2-1
皆再会したことや生き残れたことにそれぞれ感動し、一日で起きた大惨事に疲れ切っていた。仲を深めるために色々なゲームをしつつ、互いに夜を乗りきった。1年生、鷹吉・恵猪・伊月、拓真・花音・傑・有紗・柊と主に3つのグループで仲を深めて、必ず全員生きて6階倉庫の鍵を見つけることを誓った。
翌朝、明石達金之打高校の生徒達は、それぞれ生き残るために行動していた。
◆◇◆◇
③新校舎組【清水鷹吉、小崎恵猪、伊月依日、岩城愛衣】編
俺らは新校舎側の捜索を担当することになった。
「なあ鷹吉、どうやって新校舎側に行く?」
「正直、俺も思いついてない…」
想像以上にゾンビが多く、新校舎へ渡り廊下から行くのは難しそうだ。
「私、思いつきました!」
「なんだ、伊月?」
「私のスマホをアラームを鳴らしながら渡り廊下の窓から外へ投げて、ゾンビ達を窓から飛び降りさせるのはどうですか?」
「それはいい案だと思うけど…ゾンビが音につられず襲ってきたらどうします?」
「恵猪の言う通りだ。だけど大丈夫だと信じてやるしかない。他の方法はそう簡単に見つからないからな。伊月、スマホを貸してくれ。俺が先頭に行って投げる。」
「でも清水くん、私の案だし…」
「あの、先輩!スマホを投げるなら、これを持ってってください!よくイラスト描いたあとに使ってたんです。」
そう言って愛衣が渡したのは、ハサミだった。
「もしゾンビが襲ってきたら、これで少しでも対抗してください。」
「なら尚更俺が行くよ。」
「伊月さん、鷹吉は強いから大丈夫だ。信頼しよう。」
「…わかった。」
そうして俺は伊月のスマホと愛衣のハサミを持ってゆっくりと渡り廊下へと進んで行った。
「気をつけろよ鷹吉。」
頷きながら伊月のスマホで1分後のタイマーを設定し、鳴るまで待機した。
「━━━ピピピピ!!」
鳴った!!スマホを素早く窓の外へ投げる。
「バリン!」
窓ガラスが割れると同時にゾンビ達が窓の方へと走り出す。
「うがあああああ」
「きゃあああああああ!!!」
ゾンビが窓の下へ飛び出したかと思うと、校舎中に響き渡るような悲鳴が聞こえた。
「下からだ!」
「まさか…下に人がいたんじゃないですか…?」
俺は絶望した。
「お、俺そんなつもりじゃ…殺すつもりなんてなかったのに…。」
「誰もそんなことは思ってないわ清水くん。安心して。」
伊月や他の2人はそう励ましてくれるが、俺はそれでも心が痛んで仕方がなかった。直接的に手をかけた訳では無いが、俺がゾンビを落としたから下にいる子が死んだかもしれないのだ。
「鷹吉落ち着け。ポジティブに捉えよう!鷹吉のおかげで新校舎側へ進めるんだ。良かっただろ!」
恵猪は励ますのが下手だ。失恋した時もそうだった。だけど、俺はそんな恵猪が俺を励まそうとしているのを見るのが好きだ。気持ちが嬉しいんだ。
なのに、今回は吹っ切れることは出来なかった。頭の中で誰かが人殺し…人殺し…と言っているのが聞こえる。その声は励まされても収まって行くばかりか、どんどん大きくなっていく。
「道が開いたんです!気にしないでくださいよ。行きましょう先輩方!」
そうだ。進まなきゃいけないんだ。6階倉庫の鍵を探さなきゃ…
その瞬間、新校舎渡り廊下の奥から一体のゾンビが来てしまう。それでも俺は動けなかった。人殺しは死んで当然だからだ。
「先輩!早く動いてください!」
「おい鷹吉!ハサミ貸せ逃げるぞ!人殺しは死んで当然とか思ってんじゃねえだろうな?お前は人殺しじゃねえし人は皆平等に生きる権利があんだよ!!」
恵猪のこの言葉で生きようと決心がついた。だが動けなかった。心で思っていても頭がそれを許してくれないのだ。
「清水くん!!」
伊月がそう呼びかけてくれると同時に目の前に小柄なポニーテールが見える。
それで悟った。━━━━伊月が俺を庇ったのだ。
その瞬間にはもう既にゾンビは目の前に居た。伊月は小柄だったせいでゾンビが伊月の肩の肉を噛みちぎるのがよく見えた。小さい恵猪もその音で理解したのだろうか、伊月を守るために俺が持っていたハサミを取ってゾンビの体を突き刺しまくった。だがそれはもう手遅れだったのだ。【ゾンビに噛まれたら感染する】ということを理解していたからだ。それはこの場にいる全員がわかっていたはず。それなのに恵猪は伊月を守ろうとしているのだ。
