第二章その八 『偽り幸福(夢)から逃げて②』
「――オラァッ!」
橋の下の河川敷に連れてこられたセンスはいきなり頬を殴られた。
「いてぇだろ?俺空手習ってるんだぜ、これ以上殴られたくなかったら、さっさと金よこせ」
「空手じゃ顔面は反則じゃないんすか?そんなルールすら覚えられないんすね、やっぱ見た目に違わず頭も残念みたいすね」
センスが馬鹿にしたように笑って言うと、男は次に腹を殴る。
「調子こいてんじゃねーぞ、これ以上痛い思いしたくねぇだろうがよ!!」
「痛い思い?ハハッなにセンスねぇ事言ってるっすか?あんたのパンチなんてクソほどにも痛くねぇんすよ」
勿論センスは能力によって痛覚を消している。
「んだと、強がんなよいい加減にしやがれ」
男は連続で拳を繰り出す。一発、二発、三発…………そして八発殴った所で手を止めた。
「なんすか?もう終わりっすか?全然痛くないっすよ雑〜〜魚」
「っ!!テメェマゾなんじゃねぇのか?」
「はぁ?自分が弱いのをなに俺のせいにしてんすか」
「………マジでぶっ殺すぞ?」
「はっ、そっちがその気なら――もういいっす」
聞こえるか分からないくらいの声量で言うとセンスはポケットにしまっていた樅木から渡された赤いナイフを取り出した。
「っっ!!テメェ武器出しゃビビると思ってんのかコラァ、おいお前ら手ェ貸せ全員でこいつ殺んぞ」
「なんすかぁ?三対一っすか?やっぱビビってんじゃないっすか?」
男たちは全員怒りをあらわにし各々何か言っていたが、無視してナイフに巻き付けてあるテープを剥がそうとする。
――もうどうでもいいや、どうとでもなればいい、どうせ俺に帰る場所はないんすから……
そんな考えがセンスの頭を支配していた。
「――っはぁっはぁ、やっと見つけた、なにやっての?センスくん!」
声のした方を見上げるといつの間にか橋の上にカコがいて、足早に近づいてきた。
「もうっ心配したんだからね………話は樅木さんから聞いたよ……なんて言っていいか分かんないけどこれだけは言える……帰っておいでよ、みんな待ってる………――ってどうしたの傷だらけじゃないか!?」
驚いたカコは振り返り男達に言う。
「か、彼の傷は君たちがつ、つけたのかい?」
「あ?だったらなんだよ?つーかお前なんだよ?」
「謝って、もらえるかな?」
カコがそう言い切ると同時くらいにカコの頬に拳が飛んでいた。
「あぅっうっぐぁ」
頬を押さえて倒れそうになるカコの腹に蹴りが入った。
「ぐぁっ」
苦しそうな声を漏らしながら腹を押さえてカコは蹲る。
「なんだぁ?口ほどにもねぇ奴だな、ほら、謝らせてぇなら力ずくで謝らさせてみな」
男は蹲ったカコを蹴っていく。センスはカコの能力なら簡単に男達を倒せるだろうと思っていたが、カコは無抵抗のままなにもする様子はない。
「何やってるっすか……カコ?お前の能力さえ使えばそんな奴敵じゃないっすよね?」
「――何……馬鹿なこと……言って…んだよ…センスくん」
「えっ?」
「いくら自分が強い能力を持っているからってその能力で弱い人を傷つけたら君の友達を殺したスカルって奴と一緒じゃないか」
「………っあ」
「誰が弱いって?何が力だ、厨二病も大概にしやがれ」
男はカコが話している間止めていた足を上げ背を目掛けて勢いよく踏みつけようとする。
「――やめろ!!」
「っうぉっ、っってぇ!」
男の足がカコの背に到達する前にセンスはナイフを投げ捨て、男に向かって力一杯体当たりをし、片足立ちだったのもあり男は盛大に尻餅をついた。
「さ、早く逃げるっすよカコ」
「っぅう、ぼ、僕は、に、逃げれそうにないよ、センスくんだけでも逃げて」
「そんなのできるわけないっす、肩貸すから一緒に逃げるっす、っっぐはぁ」
「――逃がすわけねぇだろうが、ボケェ!!おいお前ら、全員でこいつらボコすぞ!!」
センスは立ち上がった男に蹴られカコの横に倒れる。
「だ、大丈夫かい!!?センスくん!!」
「あ、あぁ、俺は大丈夫っす」
「ごちゃごちゃくっちゃべってんじゃねーぞ、ゴラァ!!」
男達は全員センスとカコに近づいてきて、全員が蹴りを入れられる位置まで歩み寄った所で、一人の肩にあるものが空から落ちてきた。
「――うっわぁ汚ねぇ!!お前肩に鳥のフンついてんぞ」
「え?っうわ!!最悪!!――って、お前の頭にもついてんぞ」
「マジかよ、ってうぉぉ!!みんな上見てみろ!」
男達が空を見上げるとそこには複数の鳥が羽ばたいていて、それらが男達目掛けてフンしていた。
「なんだよコイツら!?ッチ!冷めたわ、おい、お前ら今日の所は見逃してやる。帰るぞ!」
男達はフンの雨から逃げるようにその場から去って行く。




