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金之打students  作者: ショボ男
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1-1

「おい起きろー明石あかし。授業中だぞ」

「あはは!」

クラスメイトの笑い声が聞こえる。どうやら俺はまた寝てしまったようだ。

「そもそも、歴史がつまらないのが悪いんだろ…寛人(ひろと)もそう思わん?」

「思わん。お前がわるい。」

「おいおい…味方してくれよ。」

「寝たあとはお喋りか?いい加減真面目に授業受けてくれよ。先生だってお前らのために毎日残業して授業内容考えてるんだぞ。」

「先生、自分で言わないでくださいよ!」

「わるいわるい。授業続けるぞ。」

今日も始まった。この普通の日常。俺は起きて学校行って帰って寝る。ただそれだけ。なにも刺激の無い人生、いっそ世界が花音(かのん)と2人きりになって、結婚して、それであれやこれをして…。なんて夢物語を考えるけど、現実はつまらないもんだ。

でも最近、変わったことがあった。新たなワクチン「アストロワクチン」が作られたらしい。それは俺のようなニュースを見ないやつでも知ってるほど有名なもので、これを打てばどんな病気にもある程度の抵抗を持てるらしく、接種が推奨されてる。そしてこの金之打(かねのうち)市では特別に先行接種ができる。なにより俺の彼女、夏目花音(なつめかのん)は生まれつき目の奥にもやがあって見づらくなる視覚の病気を持っている。だから噂の「アストロワクチン」を打つのが楽しみだ。生まれつきの病気にも効果があることを祈る…。まあ、アストロ社はこれまで数々の成功商品を出していて、今回が初めての医療系サービスだけどもう既に信頼は高い。打って損はしないだろう。ま、俺は家が貧乏なせいで打つ金がないんだけどね。ついに明日が集団接種の日。クラスごとに打つことになってて、俺ら2年E組が全校でラストだ。今んとこワクチンは成功中だから、俺は打てんけど楽しみだな。花音の病気が治りますように。

──────翌日──────

「今日は明石拓真(あかしたくま)清水鷹吉(しみずたかよし)鐘梨明子(かねなしめいこ)の3人以外の生徒はアストロワクチンを打つ。体調不良とかあったらすぐ言うんだぞ。それじゃあ伊月依日(いづきよりひ)から順番に接種してくぞー。」

先生の言葉がとてつもなくうるさく感じる。なんで接種しないのに俺も出席しなきゃいけないんだ!花音がいなきゃサボってたところだよ。

伊月がワクチン接種し、その次の人、またその次の人と順調に接種した。そして、次は花音の番。

「花音の病気が治りますように。」

またそう願って待っていると、花音のワクチン接種は一瞬で終わった。

「もう終わったのか?」

「うん!なんか大したことなかったなー。注射苦手だからふつうに怖かったんだけど。」

その後全員の注射が終わり、いつも通りの日常に戻る。またつまらない時間になっちまうよ。これからまた授業だし。

接種会場から金之打高校までおよそ300m。正直めちゃくちゃ近くて接種しに来ても特別感がない。

でも…その日は違った。高校へとつながる横断歩道で車が突っ込んできた。それが寛人に当たって突き飛ばされる。首が一回転と半分曲がって、腕と脚があってはならない方向にある。口と顎が裂けて中から赤い液体が滲み出ていた。そして追い討ちをかけるかのように衝撃で車体が爆発して、寛人は黒焦げになってあっという間に到底生きているとは思えない姿に豹変した。

「あ…あぁ…」

目の前でそれを見た鐘梨は正気を保てるはずもなく、立ちすくんでいた。それを見た先生はすかさず

「きゅ、救急車!!早く119番に電話してくれ!あと、あとは…──────?」

俺は恐怖で何もすることが出来なかった。その瞬間、俺は寛人の指が動くのが見えた。それと同時に、寛人を助けたいという善良な心から、危険から逃れたいという利己心が芽生えた。

「……花音」

俺は花音の手を引き学校の中へと駆け込んだ。それに続き危険を感じたほかのクラスメイトの一部も校内へ駆け込んだ。俺と仲のいい円堂傑(えんどうすぐる)はよくドラマを見ていて、その話を聞くことが多い。だからこそこの危険を察知できたのかもしれない。傑には感謝してもしきれないな。


