第二章その二 『歓迎会①』
「とりあえず昨夜“幸福の音楽会”を調査した結果“幸福の音楽会”は怪しい団体などではありませんでした。もちろんクスリのクの字もありませんでしたよ」
昨日と同じファミレスに秋風空を呼び出したセンスは調査の結果報告を行う。
「そうですか、よかったぁ」
神妙な面持ちだった秋風空もセンスの言葉に
「それで、こちらが、報告書と請求書などになります」
センスは樅木に作製ってもらった資料を秋風空に渡すと、細かく報告書の内容について逐一説明してゆく。
「わかりました。本当にこの度はありがとうございました」
嬉しそうに、安心したように何度も何度も頭を下げる秋風空に
「いえ、また何かありましたら是非クロモミ探偵事務所まで」
依頼達成後に絶対言うようにと樅木から命令されていた言葉を告げると秋風空はもう一度礼を述べると店を後にして帰っていった。
「ふぅっ、喜んでもらえてよかったっす」
店内で見る秋風空の立ち去る後ろ姿ですら嬉しそうにしているのが一目瞭然であり、それを見てようやくセンスは緊張の糸を解いた。
「さっ、俺も帰るとするっすかね」
センスも席を立ち自分の分の会計を済ませ店を出て帰路に向けて歩みを進める。
その途中
「うぇーん」
と人目も憚らず悲しそうに泣く少女の声が聞こえて来た。
「どうかしたっすか?」
「ミミちゃんがいなくなっちゃったの!」
「ミミちゃんっすか? ……えっとその子は猫ちゃんっすか? それともうさちゃんっすかね?」
「うさぎの人形なんです。この子がずっと大事にしていて、今日も朝から抱いて出かけていたんですけどいつの間にかどこかに起き忘れちゃったみたいで」
「そうっすかーーよしっ! もう泣かなくて大丈夫っすよ、お兄ちゃんがすぐにミミちゃんを見つけてあげるっすから」
その言葉に少女はぐずりと鼻をかんで、声を震わせながらもどこか希望を託すような瞳でセンスを見つめる。
「……ほんとぅ?」
「うん! ーーちょっと待っててねっす」
すんっと、ひと嗅ぎして少女の匂いを覚えると、数回すんすんと周囲の匂いを嗅ぎ分ける。
「……何やってるんですか?」
おかしな様子のセンスに怪訝そうな顔を向けてくる女性のことは放っておいて、少女のものと同じ波長の匂いを探すことに専念する。
そうして三十秒ほどが経過した時
「見つけたっす!」
そう言ってセンスが走り向かうは二百メートルほど先に設置されている自動販売機。
その周辺を探すと隣に置いてあったゴミ箱の上に一目で長い間大切にされていたと分かるクタクタになったうさぎのぬいぐるみが置かれていた。
「これっすか?」
「あっ! ミミちゃんだ!」
センスがぬいぐるみを持ってくると思った通りそれがミミちゃんだったようで、少女はとたんに泣き止みパァっと笑顔を見せた。
「はい、もう無くしちゃダメっすよ」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
「本当にありがとうございました。あんな一瞬で見つけちゃうなんて凄いですね、どうしてあそこに起き忘れていたって分かったんです?」
「それは能力で……」
「能力?」
「あ、いや、えっと……俺探偵やってるんっすよ、だから操作能力……っていうのか分かんないっすけど、失くしものならちょっとのヒントで大体どこに落ちているか分かるんっすよ」
「へぇっ、探偵さんなんですか、どうりでーーまた何か失くしものした時はお願いしようかしら」
「そうですね、そんな時は是非ともクロモミ探偵事務所までお問い合わせくださいっすーーあっちなみにこれが番号っす」
センスはポケットから手帳を取り出しサラサラと電話番号を記入すると、そのページを破って手渡した。
その様子を見ていた少女がセンスの服の裾を笑いながら引いた。
「私のミミちゃん見つけてくれてありがとうお兄ちゃん、あんなに簡単に見つけるなんてまるで魔法使いみたい! どうしたらあんな事できるようになるの?」
「それは……秘密っす」
「え〜ケチっ!」
「こらっ、お人形さん見つけてもらったのにそんな事言っちゃダメでしょ」
「えへへ、ごめんなさいーーありがとうお兄ちゃん、じゃあね」
「ありがとうございました。では失礼します」
「……どうしたらできるようになるか……っすか」
手を振りながら後ろ向きに去ってゆく少女に振りかえした手を下ろすと、センスはぽつりと呟いた。
ーー俺が知りたいっす……
クロモミ探偵事務所を訪れてからもう1か月が経とうというのに失った記憶についても、なぜか身に付いている五感を操る能力についても何一つ……本当に何も判明していない。
きっとすぐに記憶は戻るだろうと渋々了承したセンスという名前もなんだか馴染んでしまい、記憶喪失前からそんな名前だったんじゃないかなんて思うことも最近では多々ある。
「はぁっ、本当に俺は一体何者なんすかねぇ?」
正直探偵の依頼や人助けなどしている暇はないのではあるが
『本当にこの度はありがとうございました』
『ありがとうお兄ちゃん!』
ーーまぁ、いいっすか
今日二度も受けた感謝の言葉を思い出しながら遠目に嬉しそうにウサギのぬいぐるみを抱く少女を写すとと、センスはクスリと笑い再び家路に向けて歩み始めた。




