以上人を連れたら、傑くんがなにか言うかも…。」
「でも俺は決めたんだ!江口先生が死んだ時、もう誰にも死んで欲しくないと思った。」
「明石くん、校長と保健室、江口先生の発言にはなにか関係があるの?」
「保健室にはたくさんの医療品や非常食があります。それさえあれば校長室でもしばらく生活出来る。それを分けて貰えればいいな…と。」
「江口先生は確か、『お前が落ちろって言ったんじゃないか』って言ってたよね…。まさか校長先生がなにか言ったの?」
「それは…わからない。俺には何も聞こえなかった。だから、校長室に行きたいと思ったんだ。」
「だから職員室側を選んだんやね。」
「それで、廊下はゾンビが多いからまた3年D組へ来たわけだけど…。校長先生が窓を開けてくれるか…。」
「…私、1度だけ校長先生と話したことがあるのよ。あの人、愚痴を言う癖が凄くて…下手に校長室に入ったら、きっとグチグチ言われるわよ。失礼だけど、私はあの人を助けたいだなんて思わないわ。あなたはそれでも校長先生を助けたいの?」
「森田先生がそこまで言うなんて…」
「俺は、どんな人間も変わらず接したいって思ってます。だから、助けたい!」
本当は震えが止まらない。人を助ける余裕があるなら自分だけでも逃げ出したい。だが、俺がそんなことしたらどうする?俺の背中を見てくれる人間がいる。その人の期待を裏切る訳にはいかないんだ。
「立派ね。明石くん。わかったわ!作戦がある。まずは放送室に行くわよ。」
「はい!」
俺たちは、再び窓伝いで放送室へ向かった。
「はぁ…窓伝いに行くとかそんな不便なこともう二度としたくあらへんわ…。」
「戻る時もっかい同じことするだろうけどね…。」
「ア゛ア゛!別のグループと一緒に行けば良かった!」
「しょうがないでしょ。1年生みんな何処でもいいって言うからくじで決めちゃったし…。」
「ワイは恵猪先輩達のグループが良かったで。」
「なら先に言ってちょうだいよ。」
「トイレしてたもん!!」
「てか、なんで恵猪達の方行きたかったんだ?」
「恵猪先輩可愛いからやで。」
「彼にはあなたよりも鷹吉くんがお似合い。」
その時だった。
「うがああああああ」
「ひゃ!」
「ドアの外に、ゾンビがいるみたいだ。」
「ワイ、やっぱあんたらに着いてくべきやなかったわ。」
ドンドンドンドンドン!!
「ちょ、森田先生?何やってるんですか!」
「元々こうする予定だったの。校長室と放送室の間の壁は他より少し薄い。だから叩いたり大声を出せば校長室まで聞こえるわ。」
「でもそんなことしたら…!」
「そんなことしたら、ゾンビがやってくる。そんなことわかってるわ。だから明石くんに作戦の内容を言わなかった。だって知ったら、止めるでしょう?あなた優しいから。」
「それは…。森田先生だって、優しいじゃないですか。なのになんでこんな危ないことを?」
「私も優しいかもしれない。だけどね、時には残酷な優しさも必要なの。叱ることも同じ。本人には嫌なことかもしれないけど、叱らない人は優しくなんかない。その人を思ってすることなら、それは優しさなの。それが本人には伝わらないこともあるけどね。」
「それと壁を叩くのは、どういう関係が?」
「あなたは優しすぎる。でもそれは全て自己犠牲から来てる。相手に残酷な優しさも必要だってことを、あなたに知って欲しかったのよ。これだけ叩けば、校長も気づくだろうし。」
「だけど、結局グチグチ言われますよ…。」
「うふふ。それは、明石くんのための自己犠牲よ。」
「あ、あのーいい話しとるみたいだから黙っとったが、もうゾンビにドア開けられそうなんやけど!」
「あら、それはごめんなさいね!ちょっと校長先生!居るなら早く返事してください!」
森田先生がそう言うと、壁越しに聞き覚えのある大きな声が聞こえた。
「も、もしかして、森田先生!」
「柿沼先生ですか?早く校長室に入れてください!」
「げっ!柿沼やと…」
「もちろん!ドアは開けられないので窓の方から入って!」
「また窓から入らなあかんの?」
「文句ばっか言ってないで動いて!」
「窓あけたぞ!」
「俺がドアをおさえとくから、みんなは先に校長室へ!」
「んじゃ、1番のり〜」
「明石くん、たまには人にやらせてもいいのよ?」
「先生、俺はこういう人間なんです。自分の性格をすぐに変えるのは難しい。…だから、待っててください。」
「…うん。わかったわ。先に行ってるわね。」
「拓真、私が校長室に着いたら言うから、そしたら拓真もすぐに来てね。」
「ああ。ありがとう。」
しばらくドアをおさえていると、花音の声がした。
「拓真!」
俺は急いで窓に走り出した。校長室の窓の真横辺りまで足をかけたその時、
「があああああああ。」
「あっ!」
ゾンビの手が俺の足にかかって、転んでしまった。
___ああ、俺死ぬのか。
そう思った瞬間、俺の手をグッと誰かが掴んだ。
「拓真っっ!」
この優しい手触りは花音だ。あぁ、やっぱり好きだ。世界一の彼女だ。お前が居なかったら、俺はとっくの昔に生きるのを諦めてたよ。
「拓真が自己犠牲で人を助けるって言うなら、それは止めない。だけど、拓真が断っても私は拓真のことを支える。」
「ありがとう花音。花音が居なきゃ落ちて死んでたところだよ。」
「チッ、こんな時でもイチャイチャしやがって。」
この中年男性の声は、校長先生だ。
「柿沼くん、いくら催促されたって絶対に中に人を入れるなと言ったろ?」
