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【登場人物について少し詳しく人物紹介】
※この作品では主人公はおらず、2人ペアが3つありそいつらが主要人物となります。また、◆◇◆◇マークは視点が切り替わる時に使用しています。
〔ペア1:明石&花音編〕
明石拓真:帰宅部だが外部サッカーしている。足の速さと強さには自信がある。勉強は苦手だが、頭の回転が柔軟。2年E組。ワクチン非接種。
夏目花音:視覚障害をもつ。ダンス部で体力はあるが、運動神経はそこそこ。2年E組。ワクチン接種済。聴力はとても良い。
「先生ぅ!助けてくださいぅ!」
職員室に響くぶりっ子なその声は、2年E組の羽夢聖歌だった。
「おい。職員室に失礼しますもなしに入るとは無礼な。入るところからやり直せ!」
生徒指導の柿沼先生が言う。
「柿沼先生。そんな言わなくても…そんなことより、どうしたの?聖歌さん、そんな慌てて。」
私はそう言った。
「クラスメイトの寛人くんに襲われたのぅ。ほらみて森田先生ぅ。この傷すごく痛むぅ。」
この傷はどう見ても噛まれた傷だった。でも、ただの噛み傷じゃない。穴が空いて肉が見えるほど深い、想像以上に強く噛まれた傷のようだった。
「ちょ、ちょっと、酷い怪我じゃないの!救急車を呼んでちょうだい。あと、救急車が到着するまで聖歌さんは保健室に。」
「…先生ぅ、なんか食べ物ないぅ?なんだかとってもお腹すいてぅ…」
その瞬間、聖歌さんは床に倒れ込んだ。私は、焦りと不安で数秒何も出来なかった。ほかの先生が聖歌さんに寄り添い、何か言っているのはわかるが、何も聞こえなかった。
だが、たちまち正気を取り戻した。最期に聖歌さんは
「こんなことになるなら、ハムボごっこなんてしなきゃよかった…。」
と言っていた。ハムボごっこ…その言葉を聞いた瞬間、みんなの緊張が解けたと思う。これは単なるドッキリだと思ったのだ。笑いを堪えながら聖歌さんに寄り添う先生たちの隙間から、少し動く聖歌さんの手が見える。
「ドッキリ大成功ってか?羽夢。救急車呼んじまったじゃねえか。どうすんだ?」
「ううううぅうぅぅぅぅぅぅううぅう」
「おい、いきなりどうしたんだ!?やめろぉ、くるなあ!!」
みっともない歴史の先生の姿を見て、ゾッとした。いつもは自分の主張が激しく何を見ても恐れない先生が、本気で怖がっていたのだ。そっと聖歌さんへ目をやると、眼は真っ赤に充血し、鼻からは大量の血を流し、それを口から飲み込んでいる。そして、また歴史の先生に襲いかかり、今度は噛み付いた。
「うがあああああああああ」
劈く悲鳴が職員室内に響き渡り、耐えきれなかった。救急車を待つなんて出来なかった。
「わ、私放送室で生徒たちに避難を指示します!」
私、英語教師森田は、この非現実的な状況でも、教師としての役割を全うしようという意思を貫いた。それに続き、
「俺は校長にこのことを伝えてくる。その後すぐに向かうから、襲われてない先生は生徒たちを避難誘導へ!」
「はい!」
生徒指導の柿沼先生を主軸に、一斉に先生たちが動き出す。ほかの先生たちが移動する間に、私は放送室にたどり着いた。そしてすぐさま放送を始める。
「♪ ピーンポーンパーンポーン」
「ただいま、校舎内で生徒が無差別に人を攻撃する行為が起きています。今校舎内にいる生徒たちは、体育館へ避難してください。最後に、先生の指示に従ってください。」
こんなのでいいのか。と思いつつも私は放送を切った。
「みんな、元気でいるんだよ。」
◆◇◆◇
「ねえ拓真、どうやって鷹吉くんのこと探す?」
「そうだよな…思ったよりゾンビの数が多くて困ったな…。」
まず状況を整理しよう。
俺らの今の目的は鷹吉を見つけ出すこと。なぜなら恵猪くんと仲のいい鷹吉を見つけ、生存者の多い状態で救出された方が良いと判断したからだ。鷹吉を見つけたら傑と有紗ちゃんも見つけるとしよう。そして、今いる場所は3階と2階間の階段の踊り場。鷹吉が戻ってくるなら昇降口から靴を履き替えて来るだろうから2階へ行こうとしたのだが、想像以上にゾンビが多かったから通れそうにないのだ。この様子だと、鷹吉は昇降口じゃなく別の場所にいるだろう。
「そういえば、放送で森田先生っぽい声の人が『体育館に避難してください』みたいなこと言ってましたよね。傑君は行かない方がいいって言ってましたけど鷹吉はその場にいなか
ったから、もしかしたら体育館にいるんじゃないですか?」
「じゃあ体育館に行きたい訳だが、さっき見た感じ1階にはもっとゾンビが多い。そうなると2階から通る方が得策なんだが…。」
「……一体どうやって、このゾンビ地獄を抜けるの?」
◆◇◆◇
