第二章その四 『夢から醒めて①』
「――このマークは!」
三雲を殴り飛ばした後地面に落ちた笛を拾い上げたセンスは目を疑った。
持ち手の部分に以前女性から強奪した“見惚れの聖水”と同じような翼が鎖で縛られたようなマークが描かれていたのだ。
「か、かえしてよ、お、お願い」
よろよろとまるでゾンビのように這いつくばったまま手を伸ばす三雲へ視線を落としながらセンスは聞いた。
「……三雲、この笛一体……どうしたんすか?」
「し、知らない人に、も、もらったんだよーーね、ねぇ、もういいでしょ、返してよ、そ、それがないと僕は、僕は存在してないのと同じなんだよ」
「……存在してない? それってどういう……」
「――あっ、ちゃんと音が聞こえる、なんだったんださっきは?」
「そんなことよりなんだよこの状況は、なんだよこれ!!? もしかしてマジモンの死体かよ!?」
「なんで私こんな血だらけなの!? 違う!! 私は何もしてないわよ!?」
センスの質問をかき消すようにステージ下からは音が戻ってきた安堵に続き悲鳴にも似た疑問系の叫びが連鎖して響く。
「か、貸して」
「あっ」
三雲はヨロヨロと立ち上がり近づいてくると、センスの手から笛を奪い返し、その笛を吹いてから言う。
「み、皆さん、お、落ち着いてください、後少し静かにしていてください」
ステージ下の人々はあれほど騒がしかったと言うのに三雲のその言葉に従い、ピタリと静かになっていった。
「……もしかしてその笛って聞いた相手に命令して操れるんっすか?」
その様子を見て、センスはピンと閃いたままに質問した。
「う、うん、ま、まぁそんなところかな」
特に隠すような素振りも見せないままに三雲は答えるとセンスは両肩を強く掴み揺さぶりながら再度聞く。
「一体なんて命令したんすか、あの真ん中で倒れてる死体は本物なんすか!? 一体誰なんすか!?」
「……両親さ、僕のね」
「両親!? な、なん……」
「僕は!!」
センスの問いかけの途中で三雲が声を上げる。
「僕は…自由になりたかった! ぼ、僕はう…生まれてからずっと両親のく……傀儡……言いなりだった。やりたい事、楽しみたい事いっ…いっぱいあった、けど親の命令でそ…それらはやらせてもらえなくて、唯一の……本当に唯一つの生き甲斐が笛だったんだ。なのに……なのにあの二人はその生き甲斐すらも………だから……」
それは三雲の心の奥からの叫びだった。
喜びも、理解者も、自分の人生もすら奪われ続けてきた一人の少年の口から漏れ出した夢を守るための想いにセンスは爪が突き刺さり血が吹き出しそうなほど拳を強く握った。
「……センスねぇ」
「…え?」
「センスねぇって言ったんすよ! そんなに追い詰められていたんならなんで昨日俺に相談してくれなかったんすか、出会って日は浅いっすけど、俺たち友達じゃなかったんすか!?」
叫び終えたセンスの目元に涙が滲んでいるのを見て、三雲も目を丸くしながらそこを潤ませた。
「……えっ? ……そ、そういえば、センスくん、き、君にはこの笛の能力が効いてないんだよね? じゃ、じゃあなんで僕とと、友達に?」
「笛なんか関係ねぇっす! 俺はただお前と……琴音と友達になりたかったからなったんすよ、琴音は依頼って言ってたっすけど、そんなもんなくたって、笛の力がなくたって俺たちは友達なんすよ!」
実際はほんの数秒だが、永遠にも感じる様な長い、長い沈黙の末に
「……そっか…………そうだったんだ」
三雲は目線を下に落としたままそう呟くと
「はは……ははは……友達か……ははは……友達なんて初めてだ……友達……友達か……はは……ううっ……ご…ごめん……ごめん………ごめんなさい……ご……ごめ……ごめ……」
最初の方は力無く笑っていたが、徐々に表情が崩れていき、最後には話せなくなるほど泣き出し膝から崩れ落ちた。




