第二章その三 『掌握の笛④』
そして現在にいたる。
薄暗くてよく見えないが、体育館の真ん中らへんで倒れている二人はもう動いていないどころか、もうまともに形を留めてすらいない。
――嗚呼さっきまでは楽しかったな……。
結局昨夜集めた人だけじゃなく今夜演奏を聴きに来た人たちにも命令したから百人を超える人数が僕の願いを聞いてくれた。
両親の断末魔の叫びと僕の笛の音がいい感じに二重演奏を奏で、まさに芸術的だった。
死によって生から解放される両親、そんな両親から解放される僕、僕と両親を解放させてくれた観客のみんな、全員がいたからこそ僕の人生で一番といっていい演奏会となった。今日こそまさに“幸福の音楽会”という名がふさわしい。
僕にとって笛の演奏は生きるという事、自分が自分でいるためのアイデンティティなんだ、それがわからない人間は消えてしまえばいい。
ーーそれが僕の“幸福”なんだ。
■ ■
「はははははははははははは、これで僕は自由だ、自由だ、自由だーーー」
ーーさてとあんなのでも一応は両親だ、鎮魂歌くらい吹いてあげようかな。
なんて三雲が演奏の準備していると突如入り口付近から叫び声が聞こえた。
「何………やってる……っすか!!? ……三雲ぉぉぉ!!!!!!」
「……あっ、きてくれたんだセンスくん」
そう言って微笑む、もっともセンスには昨日僕の笛の音を聞かせて、『友達になって』と『明日きて』という命令をしているのでくるのはわかっていたのだが……。
しかし、センスの様子は何処かおかしくひどく怒っている様子であると三雲は気づく。
当然のことなのだが、三雲にその理由は分からない。
「何やってるってきいてるんすよぉぉ!!」
センスは拳を握りながら走って三雲に近づいていく。
「な、なに!? なんで怒っているの? と、止まってよ!」
三雲は恐怖を感じ笛を吹いてそういうが、センスが止まる様子は無い。
「な、なんで!? じゃ、じゃあ、み、みんな、その男の子を止めて!!」
三雲は再び笛を吹いて命令したが……
「なんだ!? なにもきこえない!?」
「笛の音が聞こえない、えっ? 今演奏してるよね!?」
「何も聞こえねえーーってなんだよこの……人……? し、死んでんのか?」
「おい、誰かなんかしゃべれよ!」
「聞こえないよ、お前今口パクしてるだけか!?」
「音が、音が無い! なんで!? 俺の持ってるこの棒はなんだよ!? 血塗れで倒れてるこれはなんだよぉ!!? 誰か答えてくれよぉ!? 答えろよぉ!!」
「……え、み、み、みんな何があったの!? なんで、なんで笛の力が使えないの!? みんな助けてよぉぉぉ」
ステージ下の観客は皆口を揃えて、音が聞こえなくなった、何も聞こえない、などと言っているようだ。
三雲は必死に笛を吹くが、センスはもうすぐそこにいた。
センスは明らかに様子のおかしい三雲の目を覚まさせるべく握りしめていた拳で思いっきり頬を殴りつけた。
「ぐぁっ!」
三雲は少し飛んで倒れる。
その際手から離れて落ちた銀色の笛にはセンスの目が赤く染まって写っていた。