「有紗、もうすぐ着くぞ。」
「うん。でも急に屋上へいくなんて言ってどうしたの?避難するべきじゃない?」
俺は有紗と2人きりで屋上へ向かっていた。なぜなら屋上ならSOSを伝えやすいからだ。俺は拓真達に伝えたことも含め有紗に全て説明した。
「結局ドラマ頼りなんだね…。」
有紗はその時、続けて何かを言いかけていたように見えた。
「どうしたんだ?」
「ん?いいや、なんでもないよ。」
有紗はそう言って、スマホをいじり始めた。
「誰かを屋上に呼ぶのか?あんま呼ばないでおいてな。」
「全校生徒に比べたら少ないんだからちょっとくらい屋上に人を呼んでもいいでしょ。傑も明石くん達に連絡しな。」
そんな会話をしてる間に、唯一屋上へ行ける窓がある6階の倉庫に到着した。
ガチャガチャガチャガチャ
「嘘だろ…開いてない。」
「他に行く方法はないの?」
「残念だけど、強行突破か鍵を探すしかない。でも、強行突破しようとすると音でゾンビたちが群がってくる。とりあえず、拓真に連絡して倉庫の鍵をさがす。俺は拓真達がいる本校舎じゃなくて新校舎の方を探しにいくけど、有紗はどうする?」
「あたしも一緒にいく。」
この金之打高校には本校舎と新校舎があり、新校舎には本校舎の渡り廊下を渡ることで行ける。新校舎は英語教室と小食堂、広い会議室くらいしかなくて、2階分しかない。ほとんどの生徒は用がない。屋上もないから行くつもりはなかったけど、鍵を探すなら行くしか無さそうだ。
「ねえ傑、5階にもゾンビが来た。さっきまで居なかったのに。」
「慎重に進もう。バレないようにな有紗。」
◆◇◆◇
「なあみんな、傑からLINEが来た。」
「なんて言ってるの?」
「『俺は有紗と屋上に行く。ただ6階倉庫の鍵が必要だから、見つけたら連絡してくれ。』だって。」
「6階倉庫の鍵いつもなら職員室にありますけど…。」
「そこまで行く方法がないな…。」
「そういえば、鷹吉くんに連絡できないの?」
「鷹吉は、スマホ持ってないんです。そのせいでモテるのに彼女いなくて。」
「あいつに彼女いないのって、そういう理由だったのか…。」
そうこう話している間に、俺は思いついた。
「そうだ。みんな、体力は残ってるか?」
2人は頷いた。
「いい作戦がある。とりあえず俺らは鷹吉探しつつ、職員室に行きたい。そのためにはゾンビたちを別の場所に集める必要がある。」
「でも、どうやって…?」
「放送室で何か音を流すんだ。そしたらゾンビたちは音が鳴る方へ密集する。」
「そうか!ゾンビが音に密集してる間に、職員室に入れますね!でも、どうやって鷹吉を探すんですか?」
「放送で合流場所を指定するんだ。そしたらみんな合流できる。」
「じゃあ、放送室への行き方は?」
「それが体力勝負だ。走って強行突破するのもいいと思うが、ベランダを有効活用しようと思う。」
「わかりました。3年D組のベランダに出て、窓伝いに行くんですね?」
「そうだ。窓を伝って放送室の窓まで行く。そしたら放送室に入れるし、森田先生がいるなら窓を開けてもらえる。…少し賭けにはなっちゃうけどな。」
俺は高校1年生の頃、花音が視覚障害で危険に遭いやすいのもあって、色々な状況にすぐ対応するよう心がけてきた。そのおかげで、今回の作戦も思いついた。
「じゃあ、さっそく3年D組にいこ!」
俺らは、3年D組のベランダから窓を伝って放送室へ行くという作戦を実行するために、ゾンビの目をかいくぐって3年D組に入った。
「3年D組にゾンビがいなくて助かりましたね。」
「うん。どうしようか、誰から行く?」
3人とも自分から行きたいと言う人はいなかった。当たり前だ。こんな危険な挑戦、率先してやりたいわけない。でも行かなきゃならないんだ。
「じゃあ、俺から行くよ。」
「いいんですか?ありがとうございます。」
「ていうか、せっかく出会ったんだから、敬語やめようよ。〈恵猪〉。」
「…僕のこと呼び捨てしてくれる人は明石さん…いや、拓真が2人目だよ。もちろん、敬語はやめるよ!」
こうして、俺らの絆は深まった。
「私のことも名前呼びでいいし、タメ口でいいからね。恵猪くん。」
「もちろん。花音さん。」
男女の壁はあるものの、みんなそれぞれ正式に【友達】となった。嬉しかった。世界が変わっても、友達を作れるだなんて。恵猪も、やっと笑顔を見せてくれた。かわいい。
「それじゃあ拓真、気をつけてね。」
2人が俺に言ってくれた。絶対全員で生き残ってみせる。
俺はベランダに出て外を見回した。グラウンドには数え切れないゾンビの数。
「こんなにたくさん…。ほぼ全校生徒じゃないの?」
「この量じゃ、体育館なんて…。鷹吉大丈夫かな…。」
この景色を頭に残して、俺は窓に足をかけた。
その時だった。
ガラガラガラ…