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ハイセンスワールド  作者: 桐生 ライア
幸福の音楽会編
53/84

第二章その二 『幸福の音楽会②』

 「ではまず最初に演奏するのは“小さな幸せ”です」


 それだけ言うと少年はすぅっ、と一つ小さく息を吸うと笛に口付け演奏を開始した。


 「……えっ?」


 少年の奏でる笛の旋律を聴いた瞬間センスは間違いなく見た。いや、感じたという方が正しいのかも知れないがそれでもセンスの脳内では

 黄金色の夕焼けが写る河川、犬の吠える声が聞こえてくる日差しの差すベッド、草花の清々しい香りが漂う散歩道、雨上がりの土の匂いと遠くに見える虹。


 そんな何気なくも幸せに思えるような風景がまるでスライドショーのように次から次へと浮かんでは消えてゆく。


 凍てつきそうな暗い体育館の中だというのに現在センスの精神はぽかぽかと暖かくのどかで陽気な野原の中にいるのだ。

 

 心地よい時間は過ぎるのが早く、あっという間に三分ほど経って一曲目“小さな幸せ”の演奏は終了した。


 すると最初に少年が登場した時と同じくらいうるさな拍手が起こった。

 所見時はただ戸惑っていただけだったセンスも少年の奏でる旋律に感銘を受け、他の観客達と同じく拍手を送った。もちろん今は聴力を弱めたりはしていない。


 「ありがとうございます」


 しばらく爆発の如く拍手を全身に受けていた少年はそう言ってペコリと頭を下げると


 「では次の曲に移らせていただきます、二曲目は“思い出”です」


 そう言って演奏を開始するとまたもセンスの脳内別の場所へと飛んだ。


 初めて樅木に連れられクロモミ探偵事務所に行った時歓迎会と称してメンバーのみんなでゲームをしたり鍋をつついた。寒い中ハクトに奢ってもらった熱々のコロッケを食べた。カコと二人で依頼に行き仲の良い友達になれた。


 どれも記憶を失ったあとすなわちここ一か月以内の出来事であるのだが、なんだかもうすでに懐かしさを感じる。


 暇で仕方なかったので突如開催した一発芸大会、迷子になっているというのに真夜中の森で呑気に眠っていた樅木、大盛りのステーキが食べれず炭にしたカコ、可愛らしい猫のモノマネをしていたハクト、真っ白い部屋の中で自分と対峙するナイフを持った女性。


 「……ん? あれっ?」


 ーー誰っす? この人……?


 ずっとクロモミ探偵事務所のメンバーの顔だけを思い浮かべていた中、いきなり見知らぬ女性が登場しセンスは首を傾げたが、それと同時に二曲目が終了したらしく拍手が巻き起こりセンスも慌てて拍手した。

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