第二章その四 『掌握の笛②』
あの日は今から約半年前くらい経つだろうか、その日もやはり学校のテストで九十八点という殆どの高校生にとっては夢のような点数を取ったのにも関わらず両親から責められた日のことだった。
いつものように夜こっそりと家を抜け出し日課となっていた笛の練習を土手のベンチでしていると、ひとりの眼鏡をかけたスーツ姿の男性が近づいてきて
「前々からこの道を通るたびに耳にしていましたがあなたの笛の音は素晴らしい。ーーしかしそんなちゃちで古い笛では思うように演奏できないでしょう。こちらの笛を差し上げます。よろしければぜひお使いください。こちらの笛は“掌握の笛”といって名前の通り人の心を掴みます。ーーどうぞ」
そう言って袋を手渡してきた。
僕は急に話しかけられた事が怖く、特に何も返事が出来ないままに渡された袋を受け取ってしまった。
返そうにも上手く言い出せず、男はそのまま背を向け
「それでは」
とだけ言い残し去っていった。
少しして中身を見ると幼稚園の頃から吹いているおもちゃの笛と違いとても立派な笛が入っていて、その笛の持ち手のところには何かのロゴか分からないが翼に鎖をかけたようなマークが描かれていた。
ありがたいと思う反面、どう考えても怪しいのでその笛を吹く事はしなかった。
それから数日経過し――そういえば言い忘れていたが、僕は小学生の時からいじめを受けていた。勉強ばかりでアニメやゲーム、漫画なんて見たことなくクラスメイトとの話にはついて行けず、ナヨナヨした気弱な僕は彼らにとって絶好のいじめの的だったのだろう。
その日も僕は数人のクラスメイトに暴行を受けていた。
殴られ、蹴られ……そうしているうちに男性に道で遭遇した場合いつでも返せるように持ち歩いていた“掌握の笛”がカバンから飛び出した。
それに気づいた一人がそれを面白い物を見つけたようにそれを取り上げると
「お前、笛なんか持ち歩いてんのかよ、きめぇな、なんか演奏してみろよ」
なんて言い、周りにいた奴らも
「そりゃいいなーーおい三雲、もし演奏がよかったら今日は勘弁してやるよ」
「やれよ三雲、断るわけねーよな?」
と強要してきた。
「え、え、えっと、そ、その笛は、ちょっ、ちょっと」
「あん!? いいから吹けよ!」
しどろもどろと断ろうとしたものの結局彼らの威圧感に怖気つき僕は演奏を始めた。
「ど、どうかな、も、もうゆ、許してよ」
演奏を終えたが、どうせ何か適当に文句をつけてくるぞと身構えていたのだが、
「あぁわかったよ、いいよな? みんな」
予想に反して彼らは驚くほどあっさり、目をトロンとさせながら去っていった。




