第二章その三 『怪しげなイントロ②』
「三雲ー!!!」
演奏を終えてしばらく流れる雲を眺めていると一目見ただけで不良だろうとわかる男子が手に荷物を下げて走ってきた。
「あのパン屋で開店前から並んでお前が好きだって言っていた個数限定販売のパン買ってきたぞ」
「うわぁ、ありがとう……でもどうしたの少し前まで僕をいじめてた君がなんでこんなことしてくれるのかな?」
「わ、わかってんだろ!なあ、頼むよ、聞かせてくれよその笛の演奏をよぉ!!」
含みのある笑みを見て、男子は三雲の前で跪き三雲の足に抱きつくような形で懇願し始めた。
「お願いだ! 俺に夢を……俺を幸福にしてくれぇ!」
「……わかったよ、じゃ、これ食べるまで待っててくれるかい?」
「わかった!」
男子はパッと離れると三雲は袋を開けて鼻に広がる焼き立てのパンの香りに心躍らせた。
■ ■
「……ただいま」
三雲はパンを食べた後約束通り小一時間ほど演奏をすると帰宅した。
帰ろうとした時男子からは「もう一曲、もう一曲」と鬼気迫る勢いでせがまれたが、そんなものは無視をした。
「……ちょっと待ちなさい、琴音」
二階の部屋に行こうとすると階段の前に両親が立っていて、三雲の行くてを阻む。
ーーあぁ、面倒くさいことになるな
と三雲は露骨に顔を顰めれば、両親も同じような反応を見せて言う。
「お前今日も学校に行かないつもりか?」
「学校の先生からこのままじゃ、いくら払ってもあなたを卒業させることはできないって言われたのよ」
三雲は何も言い返さない代わりに笛の入った袋をぎゅっと強く握りしめる。
「お前、まだ笛なんてくだらんことばかりしとるんじゃないだろうな」
「く、くだらなくなんて……くだらなくなんてない……」
ぽつりぽつりと小さい声で反論する三雲だったが
「くだらんことだ!!」
断言する様に怒鳴られた。
「そんな笛なんかでこれから先一生食っていけると思うのか? お前ももういい歳だろ、くだらん夢を見るのは終わりにしろ!!」
「せめてもっと別の才能だったらまだ少しくらいは将来性があって良かったのにねぇ……よりによってあんなチャチな笛の演奏が少しばかり上手かったからって一体何になるって言うのよ」
「……さい」
「ん!? なんだ!? はっきりいえ!! お前はいつも、いつもボソボソ喋りおって!! そんなんだから……」
「うるさい!」
「!? なんだと、貴様!!」
「琴音!あなたお父さんに向かってなんて口の聞き方をしてるの!!」
「うるさい! うるさい!! うるさいんだよ!」
そう叫ぶと三雲は逃げるように家を飛び出すと、後ろから聞こえる発狂にも聞こえる怒号を無視して走り去った。