◆◇◆◇


明石達が校内に逃げ込んだ頃、鷹吉は勇敢にも119番に電話をかけおえたところだった。


◆◇◆◇


「清水!早く一緒に校内へ逃げるぞ!」

「でも、鐘梨が!鐘梨!鐘梨!しっかりしろ!」

寛人の指が動いてから次は手足が動き始めた。それでもまだなお動かない鐘梨に俺は呼び掛ける。

だが、その呼び掛けをして10秒も経たない頃、寛人がついに起き上がった。

「寛人、お前…大丈夫なのか?」

自分で言っていて情けなく感じるほど悲惨な姿をしている寛人。こいつは………生きているはずがない。

その姿はまるで生きる屍『ゾンビ』

寛人は立ち上がって間もなく鐘梨の方へ走り、襲いかかる。

「いや、いやああああああああああああぁぁぁ!!」

叫び声と同時に汚らしい咀嚼音が聞こえる。鐘梨へ目を向けると、肉がえぐれていた。

「ゾンビに噛まれるとゾンビになる。」

震えた声で伊月が言う。

「お、おい早く逃げるぞ!」

「ゾンビ作品はどうせじきにみんな苦しい思いをするの。それならはじめの方に死んだ方がマシじゃない?」

「何言ってんだ!伊月!」

俺は伊月の手を掴んで逃げていなかった他のクラスメイトと学校内へ逃げ込んだ。

本当なら外へ逃げるべきだったのだろうが、俺は見てしまった。車の中の人が寛人と同じゾンビのようになっていたことを。これが示しているのはもう既にいくらかの人は…いや、金之打市のほとんどの人間はゾンビに変わっているということ。俺の選択が間違ってないことを祈ろう。

逃げる直前に聞こえた最後の音は先生が狂った叫びをあげながらこっちに迫ってくる声だった。


◆◇◆◇


「もし化け物に襲われたら、学校の中に逃げ込むんだ。だいたいドラマだと学校に逃げた学生が生き残るから。」

「まず、化け物に襲われるっていうシチュエーションが意味わかんねえよ。ドラマの見すぎな。」

傑としたその夕方の話。まさか役に立つとは思わなかった。

俺は傑の言う通り学校の中へ逃げ込んだ。それからどうすればいいかは俺には分からない。

傑と俺は1年生の頃同じクラスで、クラスが離れた今でも仲良くしている。

「そうだ。傑のいる2年D組へ行こう。」

「う、うん。」

この時の俺と花音は頭が回っていなかった。本当に馬鹿だ。まず職員室にいる先生に助けを求めたり、警察に電話をするべきなのに。

まあ、その場にいる全員が冷静じゃなかった訳では無い。俺と一緒に逃げたクラスメイトは先生に助けを求めに行った。他のクラスメイトは電話を。

でも、相手にされるはずがない。なんせ死んでも動く存在なんてこの世に存在しないからだ。

そう考えているうちに2年D組に着いた。今は2年E組の人を待機していて休み時間だ。俺はためらいなくD組へ入った。

「傑!助けてくれ。」

D組はさっきより静かになる。

「なんかあったのか?そんな慌てて。」

「死体が動いたんだ。まるでゾンビみたいに。どうすればいいんだ。とりあえずお前の言う通り学校内に逃げたぞ。」

「おいおい落ち着けよ。そんなことありえるわけないだろ。拓真もゾンビドラマにハマったか?あとで話聞かせてくれよ。」

「本当なんだ!!信じてくれ。」

クラスが俺の大きな声で静まり返る。

「傑くん。本当に死体が動いたの。信じて。」

花音も傑を後押しするように言った。

「でも、そんな…これは現実だし…。」

その瞬間、甲高い悲鳴が校舎内に響く。

「きゃああああああああ!!」

「いまのは…?」

「きっとゾンビだ。感染力が凄まじく高く、一瞬で世界を混乱に導く…。そう言ってたよな傑。」

「マジでドラマと現実は一緒なのか…!」

「傑くん。どうすればいいの?ドラマでは何をすれば生き残れるの?」

「人が居ないところに逃げ込む。とにかく、固まらないこと。」

「♪ ピーンポーンパーンポーン」

放送の音が鳴る。

「ただいま、校舎内で生徒が無差別に人を攻撃する行為が起きています。今校舎内にいる生徒たちは、体育館へ避難してください。最後に、先生の指示に従ってください。」

「行っちゃダメだ。」

「わかってる。集団で避難しちゃダメなんだよな。」

「そうだ。俺は有紗(ありさ)のとこに行く。お前らは?」

「着いてくよ。」

そう。傑にも大切な彼女がいる。名前は雨岸有紗(さめぎしありさ)

「でも、ほかの人たちはどうするの?みんな避難しちゃうよ?」

「花音ちゃん。そんなこと考えちゃダメだ。みんなを助けようとしたら、大切な人の命と自分の命がなくなっちゃう。終わった世界で生き残るには、残酷にならなきゃいけないんだ。」

「でもっ!みんな同じ学校の生徒だし…。」

「みんなを助けたいなら自分の命か大切な人の命を失うことになる。」

「おい傑。そんな言い方しなくても…。」

「俺はお前らが大切だからそう言ってるんだ。ごめんな。」

傑は避難する人達を押しのけて有紗のいるA組へ向かった。

「今の、聞いてました。」

「誰!?」

「ぼくは小崎恵猪(おざきけいし)です。避難しない方がいいんですか?」

チビが話しかけてくる。たしか陸上部の子だ。

「傑によるとそうらしいよ。君鷹吉と仲良いよね。」

「はい。そうですよ!鷹吉どこにいるか分かりますか?」

「いや…分からない。一緒に探すか?」

「いいんですか?別に僕一人でも大丈夫ですよ。」

「集団も危ないが単独行動はもっと危ない。」

「傑くんはいいんですか?」

「傑は…きっと大丈夫だ。俺は信頼してる。」

「ねえ、私怖い。」

「それでも進むしかないんだ。生き残るためには。」

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