「伊月さんを離せ!!なんで離れないんだ!こんなに突き刺してるのに!」
俺は自分の無力さにうんざりした。その時、そのゾンビは恵猪の方へ向いた。
「こっち来るなよ!やめろ!」
俺は恵猪が恐れているその声を聞いて咄嗟に動いた。ゾンビを掴み窓の外に投げ飛ばした。
「鷹吉…マジでありがとう助かったよ…。」
「でも…伊月先輩が噛まれちゃった…。」
俺はなぜ動けなかったんだろう。生きる決心をしていたのに逃げず、守るはずの伊月が逆に俺の事を守ってしまった。俺は何の役にも立たないクズだ。人殺しだ。2人も殺したんだ。
「清水くん……」
伊月が俺に話す。その瞬間俺はボーっとしていた目が覚める。
「伊月…俺…」
「何も言わないでいいの…。私はあなたが守りたかった。借りを返したかったの。あなたがいなければ、あの横断歩道で死んでた…。」
「でも結局俺がお前を殺してしまったんだっっ!」
「そんな訳ないでしょ。こんな死に方ができてとっても幸せ…。あの横断歩道で死んでいたら私はとっても後悔してたわ…。あなたは私の命の恩人よ…!」
俺はそれでも自分の無力感に絶望していた。
「清水くん…私が守った命を大切にして。これから皆と自分を守れればそれでいいの…。」
「もちろんだ伊月!!俺が守られたこの命で皆を守ってやる!!」
「それだけでいいの…十分。清水くん、好きよ…!」
最後に俺にしか聞こえないような小さい声でそういった伊月は、俺に倒れかかった。その小柄な伊月を、俺は大きな手で抱いた。
「ごめんな伊月… 。」
俺を愛した女子は皆何らかの理由で俺から離れていく。だけど伊月は俺を最後まで愛してくれた。そんな人間を俺は守ってやりたいとずっと思っていたのに、自分のせいで死に、己の手でこれから手放すのだ。
「クソみてえだ…この世界は!」
俺は伊月を優しく窓の外へ落とした。背中から落ちたと思うと、骨が変形するような音が聞こえて、伊月が起き上がった。
「伊月…!」
「呼びかけないでください先輩!こっちにゾンビが来ちゃうじゃないですか!」
「伊月のことをゾンビだなんて言うな…!」
「うがあああああああ」
伊月は雄叫びをあげた。変わり果ててしまった伊月を見て、俺は無意識のうちに涙を流していた。
恵猪はそんな俺を見て、手を握ってくれた。
「行こう…鷹吉。」
どんな悲しいことが起こっても、どんな大きな悩みを抱えていようと進むしかないんだ。この世界では。
もう覚悟は出来た。誰も死なせない!
「おう。行こう!」
◆◇◆◇
金之打警察署では大混乱が起きていた。昨日から、アストロワクチンを摂取した金之打市にのみ大量の通報がされていたのだ。その内容は、市内どこもかしこもゾンビだらけだというような通報ばかりだった。最初はイタズラかと思っていたが、徐々に病院や学校からの通報が来たのもあり、警察が出動すると本当に人に無差別に噛み付く死人のような人がいたという。そのせいでぼくのほとんどの同僚や先輩、上司が死んでしまった。今はもう既に全国の警察署や自衛隊から救援要請をするほどの大事件に発展してしまった。だが、自衛隊がゾンビと交戦したことにより、ゾンビの弱点は頭だということがわかった。頭を破壊したり脳みそをぐちゃぐちゃにすれば完全にアストロワクチンが死滅するそうだ。その弱点がわかったせいで新人であるこのぼく波止場潤も金之打高校に出動することとなってしまった。任務内容は生徒たちの救出とこれ以上感染者を増やさぬようゾンビとなった人の駆除だ。もちろん仲間がいるし、人々を守るために警察となった訳だがぼくも人間だ。ゾンビと戦うというのはとても恐ろしい。勤務を棄権したいくらいだ。とはいえ警察となってしまったからには国民を守る必要がある。仕方が無いので金之打高校へ出動することにしよう。
【登場人物について少し詳しく人物紹介】
〔ペア2:清水&恵猪編〕
清水鷹吉:バスケ部イケメン。勉強と運動が結構できる。性格もいいためモテるがスマホを持ってないため彼女ができない。頭の回転は遅め。2年E組。ワクチン非接種
小崎恵猪:陸上部長距離。チビ。かわいい系男子。視力がとてもよい。2年D組。ワクチン接種済。