「はぁ、はい。すみません。」
「まずなあ、君ら4人はこんなゾンビだらけの学校であんな大きな音を出すんじゃないよ。ドアを叩いたら大きな音が鳴ることくらい小学生でもわかるだろ?」
「めんどくさい校長やな。」
「ああ!?きみ、今なんて言った?」
「えー?なんも言うとらんでー。」
「大坂くん。もう何も言わないでちょうだい。校長先生。この作戦を考えたのは私一人です。生徒たちのことは責めないでください。」
「進、お前なあ、森田先生に迷惑かけるなよ。」
「うっさいなあ、柿。」
「柿だと?俺の名前は柿沼だ。」
「え、進くんと柿沼先生ってどういう関係…?」
「あー、簡単に言うとマブダチよ。」
「ちげえわ!」「ちがうわ!」
「進のやつがよく先生方に迷惑をかけるから、何度も生徒指導対象にされてるんだ。もうこいつには怒り飽きたな。」
「なんやそれ、ワイはストレス発散方法やったんか!」
「え、そうだけど?」
「もう、柿のクソ野郎。」
「ちょっと2人とも…校長室に来た本題からズレてるよ?」
花音がそう言った後、倉庫に連れていくこと、保健室の医療品を持って行きたいこと、そして江口先生のことを話した。
「ああ、6階倉庫の鍵はどこにあるか分からんが、着いていくよ。もちろん、保健室から持ってきたこの医療品もできるだけ持ってく。ただ、江口先生については…なんにも。」
「チッ、自分勝手に決めやがって。」
「…ところで、どうしてこんなに医療品を持ってきたんですか?」
「どこかで役に立つだろ。そんなこともわからんのか!」
「…校長先生、江口先生のことは?」
「は?俺が知ってるわけないだろ。俺が知ってるのは倉庫の鍵の持ち主だけだ。」
「え!?誰が持ってるんですか?」
「名前…なんだったけか、確か倉庫に楽器を置いて行ったって言うから軽音楽部の顧問か誰かが…」
「軽音部の顧問…って言ったら、愛されキャラの愛華先生じゃないですか?」
「あーそうそう、そいつが持ってる。」
「今すぐみんなに連絡だね。」
「ああ。この時のためにグループLINE作ったしな。」
「ちょっと待てお前ら。愛華先生を探しに行くんじゃないだろうな?」
「え、なんでですか?柿沼先生。」
「愛華先生は…たぶんもう…。」
「…柿沼先生、あなた職員室で先生達を引き連れて生徒の避難誘導してましたよね?みんなをどこに?」
「俺は…はぐれたんだ。非常食を持ってこようとしてみんなを体育館へ行かせた後、ゾンビのせいで体育館へ戻れなかった。」
「体育館…まずい!そこに愛華先生方居たらみんなゾンビになっているかもしれないから、探すのが大変すぎる。」
「傑くん達が様子を確認するだけするって言ってたけど、どうにか愛華先生を探して貰えないかな?」
「頼んでみる。期待はしない方がいいかもな。」
「屋上は諦めるってこと?」
「半日経つまでに帰る約束だ。帰ってから皆で話すとしよう。」
「うん、そうだね。じゃあ医療品を持って美術室まで戻る作戦を考えようか。」
それから俺たちは、美術室へ戻る作戦を考え、半日の間に戻るのに最適な作戦を思いついた。
あとは戻るだけだ。全員が生きて帰って来ることを信じて。
◆◇◆◇
「波止場、出動します!」
あぁ…ついに行かなければならない。嫌だ、死にたくない。もし襲われたら一緒に行く同僚5人と先輩1人に縋りつこう。
「警察署長官が死んだ今、指揮を執る人間が居なくなってしまった。だから、今日からしばらくこの方に指揮を執ってもらう。」
「わたしは金之打市市長、金山鉄也。警察署長官の代わりを務めさせてもらう。どうぞよろしく。」
「よろしくお願いします!」
「さて、我々はこれから市長と無線連絡をしながら金之打高校の生徒救出に向かう訳だが、先輩として君らにもうひとつ任務を課す。」
あなたぼくらより1年早く入っただけでしょ…自分の地位が高くなったからって先輩風吹かせるなし。
「アストロワクチンの先行接種をおこなった他の市からの連絡なんだが、金之打市とは異なりゾンビ騒動にはなってないらしいんだ。金之打市がこんな状況になったのにはきっと原因がある。それも任務のひとつとする!」
「了解です!」
金之打市以外はゾンビ騒動になってない…?アストロワクチンそのものが原因ではなかったんだ!ならこんな市に住むんじゃなかった。ぼくも金之打市のアストロワクチンを打ってしまった。間違えて射撃して死んだりしてもゾンビになっちまうしなぁ…。
てか、今から他の市に逃げれば間に合うんじゃ?
「先輩!今他の市にはゾンビはいないってことですか?」
「ああ。金之打市周辺地域は電磁波バリケードというアストロ社が作った壊すことができない壁で封鎖されている。もし出ようとしてバリケードに当たったら、即死だ。」
は!?逃げれねえじゃん!
「それと、わたしの判断で他の市に影響を出さないよう、アストロワクチンを金之打市で打った履歴がある人は、住んでいる場所が金之打市でなくても、バリケードのすぐ近くの施設で隔離している。」
「その施設は安全ですか?」
「金之打市の中にいる限り、安全圏はない。アストロワクチンを金之打市で打っていれば、誰でもゾンビになりうる。」
でも、その施設に逃げればここよりは安全だ!施設がバリケードに近いってことは、バリケードの出口か解除スイッチ的なのもどこかにあって、すぐに出られるようにしているってことだろうし。よし!高校の任務を終わらせたら逃げるぞー!