第二章その七 『偽り幸福(夢)から逃げて①】
足の痛みも、胸の苦しみも、そんなもの消してただ走っていれば何も考えずにいられると思ったがそんな事は無かった。
事務所を出てからずっと樅木の「すまない」と言う言葉とその時の表情がずっと脳裏から離れず、気づけばセンスは『幸福の音楽会』が開かれていた体育館の前に来ていた。
体育館の前は見物に来た人で溢れ何台ものパトカーが止められていて、複数人もの警察官が立ち入り禁止と書かれた札やテープを貼った入り口の向こう側で捜査しているのが見えた。
センスが息を整えながらその光景を眺めていると
「っ!」
いきなり頭に衝撃が走る。振り返るとハンドバッグを持った秋風空が立っていた。
「あ、あんたは……」
「探偵さんあなた調査して大丈夫だって……幸福の音楽会は怪しくないって言いましたよね?それなのになんで、なんで、お父さんとお母さんが警察に連れていかれるの!?」
「ああ、あっ、す、すい、す、すいま、ああ」
上手く息が吸えないし吐けず言葉も出せない。
「あなたもしかしたら幸福の音楽会の関係者なんじゃないの!?だから怪しくないなんて嘘の報告したんでしょ!!」
「ちっちが……」
「――ちょっと話いいですか?」
「っえ?」
いつのまにかすぐそばに警察官がいて、メモ帳片手に話しかけてきた。
「あっあ、ちが、ちが、お、俺、俺は、ちがう……俺は、俺は」
「大丈夫?どうしたの、ちょっと落ち着いて」
「お巡りさん、この人この事件の関係者です!!」
秋風空が言う。
「違う、違う、違う、違う、うわぁぁぁぁ!!!!!」
絶叫にも近い叫び声を上げながらセンスは走り逃げ去って行く。溢れていた人々はなにが起こっているのか状況をよく飲み込めていないのだろう。ポカンとした表情でそんなセンスを見ていた。
「俺は違う、違う、俺は悪くない、違うんだ、うぅ……うぁぁ、違う違う、俺がスカルの仲間なわけねえ、違う、違う」
ぶつぶつとそんな事を言って溢れてくる涙を止められないまま走り続けるセンスをすれ違う人は、気味悪がったり、笑い物にしたり、あるいは哀れみの目を向けていたが、センスはそんな事気にしなかった……否気にする余裕が無かった。
行くあても、これからの事も何も考えていないが、ただ走っていたかった。
「違う、あはっ違う、違う、あははっ違う――――――」
センスは本当に狂う直前だった。狂っていないと連続で起きた無慈悲な現実を受け止めきれなかった。
「あははっ違う、違う、あはっ違、っっつ」
「あん?んだてめぇ?」
その言葉でセンスは正気に戻る。気づくと見るからにガラの悪そうな三人組の一人とぶつかっていた。
「あぁ、悪かったっすね」
それだけ言って去ろうとしたが、勿論見逃すわけは無かった。
「ざっけんな!!そんなもんで許される訳ねーだろ!!」
センスの肩を掴んで叫ぶ。
「なんすか?じゃどーすりゃあいいすか?」
「とりま金よこせ、全財産な」
「は?馬鹿じゃないっすか、んな事する理由ねぇっすよ」
「ああん?いい度胸じゃねーかテメェ、おいお前らそいつ連れてこい、逃すんじゃねーぞ」
「へいへい」
「わかった、わかった」
逃げれないよう二人の男に両方の腕をそれぞれ組まれる。
「さぁ、行きましょうね〜」
――あぁ、またか……
とセンスは半ばやけくそに笑った。




